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ビュー・オブ・デンティスト12

「月夜……先生。」

「藤林さん、彼の話はまともに聞かなくてもいい。」

月夜先生は鶴さんを睨みつけた。


「あ、久しぶりっつー感じで?月夜先生また来てしもうたよ。」

「そうか。」


月夜先生はこないだよりも幾分余裕がありそうだ。


「やつがれがワイズについたから真剣さが足らなくなったん?もう関係ないっつーことかい?寂しいこって。」

鶴さんは不敵な笑みをかりんに向ける。


「彼女、かわいそうだからはよう解放してやったらいかが?」

「余計なお世話だ。」

「あ、そう。」


こないだとは会話がまるで違う。


こないだは月夜先生に対し、鶴さんは思いやりに近いものを見せていた。


今はそれがまったく感じられない。それだけなのだがなんだか怖かった。


これからなにか起こりそうなそういう予感がかりんの心中で渦巻いていた。


「で何しに来た?」

「何しに来たんかねぇ。」


鶴さんは勝手にユニットから立ち上がると院長の方へよたよたと歩いて行った。


「何する気だ……。」

月夜先生の顔がさらに厳しくなる。院長は背を向けて一生懸命に患者さんを治療している。


アシスタントに入っている干将さんは鶴さんに気がついていたが患者さんの手前、言葉を発する事もできなかった。


患者さんを動揺させることはできない。月夜先生は止めに入る事もできなかった。

かりんは不安そうな顔をこちらに向けている。


毎日に飽きた人はハプニングを望むが本当の心は平穏、今の毎日がずっと続けばいいと思っている。


……彼女も……藤林かりんもそう思うはずだ。

度の過ぎた出来事は人の心に支障をきたす。


彼女の精神も壊れてしまうかもしれない。


「月夜先生……。」

「大丈夫。あの患者はちょっと変わってて我々も手を焼いているんだ。」


こんな言葉を並べてみるがかりんの不安な顔は変わらない。


「ちょっとあんさん、治療止めてもらってええ?」

鶴さんの言葉に院長の肩がぴくっと動いた。


「ごめんなさいねえ。今大事な治療の最中でして……。」


「なに言うとんの?それCRっちゅーもんだろ?

虫歯削ってそれでつめて光で固めて研磨してはい終わり。


これから研磨段階ならもう起こしてゆすいでもらってもええ気がするけど。」


「よく御存知で。ですがここは一気にやりたいんです。

患者様の負担を減らしたいんで。」


院長は患者さんに口を休めてもらってから鶴さんににこりと笑顔を見せた。


「それどころじゃないっつーてんの。」

「そうですねぇ。でも俺は患者様第一ですから。」


院長は奇妙な笑みを浮かべている鶴さんに穏やかな笑みを返す。


「ほお……歯科医を通すと……。それにしてもあの子、人間だろ?なんでいるんかな……。」

「さあ?俺には何のことだか。」


院長は笑みを絶やさないがその瞳は底冷えするほど冷たくなにか威圧のようなものを感じた。


「しらばっくれんな。」

「……。」


院長は目で威圧していた。鶴さんはその場に立ったまま顔を引き締める。


「今度はあの子を使い何をしようとしてるんかいな?」


「彼女は歯科衛生士です。患者様からの評判もなかなかいい素晴らしい衛生士です。」


院長の言葉から裏が読み取れた。彼は……本当はこう言ったのだ。


……俺達の平穏を壊すな……。俺達の世界に……触れるな……。


と。


「ふん。ワイズから言伝だよい。……逃げられると思うなYO。だそうで。」

鶴さんはそれだけ言うと待合室へと去って行った。


「……逃げられると思うな……ねぇ。望むところだね。」


院長はぼそりとつぶやくと治療に戻った。アシスタントの干将さんは気難しい顔で院長を見つめていた。


「……もう隠せない。藤林さん。」

月夜先生は状況が理解できていない顔のかりんに向き直った。


「あ、あの……。」

「……あとで話がある。とりあえず次の患者様を通して。」

「はい。」


かりんは素直に月夜先生の患者さんを通す準備に取り掛かった。


だが心にわだかまりがあった。


自分は何も知らないがここの医院のすべてのスタッフがなんらかの事情を知っている。いくら自分が新米だと言っても納得がいかない部分があった。


ユニットの側に白いきれいな羽が二、三枚散らばっていた。


あの鶴さんとかいう患者さんもおかしいがこの医院もどこかおかしい雰囲気じゃないのか?


かりんの考えは悪い方向に膨らんで行った。

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