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ビュー・オブ・デンティスト11

かりんと院長はうどんを食べ終わりほっとした顔つきでうどん屋を出た。


「おいしかったですね。」

「うん!また行こうか。」


「今日はありがとうございました。次の機会があれば私がおごりますね。」

かりんの言葉に院長は複雑な顔をした。


「うーん。藤林君におごられなくても俺は大丈夫だよ。そんな心配しないでよ。次誘いにくくなるじゃないか。」


「すいません……。」

かりんが返答に迷いうつむくと院長は笑い出した。


「ほんとおもしろいな。藤林君は。」

一言二言会話をしながら駅前を歩いているとアヤさんに会った。


「あら?院長と藤林さん。」

「アヤちゃん、まだ駅前にいたのかい?」

アヤさんをみつけた院長は驚きの声をあげた。


「ええ。ごはん食べて帰るところです。」

「そうなんだ。ひとりで大丈夫かい?」

「ええ。大丈夫です。ありがとうございます。院長。」


アヤさんはにこりと院長に微笑むとかりんに手を振り去って行った。


「ほんと彼女は大人すぎるのかなんなのか……。」


院長はため息をつきながら走り去るアヤさんを見つめていたがその瞳は鋭く光っていた。


かりんは駅前で院長と別れ、家に帰った。

なんだかとても疲れていたのでお風呂に入ってすぐにふとんに入った。


すぐに眠気が襲ってきてかりんはあっという間に夢の中へと旅立つ事となった。

その夢はいつもみる夢とは違った。


黒髪長髪のなにやら着物をきた幼女が泣いている。

顔など細かいパーツはよくわからない。


『本来、まだ続くはずの人の歴史がなくなってゆくのじゃ……。まだ生きられるはずの人間の歴史がきられてゆく……。


ワシは……どうすればいいのじゃ……。怖いのじゃ……。怖いのじゃ……。誰か……誰か助けて……母上ぇ……父上ぇ……』


その声は震えており、今にも崩れそうだ。

その後、なぜかアヤさんが出てきた。


『私は時神。現代の人の時間を管理する者。私は人々の歴史を見つめる事はできない。私が守るのは時間、時計だけ……』


「……はっ。」


そこでよくわからないが目が覚めた。

あたりはまだ暗く、時計を見たら午前二時だった。


……嫌な時に目が覚めたなあ……それになんだかわけわからない夢を見たような気がする。


「……まあ、いいか。」


寝ぼけまなこで少し考えた後、かりんは再び目を閉じた。


……今日院長といっぱい話せたな……

これから院長にもっと近づけるのかな……


かりんは微笑みながらごろんと寝返りをうった。


この世界は不変だ……。俺はそう思う。

だが世界は不変でいいと思う。


ただあの頃はこの不変から逃げ出したかった。

理由はよくわからない。なんだか不変であることに恐怖を覚えた。


このまま何もないまま自分は終わってしまうのか……。

何かを見つけたかった。自分がいる事を知ってほしかった。


今思えば不変でよかった。

自分で自分がおかしい。


その結果、こんなバカな事をしてしまった。

もう平和な環境に戻る事はできない……。


俺は……本当に馬鹿者だ。



「おはようございます!」

かりんは元気よく職場に顔を出した。


「ああ、おはー。」


かりんに反応したのは掃除機をかけている小烏丸さんだった。

まだ他のスタッフは来ていないらしく、いるのは小烏丸さんだけだ。


「あれー☆月夜先生じゃん。今日。」

かりんの肩に誰かの手が乗った。


「!」

かりんは驚いて振り向いた。後ろにはレーヴァンテインさんと干将さんがいた。


「大丈夫?藤林さんは月夜先生苦手みたいだけど。」

「え?大丈夫です。あ、おはようございます。」

「うん。ならいいんだけどね。おはよう。」


干将さんはかりんの肩をぽんと叩くと歩いて行ってしまった。


「藤林ちゃん、なんかあったらすぐ言ってね☆」

レーヴァンテインさんは少し心配そうな顔をこちらに向けながら去って行った。


……私、月夜先生が苦手なんて言ってないんだけどなあ……


ぼうっと立っていたらまた声がかかった。


「おはよう。藤林さん。そんなところに突っ立って何しているの?」

「え?あ、おはようございます。アヤさん。」


「うん。」


「あ、ずっと気になっていたんですけど……アヤさんの苗字ってなんなんですか?アヤって名前ですよね?」


かりんはアヤさんに思っていた疑問をぶつけた。アヤさんの顔は少し曇っていた。


「そうねぇ……。」

「あ、ごめんなさい。ちょっと興味本位でしたので……。」


「ううん。いいの。私は時神ときのかみアヤ。珍しい苗字でしょ?」

「ときのかみ……。あ……。」


かりんは唐突に昨日の夢の事を思いだした。


「?」

「あ、あの。昨日変な夢をみて……アヤさんが出てきたんですよ!時神がどうとかって!」


「そうなの?おもしろい夢ね。」

アヤさんの顔は笑っていたものの目はまったく笑っていなかった。


「おもしろいって……ほんとにたいした夢じゃなかったんですけど……。」

「いいえ。おもしろい夢だわ。」


アヤさんはそう言って自分のロッカーへ向かって行ってしまった。

なんか変だなと思いながらかりんもロッカーへと向かった。


……私の夢をね……月夜紅……それは自殺行為よ……


アヤは何も言わずに白衣に袖を通した。


いつもの通りにはじまり、院長と月夜先生が出勤してきた。

「今日は藤林さん。よろしく。」

月夜先生が引き締めた顔でかりんに挨拶してきた。


「はい。お願いします。」


かりんも月夜先生に挨拶を返した。


「昨日はなんか……夢をみたか?」

「え?」


月夜先生のいきなりの発言でかりんは戸惑ってしまった。

この先生からプライベートな話を聞かれるとは思っていなかったからだ。


「いや……たいしたことではないが。」

「見ました。アヤさんと……黒い髪の女の子……が……。」


「そうか。」


月夜先生はそれだけ言うとカルテラックを指差した。カルテラックには一枚のカルテが入っている。


「通して。」

「あ……はい!」


かりんは慌ててカルテを抜き取った。


……え?……鶴亀……鶴……


かりんは一瞬止まったが首を横に振り待合室に向かって行った。


「鶴亀様!鶴亀鶴様!」

「ああ、はいよっと。」


またあの人だった。

白い着物に白い髪、毛先だけ黒い。そして赤い毛皮を羽織っている。


「こ、こちらへどうぞ。」


かりんはなぜか動揺していた。受付をしているアヤさんの視線を感じふいにアヤさんを見る。


「……。」

アヤさんは早く中に通せと目で言っていた。かりんはいつもの笑顔で鶴さんを中に入れた。


……この人が来ると空気が変わる……。


月夜先生も怖いし院長ともなんだかもめている感じだったし……私達の平穏を……壊さないでほしいな……。


「まだ働いとんのかい?あんた。」

「……え?」

「この医院がそろそろおかしい事くらいわからん?」

「おかしい……?」


かりんは動揺しながら鶴さんをユニットに座らせる。

震える手で鶴さんの首にエプロンを巻いた。


「ここはあんたみたいな人間が清い心で働く職場じゃない。


もっと広い心で周りをみなされ。ここには人間なんておらん。


ここにおるのは神だけ……神だけなんよ。」


「そ……そうですね……。」


かりんは真剣な目をしている鶴さんにどう反応したらいいかわからず、とりあえず同意の言葉を口にした。


「ほんとにわからんの?この職場が普通とは違う事に?」

「そ……それは……。」


かりんはぎゅっと白衣を握りしめた。なんと答えればいいかわからなかった。


「やめろ。鶴。」

ふいに後ろで声がした。

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