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第6話 毒舌少女とケモミミちゃん



「あら。お帰りなさい、ドロシィ。貴女は朝に見ても、夜に見ても可愛いわね。食べちゃいたい。いえ寧ろ食べられたい」



 到着早々、驚天動地に立たされた。


 まさか俺の生涯で本物のメイドさんをお目にかかれる日がこようとはなぁ。いや、メイドのセリフとしては何処かが致命的にオカシイ気もするけれど。

 まさか異世界じゃこれがデフォだったりするのか?だとしたら普通にショックなんだが。



 ロンドルシア郊外。

 喧騒にまみれた商業エリアを抜けて、その先の閑静な住宅地のそのまた外れ。

 ヴァンデール大邸宅は海に面した小高い丘の上という絶好のポジショニングにて、どっしりと居を構えていた。



「ただいま戻りましたの。セン、ウィルは今どちらに?」



 ドロシィが出迎えてくれたメイドに尋ねる。


 多分もう慣れっこなんだろうな。あんなセクハラ紛いの言葉を掛けられても、お嬢様は実に泰然自若としていらっしゃった。



 問われたセンと言う名の彼女。見た目は俺とそう変わらないくらいか。たぶん十七歳前後。

 真っ直ぐ垂れた長い黒髪を右側に流して、片目が隠れてはいるが間違いなく美少女と言える容姿だった。


 少し青みがかった切れ長の左目が主人を捉える。

 抑揚の少ない、しかし舌鋒鋭い声調で。

 面妖な、ともすれば猟奇的とも言えるポーズを取りながら、この場には居ない第二の主人へ毒を吐いた。



「あのおバカ様、もとい。ウィリアム様なら執務室で忙殺されているわ。さっきからしきりに、妹分が足りない、とか戯言を吐いているけれど。煩わしい」


「あぁん、もぅ……。わかりました。ロク」


「……。ん?」



 俺は中空に描いた二次元メイドに想いを馳せていた。

 密かにリアルメイドという存在にトキメキを抱いていた俺に対し、このセンなる少女が与えてくれたダメージは、どうやら相当なものだったらしい。


 ドロシィは呆れたように再度ため息を吐いた。



「何となーく気持ちは察しますけどね。とりあえず、ロクには侍女を一人付けますの。屋敷の中を案内してもらうといいでしょう。私は兄に今日の事を報告しに行かなければならないのです。ホロ〜。いますー?」


「はいっすー」



 呼び掛けに応じ、パタパタと軽快な足取りで屋敷の奥から小さな女の子が登場した。

 主人の前で停止し、人懐っこく目を細めている。

 舌ったらずな口調で言った。



「御用っすか〜、ドロっち?」



 耳だ!耳があるぞ!いや耳くらい誰にでもあるけどそうじゃなくって!


 新たに現れたメイド服の女の子は、実に愛らしいケモミミを頭のてっぺんに生やしていたのだ。

 声に反応し、ぴこぴこと小刻みに動いている。

 栗毛色の髪は、肩よりも少し上で揃えられたショートボブ。ドロシィと同じく癖っ毛だ。

 よく見ると、お尻の辺りに、もふもふの尻尾まで携えられているではないか!


 それは、俺のメイド観が確かに回復した瞬間であった。メイド万歳!



「ホロ。この人を客室まで案内してあげて」


「りょーーかいっす!」


「センは食膳の準備を。用意が出来たら呼んでちょうだい」


「か し こ ま」


「ではロク。また後ほど」



 こなれた様子で指示を飛ばすと、足早にその場を去っていった。

 センさんも、恐らくは調理場と思われる方向へと消えた。

 あの人、なんだか終始こちらをチラチラと気にしていたように見えたのだが、うーむ?


 だだっ広い玄関口に残されたのは、今や俺とケモミミメイドさんのみである。

 眠たげな犬の如き表情で言ってきた。



「自分はホロブランカっす。ホロでいいっすよ」


「俺はクロバ=ロクだ。ロクって呼んでくれ」


「あいさー」



 かーわうぃー。





☆ ☆ ☆





 ヴァンデール邸内。


 豪奢なレッドカーペットが敷かれた閑寂な廊下を、俺はホロと二人で歩いていた。

 辺りには、なんとも高そうな壺やら絵画やらの調度品が等間隔で並んでいる。


 館内は割と明るいけど光源はなんだろうな。

 やっぱりファンタジーらしく光る鉱石とか?

 それらしい物はまだ一度も見ていないが。


 いや、そんなことより!

 さっきからどーーしても気になる事があるのだ。

 少し先を行くホロの尻尾だ。ネコジャラシのようにフリフリと揺れて俺を誘ってやがる。

 動物大好きな身として、これは堪ったものではない。

 ちょっと頼んでみることにした。



「な、なぁ。ちょ〜っとお願いがあるんだけどさぁ」


「えっちぃのは嫌っす……」


「いや、それはしねぇよ!?」



 この屋敷のメイドは性に敏感すぎやしないか?

 と言うよりも、ホロに関してはセンさんから悪影響を受けているのかもしれない。可哀想に。意地悪されていないかが心配だ。



「そうじゃなくって。その尻尾、ちょっとだけモフらせてくれないかな〜ってさ」



 そんなことなら好きなだけモフるっす。

 なんて甘い答えを期待してたんだけど、おやおや?

 なんだか頬が少し赤くなってませんかホロさんや?

 むぅ、とほっぺたを膨らませ、栗色の瞳で可愛らしく睨んできた。



「う〜、やっぱりえっちぃ事じゃないっすか〜」


「えっ!これえっちぃ事に当たんの!?ごめん!!」



 なんてこったい。

 存じなかったとはいえ、センさんと同レベルにまで落ちてしまうとは。



「じゃあ耳で」


「自首してほしいっす」


「そっちもかよ!!」



「あ、着いたっすよ」



 目の前にぶら下げられた餌にありつけないまま客室に到着してしまった。



 なんだろうなぁ、この……パン食い競争でパンを食い損ねたまま、ゆったりとゴールしたような感覚は?




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