賞金首
孫堅の部下が洛陽の井戸の底からお宝を回収した。伝国の玉璽、すなわち天子のハンコである。
孫堅はこれを隠し持ち、孫策は交渉の道具とし、袁術は実印とした。使ったのである。
袁術が新たな皇帝となる決意と共に、試し紙に判を押した。
並びひれ伏す配下のどこからか「天使」と声があがった。
文字違い、天子と大っぴらに呼ぶことに、はばかりがあったのだろう。
しかし当の袁術にしてみれば別にエンジェルでも構わない。むしろエンジェル万々歳。なぜならエンジェルのエンは袁家のエンなのだから。
彼は己の命運を委ねるほど、こじつけが大好きだった。
また、響きが”紹”よりも”術”寄りな点も彼を喜ばせた。
気を良くして、もう一度押した。また呼ばれた。このやり取りは手が疲れるまで続いた。
翌日、某業界にて、とある噂が広まった。
「エンジェルとおだてれば判がもらえるぞ!」
契約目当ての人々がこぞって列をなし、玉璽は乾く暇なしとなった。
袁術は民衆の、判を押したときに咲く満面の笑みを見て思った。私は愛されている。
対立者に、たとえ賞金首認定されようとも、何も怖くはない。
しかし所詮はただのこじつけ。多大な契約負担により国は疲弊し、袁術は追放された。
土地、財貨、部下、すべてを失い、血を吐いて……病院へ緊急搬送された。
入院だ、求められるがままに結んだ契約に医療保険が多々あった。
多重契約、おまけに特約全部乗せ。おかげで最新医療と手厚い看護を受けられた。
じきに回復するだろう。カモ扱いが、まさに怪我の功名となった。
はたして、早期解約を愚図った担当者の愛なしに、この結末はあり得たのでしょうか。
弁護側からは以上です。