王都からの脱出
狭い、暗い通路を俺はひたすら走っていた。手には光を放つ魔法具。これはラナミリア王女が持たせてくれたものだ。これのおかげで段差があったりしても躓くようなことはなかった。本当に彼女には感謝だ。
しかし、どれくらい走っただろう?
きっともう、俺が脱走したことに気付いているよな。追手が来る前に早いとここの街から抜け出さないとな。特にスーザンとは戦いたくはない。今の俺じゃ到底敵わないことは分かっているからな。
っと、そうだ。これからのこと考えてなかったな。いったいこれからどうする?
逃げるにしても、いったいどこに逃げるか……。変装も必要だよな。お金もないし……。
とりあえず、これからしなくちゃいけないことを整理するか。
まず第一に、この街、そしてこの国からの脱出。いくら王都から遠い町に行ったとしても、そこがマルトラス王国なら追手の危険性は十分にある。
第二に変装。まあ変装といってもフードとか被ったりするだけだがな。あっ、髪の色変えたほうがいいかな? どうしてか、サーガの髪の色は黒だ。生まれ変わっても髪の毛は黒色で少し不満に思っていたのだ。やはり違う髪の色に憧れてしまう。よしっ、ということで髪の色を変えてみよう。まあ、髪の色を変える魔法具とかあるのかは知らないが……。
第三に金だ。金を貯めなければならない。金を貯めなければ、変装のためのフードや魔法具なんかも買えないし、食品も買えない。それに武器だって買えない。今持っているのは、業物のロングソード二つにダガー、そしてあのナイフ。いくら業物の剣だって折れるときは折れる。その時に金が無ければ、お話にならない。
それから第四に強力な仲間集め。強力な仲間がいれば、それだけ逃げ延びれる可能性が増えるからだ。だがこれはあまり期待できない。俺の事情を知って売られでもしたら最悪だ。絶対に裏切らないと言えるような人物がいれば別だが、そんな人物など稀だろう。
と、まあ主にやることはこれくらいか。まあ、逃げているうちにやらなければいけないことが増えるかもしれないが、今のところはこれでいいだろう。
俺が頭の中でやるべきことを整理していると、薄っすらと光が見えてきた。
「……出口か」
この出口の先にあるのは、王都の下水道だとラナミリア王女は言っていた。
俺は光が漏れている壁まで走ると、一度止まり、向こう側に気配がないことを確認すると、そっとその壁を押した。今度は目で辺りを確認するが誰もいない。俺はほっと息を吐きだした。
シュタッと下水道に飛び出す。
──下水道に出たらそこを左に行け。そしたら出られるはずだ
俺はラナミリア王女が教えてくれたことを思い出すと、そのまま迷うことなく左へと走る。彼女が出られると言ったのだ。そこに疑う余地はない。
五分も走っていなかったと思うが、目の前に階段が見えてきた。おそらくあそこが出口だろう。
階段を駆け上り、また外に人の気配がないことを確認して、そっと上にある蓋のようなものを押し上げた。やはり、周りには人はいない。
俺は素早く下水道から出ると蓋を閉めた。
「……路地裏か」
ラナミリア王女から教えられたのは下水道までだ。どこに出るかまでは時間もなかったし、そこまで重要だとは思わなかったから聞かなかった。
三方は建物で囲まれ、行先は一つしかなく、とりあえずこの一本道を進むしか道はない。
──いいか、王都からの脱出は時間との勝負になる。お前が検問が始まる前に王都の門を抜けられるか、お前が門を抜けるより早く検問が始まってしまうか
俺はラナミリア王女の言葉を思い出しながら、この路地裏の出口まで急いだ。出口の陰から周りに衛兵などがいないか伺う。
よしっ。どうやらいないようだ。
俺は素早く路地裏から飛び出し大通りに出ると、王城がどこにある辺りを見渡す。
──王都に出たらまず、城を探せ。城の反対側へ行けば四つあるいずれかの門に近づくはずだ
この王都は王城を中心にして街が成っている。つまり、
王城の反対側へと行けばこの王都を抜けることができるのだ。ちなみに、ラナミリア王女の言う通り、王都には四つの門がある。それぞれ南門、西門などと呼ばれている。
路地裏から出て右の方角に王城が見えたから、俺は左の方角へととにかく走った。王都には人が溢れかえっているし、一人や二人走っていたとしても誰も気にしないし、人が多い方が衛兵などにも見つかりにくいから都合がいい。
俺はとにかく人が多い通りを使いながら走った。王都の出口の門が検問を始めればそこでゲームオーバー。俺は捕まり、王城へと連れて行かれ、そこで殺される。
それだけは避けなければならない。せっかく新たな生を授かったのだし、それに何より、ラナミリア王女が俺を逃がそうとした行いが水泡に帰してしまう。
──走る、走る、走る
無我夢中で走った。どのくらいの時間走ったのかは覚えていない。五分か十分か、二十分か。
だが、ついに目的のものを見つけた。
王都から脱出するための、その門を。
通常、王都から外へと行く者には衛兵などによる検査はない。その逆で外から王都へと入ってくる者には必ず検査があるのだが、今は別に気にすることはない。
「……間に合った……のか?」
ほっと一息ついた時だった。
衛兵の一人が慌ただしく門の横にある部屋へと入っていった。
「ちっ!」
俺は思わず舌打ちをして、少し俯き加減で足早に門へと急いだ。ここで走ったりしたら、怪しまれて止められるかもしれない。だから走りはしないが、それでも早く門を抜けるため急いだ。
間に合えっ! 間に合えっ!!
ドクドクドクと鼓動は早鐘を打つ。手は汗で滲み、息が乱れる。しかしそれでも足を止めることはない。
あと三メートル、二メートル、一メートル。
そしてついに外へ……。
間に合っ──
「待てっ!」
後ろから俺を呼び止める声が聞こえた。
「クソっ!!」
俺は悪態をつきながら全速力で走り抜けた。後ろから衛兵が何か俺に向かって怒鳴っていたようだが、もう耳には入らない。全神経を足に集中させる。おそらく俺の全速力は地球の短距離走で現世界記録保持者よりも速い。さすがは人工的に遺伝子操作された身体だ。
俺の全速力についてこられる奴はこの世界にもいない。
そう、魔法抜きなら──
俺は振り返ると目にした。三人の衛兵の身体から青白い何か靄のようなものが浮き出ているのを。それはおそらく何らかの身体能力を向上させる魔法を発動している証拠。
徐々に、徐々に距離は縮まる。
どうする……? このまま戦うか? だが今の俺が魔法を使ってくる相手三人を同時に相手出来るのか? 相手が一人なら……。それに、もし勝てたとしても、こんな王都から丸見えの場所じゃ、またすぐに追手に見つかってしまう!
どこか……どこか王都からでも見つかりにくい所はないのかっ!?
「──あれは?」
少し先に道から離れた場所に何かが見えた。
林……か……?
「……何とかあそこまでっ!」
衛兵との距離はだんだんと縮まっていく。そして魔法で作り出した火の玉、水の刃が飛んでくるがジグザグに走ることでそれをことごとく躱す。
衛兵との距離が縮まっていくのと比例するかのように林との距離も縮まっていく。
もう少し……もう少しだ……。
死に物狂いで足を、筋肉を動かせっ。お前にはそれしかないんだから。魔法など使えないのだからっ!
──駆け抜けろっ!!
俺は衛兵に追いつかれるよりも早く林の中へと入ることに成功した。
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