お前に生きて欲しい
ラナミリア王女は今、何と言った?
俺には……、
「……申し訳ございません。今なんと……? 私には、私が殺される、と聞こえましたが……」
「聞き間違いでも何でもない。私はそう言ったのだっ! いいから早く逃げろっ!」
ラナミリア王女は、いつも俺が見ていた、ツンとしていてもどこか優しさがこもっていた表情はなりを潜め、切羽詰まったような、そんな表情をしていた。この表情が彼女が嘘をついているという可能性を消した。
「……落ち着いてください。いったい何があったというのですか」
何かあったのか? ではない。何かあったのかは彼女の表情を見れば明らかだ。だから何があったのか? と聞いたのだ。 俺の言葉で少し落ち着いたのか、強張っていた表情が少しだけ弛緩した。
「……す、すまん。だが、本当に時間がないことは確かだ。だから手短に話すぞ」
そういって彼女が話してくれた話は、俺が思いもしないことだった。
曰く、彼女の父親、つまりマルトラス国王が怒り狂っていて、その原因が俺であること。その怒りを抑えるために、俺の父親であるスーザンに俺を国王の前まで連れてこさせて、自ら俺の首を刎ねる、ということらしい。
もしこの話を俺以外の人が聞いたなら、そんな馬鹿なっ、と一笑に付したに違いない。しかし彼女の目は本気だった。そして彼女がこんな嘘をつく女の子ではないということも知っている。
それになにより、一つだけ思い当たることがあるのだ。
──魔力ゼロ
もしかしたら……、いや間違いなくこのことが原因だろうな。
「……そうですか。分かりました」
「信じるのか?」
「嘘なのですか?」
「いや、嘘などではない……、ただ、到底信じられる話ではないと思ってな」
「確かに、そうですね。ですが私はラナミリア様を信じておりますので……。それに思い当たる節もございますし」
彼女の言葉は間違いなく本当だ。しかしだとしたら、彼女の言うように時間はあまりない。逃げるのならもう今すぐにでも逃げなければ。
俺は王城、そして王都からの脱出を決断する。
「ラナミリア様、伝えてくれてありがとうございます。どうやら貴女様は私の命の恩人のようです。助かりました」
俺はそう言って、彼女の横を通り過ぎこの部屋から出ようとする。だが、その前にラナミリア王女は俺に背中から抱き着いた。
「……ラナミリア様」
「……こんなことをしている場合ではないことは分かっている。だが、だが……っ」
彼女は息を詰まらせた。手も震えている。どうやら泣いているようだ。
きっと彼女は怖いのだ。いつも優しかった父がどこかに行ってしまうのではないか。あるいは、いつも優しく、時には厳しかったあの父親は偽物で、変貌したあの姿こそが本当の姿だったのではないのか、と。
俺には、この泣いている少女を安心させる言葉は分からない。だから──
「……ラナミリア様に涙は似合わない。貴女に似合うのは、笑顔だ。だから、笑ってください」
俺は微笑みながら、彼女に思っている気持ちを伝えた。
「……サーガ」
彼女は俺から手を放した。俺は彼女に向き直る。その瞳はまだ濡れていたが、それでも彼女は少し頬を染め美しく微笑んでいた。
「……よかった、もう大丈夫ですね」
「ああ、大丈夫だ。……その……なんだ……ありがとう」
「いえ、思っていることを言ったまでですから」
もう彼女は大丈夫だろう。その笑顔が俺に安心をもたらせてくれた。彼女がこれからどうするのかは俺にも分からない。それでも彼女ならなんとかやっていける、そんな確信が俺にはあるのだ。
「……サーガよ。武器はあるのか?」
唐突にラナミリア王女は俺に問うてきた。
「いえ……」
「ならば、武器庫に迎え。そこならばお前に合った武器も見つかるはずだ」
確かにその提案は魅力的だ。今持っているのは護身用のダガーのみ。これだけではこの城から脱出するのは心もとなかった。しかし……、
「武器庫はどこにあるかも分かりませんし、鍵なども持っていませんよ?」
「バカモノ。この非常時にそんなこと気にするでない。扉など蹴破ればよかろう。場所は私が教えるからついて来るのだ」
「ラ、ラナミリア様もついて来る気ですかっ!? 危険です!」
「分かっておる。だが、懇切丁寧に武器庫の場所を教えている暇などない」
「そ、それはそうですが……」
それでも危険すぎる。もし誰かに見つかれば、ラナミリア王女まで下手したら断罪されかねない。やはりここはダガーだけで──
「私はお前に生きて欲しい」
彼女の声は大きくない。それでも何故か彼女の言葉は俺の中に染み渡るように広がった。そしてその思いも……。
「……分かりました」
「よし、行くぞ」
俺たちはは部屋を出ると、ラナミリア王女の先導のもと、武器庫へと急いだ。
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