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俺が愛した女は武器だった。   作者: トマトケチャップ
第一章
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憤怒

 マルトラス国王城の中でも王族、もしくは護衛や専属メイドなどしか入ることが許されない場所がある。王族が住まう一画だ。そこの一室にラナミリアはいた。


「そういえば今日、サーガが来ているんだったな。久し振りに会いに行ってくるか」

「まぁ、ラナミリア様ったら、『そういえば』だなんて。本当は今日一日中サーガ様のことで頭がいっぱいだったでしょうに」


 ラナミリアの髪を櫛で整えていた女性、ラナミリア専属メイドのナタリーは困った妹を見るような眼差しでラナミリアを見た。


「なっ、何を言うかっ……! サーガのことはさっき思い出したのだ! 出鱈目なことを言うでないっ!」 

「はいはい、そうで御座いますね」

「むぅ……。信じておらんな、ナタリー」


 ナタリーはまだ若いがしっかりとしており、面倒見もいいのでラナミリアからしたら頼りになる姉のような存在であり、またラナミリアは対等に付き合えるような存在が欲しかった事もあり、二人だけの時はこうしてナタリーと軽口を叩きあうというのも良くある光景だった。


「そんな事より、サーガ様とお会いになるのですよね? なら、髪はどう致しましょう」

「……そんなことで片付けおった……、髪は別にこのまま下ろしたままでも良いだろう。サーガだしな。やつはそんなに髪型のことなど気にしないさ」

「ラナミリア様。そんな事ではいずれサーガ様を取られることになりますよ? ただでさえお強くカッコいいのですから」

「さっ、サーガどはそういう関係ではない! 取るとか取られるとか、そういう事ではないのだっ! ……それにサーガはきちんと外見だけでなく内面も見てくれる」


 ラナミリアは頰を少し朱に染めた後、ふっと何かを思い出すように相好を崩した。その表情はまるで恋をしている女性そのものだ。そして、ここまでその表情が美しいと思える女性はいないだろう。またナタリーもラナミリアがサーガに恋をしていることを微笑ましく思うのと同時に、自分は恋をしたことがないから羨ましくも思っていた。


「ふふっ……左様でございますか。なら、このままでも構いませんね」

「うむ、このままでよい」

「……もう魔力測定も終わっているでしょうし、どうなさいますか? もうお会いになられますか?」

「……そうだな……。私もこれからは何もないからな。せっかくだ、今から会いに行ってくるか」

「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」


 ラナミリアは椅子から立ち上がり、早速自室を出る。

 たしか……と頭の中で魔力測定に来た貴族の少年少女たちがいつも泊まっている部屋を頭の中で思い浮かべ、その部屋に向けてラナミリアは無意識のうちに少し早く歩いた。


 だがその途中、ある部屋が目に入り、なぜか足を止めることとなった。何故だかは分からないが、その時だけはすごく不気味に思えた。

 その部屋は王の自室。つまりラナミリアの実の父親が住まう部屋。その部屋に入ることが許されているのは王と王から呼び出された者のみ。王の正妃ですらもその部屋に無断で入ることは許されないのだ。


 ラナミリアは不気味であったが、父親の部屋ということもあり、そっと扉の前まで近づいた。


「……申し訳ございません。ガサルバーグ様」


(この声は……スーザンか……。どうしてスーザンがここに……。それにガサルバーグだと? 父上ではないのか?)


「スーザンよ……。分かるか? 我の気持ちが」


(これは、父上の声ではないか。なら、なぜスーザンは父上のことをガサルバーグなどと……)


「……まるで、数百年に一度だけこれまでに食べたことのない非常に美味な味のする実がなる木を種から育て、やっと実がなり成熟するまで今か今かと心躍りながら待ち、ついに成熟していざ実食しようとしたらそれを目の前で奪われ、しかもそれが味のしない、美味とはほど遠い最低最悪な実だと告げられた様な思いだ」

「……心中、ご察し致します」

「……察する……だと? 我の気持ちを貴様ごときが理解出来るというのか? たった40年かそこらしか生きていない若僧である貴様がか? ……ふざけるなっ!!」

「も、申し訳ございませんっ!」

「五百年……五百年だぞっ!? 五百年待ち続けた! そしてやっと我の魂の依り代に足りうる器が産まれ、ついに世界を掌握出来るはずであった……っ! それなのに、なんだこれは!!」



 父であるライグドの今までにない異様な雰囲気にラナミリアは困惑していた。ラナミリアが知っている父の姿はいつも温厚で優しく、時には厳しかったがそれはラナミリアを思っての事。この国の王として常に民のことを思い民のことを考えていた。ラナミリアはそんな父を尊敬していた。だからこそ、ここまで怒りをあらわにしていることに驚き、それに何より、


(………世界を掌握………?いったい父上はなにを………)


 父の口から世界を掌握するという言葉が出てきたのに戸惑いを覚えた。

 今話しているのは本当に父上なのか? 他の誰かではないのか? そういう思いがこみ上げてきた。しかしそれは別人であってほしいという願望であり、叶わない願いだった。


「……この怒り、そう簡単には抑えることは出来ぬぞ、スーザン」

「……どのような処罰も受け入れる所存です。何なりとお申し付けください」

「………………我の前に連れてこい。我がこの手で殺してやる。彼奴を………サーガをな」

「かしこまりました。マルトラス陛下………いや、ガサルバーグ様」


 気が付いたら、ラナミリアは走っていた。無我夢中で。

 サーガに伝えなければならない……。

 逃げろ! と。

 王女としての振る舞いとか、そういうのは宙に放り出し今だけはただこの事だけを伝えるために、震えそうになる身体を抑え、走る。

 サーガのもとへ。


(……サーガ……今すぐに逃げるのだっ!)


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