魔力値、ゼロ
おかしい……。
何も感じない。
封印の首輪は外したんだ。魔力は流れているはず。何も感じないわけがない。
魔力があるものは、魔力の流れを自然と感じることが出来ると聞いていたが、コツでもいるのだろうか?
「すまない。コツを教えてくれないか? 魔力の流れを感じるコツを……。何も感じないんだ」
「コツ……ですか? コツなど無くとも、魔力の流れは自然と感じることが出来るはずです。他の六人の方々も自然と魔力の流れを感じることが出来ました」
なんだと……?
ならいったいどういうことだ。
まさか──
俺は一つの可能性を思い浮かべた。
俺にとって決して許されざる“可能性”を……。
「サーガ様。取り敢えず、魔力の流れを感じることはまた後にしましょう。そのうち自然と出来るようになるでしょうから。では、これより魔力測定に入りたいと思います。宜しいですか?」
「……あ、ああ」
俺は、頭によぎった“可能性”を振り払うように目の前の円柱を凝視した。
部屋に唯一存在している物。恐らく、否、間違いなくこの円柱が魔力測定を行う為の魔法具なのだろう。
「もうお分かりかと思いますが、こちらの円柱は魔力測定を行うことが出来る魔法具です。私が今持っているこちらのプレートとこの円柱はリンクしています」
女性はどこから取り出したのか、いつのまにか両手に細長い半透明な板のような物を持ち、それを俺に見せるようにしながら説明を続けた。
「この円柱に血を一滴垂らして頂きます。垂らした後、円柱に手を当てて下さい。それで、魔力測定が出来ます。血を垂らすのは、この魔法具を発動させる為のプロセスみたいなものです。そして、手を当てることで強制的に垂らした血の所有者の魔力を吸い、測定する。そういう理屈です。その測定結果を知るための物がこちらのプレートです」
理解しましたか? と女性は俺と視線を合わせることで確認を取る。
俺はそれに頷くことで応えた。
「それでは早速測定に入りましょう。何か傷を付けるものは──」
ありますか? と言うつもりだったのだろう。だが、最後まで口にする事はなかった。
俺が自分で指に歯で傷を付けたからだ。
円柱に血を垂らす。
すると、円柱が淡く発光しだした。どうやら起動したらしい。
「これで良いか?」
「ええ、結構です。それでは手を当てて下さい」
俺は女性の言う通りに円柱に手を当てる。
「……これは」
待つ事、数秒。
女性は、思わずといったように吐き出した戸惑いの声音と言葉。
それで、さっき脳裏を過ったある“可能性”が俺を焦燥とさせた。
「おい、どうしたんだ」
そんなはずはない。あるわけがないと、ある種、懇願にも近い言葉を内心で吐き出しながら、あるいはその“可能性”を否定してくれと願いながら、俺は女性からの言葉を待った。
「……い、いえ、実は上手いこと測定されなかったもので。今までこんな事は無かったので、少し戸惑ってしまいました。失礼しました」
「上手いこと測定出来なかった…?」
「はい……。確かに円柱は起動したので、鑑定プレートが誤作動を起こしたのかも知れません。ただ……」
やめろ……。
やめてくれ……。
それ以上は、口にするな。
頼むから……。
俺のそんな、情けないような願いは届かぬまま、無情にも女性は真実を伝える。
「……魔力値がゼロ、と」
ストンッと何かが、俺の中で何かが落ちたような気がした。
誤作動……?
否、これはきっと誤作動なんかじゃない。紛れも無い事実だ。俺は魔力の流れを感じることが出来ていない。それはつまり、俺には……
──サーガ、分かっているな
ふいに、スーザンの言葉が頭の中に響いた。
そのスーザンの言葉の意味は、セントラル家の次期当主としての力を証明しろという事。
だが、スーザンがこの結果を知ったら、どうなるのか。
魔力が無い、という事を知ったら……。
そこからのことはほとんど覚えていない。
なかば放心状態で、女性の言う通りに従っていたと思う。もう一度測り直したのか、測り直さなかったのか、それはもう分からない。ただ、測り直していたところで結果は変わっていないだろう。
そして、気が付いたら自分の部屋にいて、いつのまにか夜の帳が下りていた。
俺はいったいこれからどうなるのか。
今までは魔法が無くてもある程度はやっていけた。今の俺の武術は相当なものだと自負している。それこそ『剣聖』であるスーザンにだって引けは取らないだろう。
そう、武術だけならば。
だが、魔法ありの勝負だったら、スーザンには手も足も出ない。勝負にすらならない。
魔法とは戦闘において、それほどまでに強力で強大な力を持つ。
セントラル家は強さこそが全て。しかし、俺は魔法が使えない。魔法が使えない弱者だ。そんな俺をスーザンは側に置いておくだろうか……?
そこまで考えて、頭を振る。大丈夫だ、俺は息子だぞ。血の繋がった、親子だ。魔法が使えなかっただけで、見捨てるはずがない。
『セントラル家は強さこそが全て』『親子だから見捨てない』
俺はこの背反する矛盾を頭の中から追いやって、一種の思考放棄をした。
何も考えず、ベッドに潜り込み、しかし眠ることも出来ず、ただ天井を見上げること数分、あるいは数時間経った。このまま何も考えず、まるで時が止まったかのような世界に生き続け、老いていくのではないかというような阿呆な事を考えていると、突然、ドンドンッと扉を叩く音が聞こえた。
俺は間抜けにも、一瞬、ビクッとなり、すぐさまベッドから身を起こした。と同時に思考は激しいまでに加速していた。扉の前にいるのがスーザンではないのかと思って、どういう対応をすれば良いのかと考えているのだ。
「…サーガ! 開けるのだ、サーガ!」
だが、俺のその思考は無駄となった。扉を叩いたのはスーザンではなかったのだ。そして、この何故か緊迫しているような声の主が誰なのかも理解した。
俺はサッと扉まで行き、開けた。
そこから現れたのは、俺が思った通りの人物だった。日本の言葉にある『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』。まさにそんな言葉がぴったりな美しい女性。手足が長くスラリとして、ふわっと漂ってくる香りはたおやかだ。俺が今まで見てきた女性の中で一番華やかで、立ち居振る舞いも美しい。
この銀色の髪を靡かせ、翠の双眸で俺に視線を向ける女性の正体は、ラナミリア=フォン=マルトラス王女殿下。正真正銘、この国の王女様だ。
セントラル家の長男として、昔、スーザンとともに王宮に来ていた時に何度もお会いしたことがある。俺より一つだけ下という事もあり、小さな頃は一緒に遊んだりもしていた。
「お久しぶりです、ラナミリア様。それで、どうかなさいましたか? そんなに息を切らして」
「はぁ……はぁ……、どうしたもこうしたも……ない……。サーガ……、お前に伝えなくちゃ……ならないことが……」
「伝えなくてはならないこと……? それはいったいどのような?」
呼吸を整えようと深呼吸をして、ラナミリア王女は一度目を瞑ると意を決したようにパッと目を見開いた。
「いいか、落ち着いて聞くのだぞ。決してこれは偽りなどではないからな。……サーガよ、今すぐに逃げるのだ。このままでは……殺されてしまう……!」
「……は?」
面白いな、と感じていただけたら
ブクマ、評価、感想お願いします!




