封印部屋
そこにはもう何人か集まっていた。
俺と同じで今日、十五歳の誕生日を迎えた貴族たち。
その誰もが俺を見ていた。
──あれが噂の
──本当にいたんだな
──気に入らねぇな
そんな言葉がちらほらと聞こえて来て、彼らの俺を見る眼差しには興味、嫉妬、畏怖などが混ざっていた。
きっと彼らからしたら、セントラル家の噂は眉唾もので、到底信じられるものではなく、恐ろしいものなのだろう。
「本日はようこそおいで下さいました。皆様方、十五歳の誕生日おめでとうございます」
俺が入ってきた扉とは違う扉から、初老の男性が入ってきて頭を下げた。
「失礼。私は、マザリアステルと申します。以後お見知り置きを」
マザリアステル………?
聞いたことがない。
俺も偶にだが王宮には来ていたが、こんな初老の男性など見たことがなかった。一度見たらこんな人は忘れないだろう。
こんな強そうな人。
いや、強そうではない。間違いなく強い。
底が全く見えない。
いったいどれほど強いのだろうか。
今の俺が手合わせすれば間違いなく、引き分けか負ける。勝てはしないだろう。
「……さて、皆様方。これで晴れて成人となられた訳ですが、その素晴らしき成人の日にどうしてこの場所に集められたのかはもうご存知の筈です」
確認のためか、マザリアステルは一度、俺たちを見渡し頷いた。
「ならばもうご説明は致しません。私めが名前をお呼びいたします、呼ばれた方から順に私の後ろに御座います扉から中にお入り下さい。──それでは新たな人生に栄光あらんことを」
マザリアステルは、もう一度深く頭を下げると名前を呼んだ。
「リィナ=ララ=スクール様」
「は、ハイ!」
いきなり呼ばれて驚いたのか、少しビクつきながら返事をして、マザリアステルの後に続いてこの部屋から出て行った。
現在この部屋にいるのが、六人。リィナと呼ばれた少女を合わせると七人が、今日成人したようだ。この人数が多いのか少ないのか。
マルトラスの人口が何人か知らないが、人口の大半は平民が占めている。聞くところによると、貴族は人口の1%も満たないらしい。0.5〜0.9%辺りだ。では仮に、マルトラスの人口を百万人とするなら、貴族は五千人から九千人。
この数字から見ると、1日に七人も集まるのは多い方ではないだろうか。マルトラスの人口は百万人を超えるだろうが、それでも大国というわけではない。そこまで大きく外れていることもないだろう。
アバンテの一年は360日。一ヶ月が30日だ。
1日に七人集まって、それが360日。単純計算で、7×360で、2520だ。
一年で2520人が成人にはならないだろう。俺が生まれた年だけアホみたいに活発だったというわけでもあるまいし。
何が、とかは聞くなよ。そんなものは聞かなくても分かる。
「ガローグ=カタルア=ライトロー様」
六人目が呼ばれた。どうやら俺は最後のようだ。
俺の希望からしたら、もう少し早めに呼んでほしかったのだが、まあいい。
「サーガ=マルテ=セントラル様」
ガローグという男が呼ばれてから5分くらいで俺の名前が呼ばれた。
俺は意を決して扉の方へ歩く。
「サーガ様。健闘を祈ります」
俺はマザリアステルのエールに首を縦に振って応え、扉を潜る。
扉を潜った先、封印の首輪を外すための部屋ということで『封印部屋』と呼ばれている部屋は、質素な部屋だった。あるのは部屋の真ん中あたりに腰ほどまである円柱みたいな物と、1人の女性だった。
「ようこそいらっしゃいました。サーガ=マルテ=セントラル様で間違いありませんか?」
「……ああ。間違いない」
「かしこまりました。……ではさっそくですが、封印の首輪を外したいと思います。こちらまでお願いします」
俺は言われるがまま、女性の元へ歩いた。
「こちらが、封印の首輪を外すことが出来る魔法具です」
そう言って見せられたのは、赤い石のような物だった。
「この魔法具には特定の魔法式が3つ付与されています。魔力を吸収するという魔法式とその魔力を変質させる魔法式、そしてその変質させた魔法式を放出させるという魔法式です。……ところで、セントラル様。なぜ封印の首輪を付けると、魔法を発現できなくなってしまうと思いますか?」
なんだ、急に?
まあ、ここでこんな質問するということは、首輪を外すことに無関係では無いのだろうが、俺としてはさっさと外して欲しかった。
でも、確かに気にはなっていたことだ。
素直に答えよう。
「……魔法を使えなくしてしまう術式が付与されているんじゃないか? 例えば、魔力を吸収するとか」
「大旨正解です。封印の首輪には魔力を吸収するという術式が付与されております。ただし、それは初めに魔力を吸収した魔力のみです。つまり、封印の首輪を装着している人の魔力のみです。例えば──」
女性の手が俺の首に触れる。
「──と、このように私の魔力は吸収致しません。と言っても、吸収されたかどうかは自分しか分かりませんけどね」
目には見えないが、彼女の言葉からすると、恐らく魔力を流したのだろう。
「さて、脱線してしまいましたが、話を戻しましょう。今から私がこの魔法具に魔力を流します。この魔法具には先程申し上げました通り、3つの魔法式が付与されております。そしてその魔法式は連続して発動致します。つまり、吸収・変質・放出が連続して起こります」
「……1つ質問いいか?」
「構いません」
「変質とは一体なんだ?」
「魔力は人によって性質…というより音で表すと音波の様な波が異なります。その波の高さを変えることを変質と言います」
「つまり、この魔道具は一人一人違う魔力の波を共通の高さに変え放出する魔道具、という訳か」
「その通りです」
「だが、なぜ変質させる必要がある」
「封印の首輪には魔力を吸収する術式が付与されていると申し上げましたが、実はもう一つ術式が付与されています」
そこまで聞いて、ようやっと理解した。
一見関係のない様に思える、封印の首輪について説明した理由も分かった。
「なるほどな。封印の首輪には初めから、ある特定の波だけは装着者とは関係なく吸収し、その波を吸収すると外れる術式が付与されていたという訳か。そして、その波を作り出すのがその魔法具という訳だ」
「ご明察で御座います」
どうやって封印の首輪を外すのか気になっていたが、なんだ、単純じゃないか。もう少し複雑なのかと思っていた。
「これにて説明は終わります。それでは作業に入りたいと思います。宜しいですか?」
「ああ、やってくれ」
「かしこまりました」
彼女は頷き、赤い石の魔法具を俺の首に触れさせた。
そのまま数秒が経つ。
「──はい、お疲れ様です」
拍子抜けするほど呆気なく終わった。
そっと、首に手を当てる。
手が首に触れる感触が首から伝わってくる。
俺は彼女の手を不意に見た。
そこには十五年間、俺の首に付いていた物が握られている。
ついに外れたのだ。
「どうですか? 魔力が全身を巡る感覚が分かりますか?」
そう言われて俺は、魔力が全身を巡る感覚を感じるように集中する。
そして……
──何も感じなかった
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