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俺が愛した女は武器だった。   作者: トマトケチャップ
第一章
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焦燥

 ガンシュとともに宿を出て、村長や騎士が集まっている村の入り口に近い所とは反対の方に走る。くれぐれも騎士たちには見つからないようにしながら。


 ただ一つ不安だったことは、この村を囲まれたりしていたらどうしようもないということだったんだが、どうやら杞憂に終わったようだ。


 今回は見つからずに上手く逃げられそうだ。それもこれもガンシュがこの村のすべてを知っていたことが大きい。小さな村といえどもそれなりに家はあるから迷っていた可能性も捨てきれなかった。


「……助かった、ガンシュさん。今度お礼するよ」

「……いいっていいって、気にするな」

「……ほんとこの村の人たちは人がいいな」


 ガンシュだけじゃない。ガンシュの美人な奥さんに村長や婆さん、宿の店主、それからお菓子をくれた子供たち。みんないい人ばかりだった。


 だから、素直な気持ちを伝えようって、そう思った。


「この村の人たちと出会えてよかったよ。俺は幸運だ」

「……よせよ、照れるだろうが。……ほら、さっさと行けって」

「ああ、じゃあ行くよ。……村長にも、ありがとうって伝えといてくれ」

「おう……」


 俺は一つ頷くと、ガンシュに背を向け目の前に見える林へと飛び出した。




 ◇ ◇ ◇




 どのくらい走っただろうか。あの騎士たちは結局俺を追っては来なかった。村長たちが上手くやってくれたに違いない。


 俺は走るのを止め、林の中を歩いていると少し開けた場所に出た。


 少しここで休むか……。


 俺は開けた場所から一番手前にある木に背中を預けた。


「……村のみんなは大丈夫だろうか?」


 少し気になる。追っても来ていないし、おそらく大丈夫なんだろうが、それでもやっぱり心配だ。


 戻るか……?


 いや、何をバカなことを考えているんだ、俺はっ! それこそ本末転倒だろう! せっかく村のみんなが俺のことを秘匿してくれたっていうのに。


 俺ってこんな情に厚い人間だったか? 


 まあ、環境の変化で人は変わるっていうけど、それでも戻ろうと考えるなんて普通はありえないだろう。だって戻ったら、あの騎士たちと遭遇する可能性だってあるわけだぞ。下手したらそこで俺の命が終わる。


 だというのに──


「……どうして俺は村の方に足を向けてるんだろな」


 はぁぁ……。


 俺のバカ。アホ。マヌケ。せっかくガンシュに恥ずかしいセリフ吐いて別れたっていうのに……。


 だけど、俺の足は止まってくれない。


 ……仕方ない。最後にみんなにあいさつだけしてあの村から離れよう。そうすれば心残りもなくなるしな。まあ騎士に見つかったらその時はその時だ。


 さっきは多分10分か15分くらい走っていたと思うから、俺の足だったら歩いて30分か40分くらいで着くだろう。計一時間くらい、そのくらいだったら村から騎士たちも離れてると思う。まあ、早すぎず遅すぎずで行こうか。


こうやって林の中を静かに歩いていると、木の葉が風によって奏でる音や、鳥のさえずり、どこからか聞こえる動物の鳴き声、自然を感じることがことができる。俺は追われる身だというのに思わずそれを忘れそうになる。


 そういえば、地球で生きていた時もこうやって自然を感じることや散歩は好きだったっけ……。まあ、その散歩のせいで殺されたわけだが……。


 やれやれ、とどこか自嘲気味に自然を堪能していると、違和感を感じ足を止めた。


 なにかおかしい……。


 なにか──


「……音が、消えた?」


 鳥のさえずりがなくなった。鳴き声が聞こえない。さっきまで確かに聞こえていたのに。どうしてだ? まるで、ここら一帯から逃げるようにいなくなった。まるで危険から遠ざかるように──


 俺は遠くを、村があるだろう方角に視線を向けた。


「──どうして煙なんか上がってるんだよ」


 まさか……、そんな……。まさか、まさかっ!!


 俺は気が付いたら無我夢中で走っていた。そんなはずはない。あるわけがない! と心の中でまるで呪詛のようにそんな言葉を繰り返していた。


 きっとあれは、村で宴でも始まって薪に火でもつけたんだ。そうに違いない。ああ、きっとそうだ。それでガンシュが自慢の奥さんの惚気話を誰かにして、呆れられているんだ。


 それに、それに、と俺は村の人たちの楽しそうな顔を思い浮かべながら、きっとこんなことをしていたり、あんなことをしていたりするに違いないと自分の脳裏に過っている考えを振り払う。


 村に近づけば近づくほど、焦燥感は強くなっていった。大丈夫だ、心配ない、と心を落ち着けるが不安な気持ちが心を支配していった。


 そして、林から抜け出すとそこには──




 そこら中から火の手が上がっている村の姿が広がっていた。

 





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