表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が愛した女は武器だった。   作者: トマトケチャップ
第一章
13/14

訪問

 婆さんが作る飯は本当に上手かった。別に高級な食材を使っていたわけではない。どれもこれも安価な食べ物。しかしそれを美味に変革させた婆さんには脱帽物だ。以前はセントラル家の屋敷で高級食材を使った料理を食べていたんだが、それでもおいしく食べられた。まあ、最近はほとんど食べていなかったし、食ってもウサギの肉とかを焼いただけの食事だったからな。余計に上手く感じた。


 さて、それで、爺さんのおかげで宿代もタダになって、今はその宿の部屋の中にあったベッドに寝転がっている。こうして楽になっていると、色々あったなぁと怒涛の展開をどこか他人事のように感じている俺がいた。


 けれど、他人ごとではなく全て俺自身に起こった出来事だ。


 誕生日にサーガではない、もう一人の自分の記憶が蘇ってきたこと。

 魔力がなかったこと。

 王都からの脱出に衛兵との戦闘。

 小さな村の村長たちとの穏やかな会話。


 これらすべてが五日もしないうちに起こったのだ。本当に怒涛の展開だった。


 そうやって最近の出来事を思い出していると、一つ頭の隅に追いやっていたものがあることを思い出した。それは、ラナミリア王女とともに向かった武器庫で見つけたナイフだ。


 俺はそのナイフを手に取ってじっくりと観察する。


「……やっぱりそうだよな」


 こんな、何の装飾もないただのナイフどこにでもありそうだが、それでも俺の心が、あるいは脳が俺に間違いないと、あの時のナイフだと伝えてくる。これはいわば直感でしかない。けれど直感は戦闘において最も大事なものだと俺は思っている。実際、なんどそれに助けられたかも分からない。だからこそ、俺は俺の直感を信じて疑わない。


 しかし、


「……どうしてこの世界に」


 このナイフを手にしたときは、そういうものかと考えないようにしたが、普通に考えておかしいだろう。アバンテは地球とは何の関係もない世界だ。まだ俺のように転生して魂とかが世界を渡るならまだしも、物体そのものが世界を渡るなんて出来るのか? 


 いや、地球に住んでいた時、聞いたことあったっけ? 異世界召喚ってやつ。このナイフもそういう類のものか? だとしてもどうしてこのナイフだけ? まさか、あの俺を刺し貫いたあの女もこの世界にいるのか? だとしたら色々と問い詰めてやりたい。


 どうして俺を殺したのか、とか。あの時の言葉はいったい何だったのか、とか。


 よし、決めた。これからしなければいけないリストに、あの謎の女探しを追加しよう。


 ひとまず、このナイフのことはこれで終わりだ。歩き続けたこの身体のためにも今日はゆっくりとしようか。


 俺は目を閉じると、五分もしないうちにスヤスヤと夢の世界に飛び立った。




 ◇ ◇ ◇




 外の喧騒で俺は目を覚ました。う~んと唸って、二度寝を敢行しようとしたが、外の音が気になって眠ることは出来なかった。


「……いったいなんだよ」


 俺は仕方なくベッドから身を起こし、部屋についている窓から外を見た。そこには村のほとんどの人間と馬に乗った騎士とその部下、約10人ほどがいた。


「……俺の追手、か?」


 この村の存在はほとんど知っている者がいないんじゃなかったのか?

 まさか、村の連中が俺を売った……?


 いや……、村の連中の様子を見るにどうもそんな感じではないな。それにあの気の優しそうな村長や婆さん、村の連中がそんなことするなんて考えたくないし。


 じゃあ、たまたま俺を追っている時にこの村を見つけたってところか。ったく、なんて運のいい連中だよ。そして俺はなんとも運がない。


 さてさて、どうするかね……。


 にしてもあの騎士強いな、と思っていると、部屋の扉が勢いよく開いた。


「おい、サーガっ! なに暢気にしてんだ、とっとと逃げろ!」


 入ってきたのは、この村で一番最初に俺に話しかけてきた中年の男、ガンシュだ。


「……なんで?」

「なんでってお前……、あいつらお前の事探してんだろ?」

「あいつら何か言ってたのか?」

「男を探している。黒い髪をした若い男だって。……あいつら今から村中を手あたり次第調べるみたいだ。だから時期にお前のことがばれる。早くこの村から出るんだっ」


 そのガンシュの言葉に俺は少し驚いた。


「なんだ、俺の事……話してなかったのか」

「話すわけないだろう……。サーガはこの村の客人だ。……それに、なにか訳ありなんだろ?」

「……気づいてたのか?」

「あぁ、なんとなくな。たぶんこの村のほとんどの奴が気付いてると思うぞ?」


 まじか、スゲーな。そんな表情には出してなかったと思うけど……。こんなみずぼらしい村だからこそ、そういう人の機微に聡いということがあるのかもしれない。分からないけれども。


「ってそんなこと話している場合じゃない、さっさと逃げねぇか!」

「だが、俺を逃がしたってばれたらただじゃすまないぞ?」

「へっ、構うかよ! お前はこの村の久しぶりの来訪者だからな。見捨てられねぇのよ。……それに俺は貴族とか騎士とかっていうのは気に入らないしな。俺たち田舎もんをゴミみたいな目で見やがるから」


 俺も一応貴族なんだけどな……。まあ、元だけどね。追われる身だし。けれど、なんかガンシュの闇が深そうだ。いったい貴族か騎士に何をされたのやら。なんか前にどこかの街に出稼ぎしに行ったとか言っていたし、その時なんだろうが……。


 別に貴族全員がそういうわけじゃないんだが、今言ったところで意味はないわな。それにせっかくガンシュが俺のために伝えに来てくれたんだ、今はあいつら追手から逃れるためにもこの町を去ろう。じゃないと村にも迷惑がかかっちまうしな。


「……よし、じゃあ逃げるかっ!」

「おっしっ。じゃあついて来い。裏手からこの村を出るぞ!」


 俺は前にもこんなことあったなと既視感を覚えたが、今は気にせずにガンシュの後に続いた。






 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ