林の中の戦闘
俺は木の陰に身を潜めていた。息を潜め、じっと隠れることに徹する。
ドクンドクンドクンッ
心臓が早鐘を打つ。辺りが静かなだけに余計にその音がうるさく聞こえた。
出来るなら、衛兵には見つかりたくない。見つかったとしても、この林の中なら、三人が相手で魔法を使ってくるとしても、色々とやりようはある。だがやはり見つからずにことが終われば万事オーケーなんだが……。
「……見つけたぞ」
まあ、そう上手くいかないわな。それに、見つかるなよ、と思った時点でフラグを立てたか。
おそらく探知系の魔法を使ったのだろう。すぐに俺の居場所が分かったが、わざと探すふりをして俺と隠れている林を囲むように同時に近づいてきやがった。
「……さすがは王都の衛兵です」
一目見ただけでも分かる。こいつら、相当な手練れだ。これでマルトラス王国直属の組織、魔法騎士団に所属していないのだから驚きだ。
「……お前を王都まで連れ戻す。いいな」
「……いいな、と言われましても……、なぜです?」
「王からの直々の命令だ。誰も外に出すな、とな。……そして、黒髪で若い男を見つけたら王城まで連れてこいともおっしゃっていたそうだ。……そう、ちょうどお前のような奴をな」
ちっ。見逃してくれる気もなさそうだ。
やるしかない……か……。ここで捕まるわけにもいかないからな。
「そうか……なら──死ねっ!」
先手必勝だ。俺は目の前の相手に向かってダガーを投げる。俺が成せる最大最速の速さで。
俺の目の前にいた衛兵は気付かない。眉間の数センチ先でダガーが自分に迫っていることに気が付いた衛兵は、ギョッとして反射的に首を横に逸らして間一髪回避に成功する。
だが俺はこの衛兵が回避できることを疑っていなかった。相手は魔法師で身体強化の魔法を使っているのだ。あれくらいなら躱せても不思議じゃない。だからダガーを投げた瞬間、俺は次の行動に打って出ていた。あの武器庫で手に入れた剣のうちの一つ、漆黒の剣を素早く抜き放ち、一瞬で衛兵に近づくと首を刎ねた。
俺は間を空けることなく、仲間が一瞬で殺され茫然としている衛兵に斬りかかった。衛兵は慌てたように剣で防ごうとするが、それでは少し遅い。そのまま剣を持っている腕を斬り飛ばして、その腹に蹴りを入れる。
衛兵は冗談のように吹っ飛んでいき、意識を飛ばした。あのまま放っていても失血死するだろう。
「……さて、あと一人だ」
「……テメェ!」
一瞬で仲間を殺され、頭に血が上った最後の衛兵が殺意のこもった眼で俺を睨む。
「……許さねぇ。ぶっ殺してやるっ!」
衛兵は俺に向かって剣を持っていない方の手を突き出した。
「ディ──」
「させるかよ」
何らかの魔法を発動しようとしていたのだろうが、待ってやるほど俺はお人好しではない。俺は一瞬で間合いに詰め、剣を横なぎに一閃する。衛兵は何とかそれを凌ぐが、俺は隙を与えずに何度も斬りかかる。さすがは身体強化しているだけはある。かろうじて俺の攻撃を防ぎ続けている。最初の二人は不意打ちということもあったためすんなりといったが、この相手はそうもいかないらしい。
ならば──
「なにっ!?」
衛兵は一瞬だけ隙が出来た俺に好機だと思い俺に斬りかかった。防御も何もできていない俺を見て僅かに笑みを浮かべたが、その斬撃は空を斬った。
身体技術のうちの一つ、緩急をつけ、残像を作る技だ。だから衛兵が斬ったのは俺の残像だ。本物はその一歩後ろだ。まあもっともこんな技術、地球のころの俺なら出来っこなかった。この世界で伊達に剣の修業をしてきたわけじゃないということだ。
衛兵は俺の残像を斬ったことで、大きく隙が生まれた。そこを見逃す俺ではない。一気に踏み込み、ずぶりっと剣を心臓に突き刺した。
「……く……そ……」
手から剣は滑り落ち、口から血を吐いた衛兵は力なく俺に寄りかかり、その体重を預ける。そして俺の耳元で小さく、されど確信に満ちた声で話しかけた。
「……追手は、かならず……やって…くる……。俺…なん、か……かすむく……らい…の……追手が、な。逃げた……とこ…ろ……で──」
そこまで口にすると、もうそれ以上の言葉を発することはなかった。
「上等だよ」
俺は剣を引き抜くと、血糊を払い鞘へとしまってそのまま林の奥へと歩いて行った。




