プロローグ
俺にとってこの世界は退屈だった。
勉強もスポーツも一度始めるとすぐ出来てしまう。
俺の両親はいたって平凡な人だから、突然変異とか言うやつかもしれない。
まあでも、出来ないよりかは出来た方が良いだろう。勉強は間違いなく出来た方が良い。
そこそこの大学に入って、そこそこの企業に就職して、そこそこの人生を送る。
夢などはない。目標もない。敢えて言うなら、そこそこの人生を送るのが目標か。
刺激的な人生を送ることが出来ない。
だから退屈なんだ。
今日も、そんな人生への諦めにも似た気持ちを抱いていた。
だけど今日この日、その全てが変わった。
◇ ◇ ◇
日付がちょうど変わった頃。
俺は人気が無い路地裏を一人で歩いていた。
なぜこんな遅い時間に高校生の俺が一人で歩いているのか。それは俺が、夜一人で外にいるのが好きだからだ。
真夜中のこの静まり返った雰囲気が俺は好きだ。
落ち着ける。
俺にとって退屈な人生の唯一の楽しみがこの時間だ。
俺は空を見上げ、爛々と輝いている星を見る。
綺麗だ……。
いっそこのまま何も無い人生で終わるなら、天文学者にでもなって、星の研究でもしようか。
いや……、やめとこう。
この時間帯の星を眺めるのは俺の趣味だが、それを仕事にすれば、飽きが来て嫌いになってしまう可能性も出てくる。やはり趣味は趣味のまま終わらすのが一番だ。
そのまま星を眺め、無心に路地裏を歩く。
すると暫くして、見慣れた公園が見えた。
だが、今日はいつもとは違うルートを歩いていたため、この時間帯になってこの公園に来るのは初めてだ。
「なんだか不気味だな……」
だがせっかくだ。少し寄って行こう。
この公園はそこまで大きくは無い。あるのはブランコに子供用滑り台、鉄棒、砂場、そしてベンチくらいだ。
俺はそのベンチに腰掛けた。
今ではほとんどこの公園には来ないからか、なんだか懐かしい。
昔はよくこのベンチにも座っていたんだがな。
最初は不気味に感じたこの公園も、なかなか悪く無い。
十分くらいそのまま星を眺めたりしていて、そろそろこの公園ともおさらばするかと立ち上がり、ポキポキと首を鳴らし瞬きを一回。
目を開くと目の前に、フードを被った人がいた。
「うわっ!?」
俺は夜の静けさを壊すような驚いた声をあげたが、これは仕方がないだろう。
まじでビックリしたからな。
てか、いつの間に目の前にいたんだ、こいつ。気が付かなかったぞ。驚かすなよ、心臓バクバクじゃねえか。
「俺に何か用か?」
普通はこういう場合、一目散に逃げるんだろう。めちゃくちゃ怪しそうな人だしな。
だが、俺は逃げん!
さっき間抜けな声を出してしまったんだ。
余計に間抜けな行動などとれるか!
「おい、聞いてるのか?」
一向に返事が返って来ない。
いったい何を考えているんだ……。
フードを被ってるから顔も見れないし。
そもそもこいつは男なのか? 女なのか?
背丈は俺より低いくらいだから、男だとしたらまあ平均くらいだが、女だと高いだろう。
「用が無いなら俺はもう行くぞ」
あまり関わってはいけないタイプの人間かもしれない。
ここはもうさっさとどっか行ったほうがいい。
俺は公園の出口の方に向かおうとした。
その直前。
目の前から女のような声が聞こえた。が、なんて言ったのかは聞こえなかった。
「なんて言ったんだ?」
俺のその言葉に答えるように、目の前のたぶん女は袖に隠れている右腕を出した。
──その手には、ナイフが握られていた。
「はっ?」
そこからは一瞬だった。
いつの間にか、耳元に女の息遣いが聞こえ、ナイフは俺の心臓を刺していた。
「嘘、だろ……」
胸が熱い。痛いというより熱い。
なんだこれ……。俺は死ぬのか?
こんな訳もわからずに……?
身体に力が入らず、だんだんと足の力が抜け、遂には崩れ落ちる。はずだったが、なぜか俺を刺した女が俺を抱き抱えた。いったい何を、と女の顔を見るが、見えたのは嬉しそうに歪んだ口元だけだった。
さっきまで胸は熱かったのに、今は身体が寒い。
意識がだんだんと遠のいていく。
ああ、本当に死ぬんだな……。
遠のいていく意識の中、俺は女の口がゆっくりと動いているのを見た。そしてそれがこの世で俺が最後に見た光景だった。
──あいしてる
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