表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さざなみ  作者: うちょん
4/5


 最も完全な復讐は、侵略者の真似をせざることなり。

  マルクス・アウレリウス・アントニウス


















 第四償【縁】














 朝矢時生は、去年仕事を辞めた。

 その前からも、娘である朝矢美琴の様子はおかしいと思っていたが、色々ある時期だろうと思い、特には話も聞かなかった。

 「美琴、今日も仕事行かないのか?」

 「美琴、いい加減にしなさい」

 「美琴、部屋で何をしてるんだ」

 美琴が小さい頃に母親は亡くなり、男手ひとつで育ててきた美琴は、親の時生が言うのもなんだが可愛い娘だ。

 しかし、最近は何も語らず、部屋に籠っていることが多くなった。

 声をかけてみても返事もなく、久しぶりに顔を出したかと思うと無言のまま。

 どうして美琴がそうなってしまったのかは、それからすぐに分かることとなった。

 「どういうことなんて美琴!お前、仕事場の男と付き合っていたのか!?男はお前とはお遊びだったってことか!?どうなんだ!答えなさい!!」

 「五月蠅い五月蠅い!!放っておいてよ!!」

 「美琴!!美琴!!」

 毎日のように言い合うようになり、美琴は部屋でブツブツと独りごとを言っていたり、ストレスからなのか暴れたり、最近では被害妄想をすることもあった。

 しかし、時々外に出ることもあったため、気分転換に出かけているのだろうと思っていた。

 美琴は小さい頃から引っ込み思案な子で、人様の物を奪おうとか、そういうことを考える子ではない。

 浮気だの不倫だの、そういった言葉とは無縁の子のはずだ。

 食事もまともに取らないためか、美琴は会う度にやせ細ってきている気もしたが、強く言っても逆効果のため、口煩く言うのは止めていた。




 そんなある日、朝矢家に刑事が来た。

 「美琴は部屋だが」

 「少し、お話を窺いたいのですが」

 「美琴に?どうして?」

 「それは・・・」

 リビングに刑事達を案内すると、部屋まで行って美琴を呼んだ。

 刑事達が美琴の話を聞きたがっていることを言うが、美琴は返事もせず、部屋からも出てこなかった。

 時生は下に下りて、部屋から出て来ないことを伝えると、刑事は美琴の部屋の前まで行き、部屋にいる美琴に聞こえるような声で話した。

 「先日亡くなった淀嶺晃太さん、ご存知ですよね?淀嶺さんのスマホに、あなたとのやりとりがありました。詳しい話、聞かせてもらえませんか?」

 「おいおい、どういうことだ?一体何の話を?」

 美琴は変な噂が広まってからというもの、仕事を辞めてこうして引きこもりのような生活を送っていた。

その中で、ネットを通じて淀嶺晃太という男と連絡を取り合い、接触していたというのだ。

 「どう言う男なんです?さっき亡くなったって・・・」

 「ええ。薬物中毒で」

 「薬物・・・!?それと美琴と、どういう関係が」

 「淀嶺晃太に薬物を渡していたのが、娘さんの可能性があります。そこで、娘さんの薬物反応も確認しようと」

 「娘は薬なんぞに手は出さん!!」

 刑事を追い返したあと、時生は美琴にドア越しに話しかける。

 「美琴!お前、薬なんてやってないよな?あの淀嶺とかいう男なんか、知らないだろ!?」

 何も答えない美琴に、翌日、また刑事がやってきた。

 どうやら、美琴は仕事を辞めてからすぐ、ネットで「死にたい」と書きこんでいたらしく、そこに答えたのが淀嶺晃太だったそうだ。

 淀嶺は美琴の言葉に対し、自分も今とても落ち込んでいて、誰にも相談出来ずにいるから、その気持ちを共有しようといった内容のものが返信されていた。

 それをきっかけに、美琴は淀嶺と一度会い、連絡先を交換。

 薬の売人に何処で出逢い、何処で受け取っていたのかは分からないが、貯金を崩して薬を購入していた美琴は、それを同じ境遇にいる淀嶺にも渡したをみられている。

 「娘さんの部屋を調べられれば、その証拠も出てくるでしょう。それに、娘さんが常習犯ということも」

 「そんな・・・!!あの子が!」

 「仕方がありませんので、令状を取っての家宅捜索になるかと思いますが」

 そう言って、刑事は出て行った。




 それからというもの、美琴が時々外出をしようとすると、マスコミに囲まれてしまうようになった。

 理由はもちろん、薬物中毒で死んだ淀嶺晃太と連絡を取り合っていたということと、美琴の元仕事場を調べた記者が、そこでの上司との関係についてだ。

 「先日亡くなった男性との関係は」

 「肉体関係はあったんですか」

 「仕事先での不祥事の件は」

 ただでさえ細くなってしまった美琴は、連日マスコミの押し寄せで、余計にやつれてしまっていた。

 タクシーに乗って逃げたとしても、家に帰ってくるとまた群がってくる。

 無事にタクシーに乗ると、美琴はとある場所まで向かってもらった。

 誰もいないような静かな寺に着くと、美琴はそこにある、自分の話を聞いてくれていた淀嶺晃太の墓の前で手を合わせる。

 寒さからではない手の震えに、美琴はすぐに帰ろうと立ち上がると、そこには女性が立っていた。

 誰かの墓参りだろうかと思って会釈をすると、その女性はいきなり美琴に歩み寄ってきて、鬼のような形相で喚き散らした。

 きっと淀嶺晃太との関係を誤解しているのだろうと、美琴はなんとかそれを伝えたのだが、女性は納得するはずもなく、美琴はそこから逃げるのに精一杯だった。

 再びタクシーに乗って家に向かってもらっている間、美琴は考えていた。

 上司と恋仲だなんて噂をたてられて、そりゃ、上司として尊敬はしていたし、美琴も信頼されていたため、会社を告発することに協力してほしいとも言われていた。

 しかし、あんな噂が立ってしまっては、上司の告発に協力したところで意味が無くなってしまう。

 だからこそ、美琴は仕事を辞めたのだ。

 信頼している上司のことを信じて辞めた美琴に対して、会社からは軽い女とのレッテルを貼られてしまった。

 時生は仕事ばかりで、美琴のことを大事に思っているのは分かっているが、仕事を犠牲にしてまで美琴に時間を裂こうなどとは思っていない。

 ネットで通じた相手は、優しかった。

 よく話も聞いてくれたし、お互いに悩みとか愚痴を言い合って、とても良い気晴らしになった。

 でも、美琴にはもう何も残っていない。

 「着きましたよ」

 「え?」

 「着きました」

 「ああ、ありがとうございました」

 気付けば家に着いており、美琴を待ちかまえていた記者たちにあっと間に囲まれてしまう。

 その頃、時生は外がまた騒がしくなってきたことで、美琴が帰ってきたことが分かった。

 玄関を開けてすぐに中に入れようと思って少し扉を開けたとき、そこにはマスコミに囲まれている美琴がいた。

 名前を呼ぼうと口を開いたのだが、美琴はマスコミから逃げるようにして走りだし、そして、車に轢かれてしまった。

 車もスピードを出していたため、美琴は即死状態だった。

 マスコミたちは、ここぞとばかりに瀕死の状態の美琴を写真に収めており、時生は家から飛び出すと、記者たちから美琴を守るように抱きかかえた。

 救急車に乗せられた美琴だが、その時にはすでに心拍停止で、救急車の中で死亡が確認された。

 そして翌日、美琴は薬物中毒の上、働いてきた会社の上司を寝取っただのと新聞に書かれていた。

 美琴は他人の噂に振りまわされた上、マスコミに殺されたというのに、まるで他人事のように書かれたその記事に、時生は言いようのない怒りを覚える。




 後日、時生は美琴の噂相手になった男のもとへと向かっていた。

 何処に向ければ良いか分からないこの感情を、その男に全てぶつければ少しは気が落ち着くかと思ったのだ。

 しかし、返ってきたのは予想外のものだった。

 「ああ、もしかして宮守さんのことですか?宮守さんなら、自殺しましたよ」

 「じ、自殺・・・!?」

 「ええ。ニュースにもなってましたけど」

 時生は美琴のことばかりで、世間で誰が死んだかなんて見ていなかった。

 帰って新聞を広げてみると、そこには確かに、宮守と書かれた男の名があり、会社の屋上から飛び降り自殺をしたと載っていた。

 「くそっ・・・くそおおっ!!」

 時生は、美琴のことを好きなように書いていた記事を眺めていると、最後に書かれている名前をじっと見る。

 そして美琴の記事を切り抜くと、それを持って何処かへと出かけて行く。

 時生の前には、1人の女性がいた。

 ベンチに座ってスマホを耳にあてながら、分厚い手帳に何かを書いている。

 「では来月の16日、14時からで、はい。よろしくお願いいたします。失礼します」

 電話を切ってからも、しばらくそこに座ったままの女性は、手帳を眺めながらぶつぶつと何か言っており、またすぐにどこかへと電話をかけていた。

 それも終わってベンチから立ち上がると、時生は女性に声をかける。

 「おい、お前」

 「え?・・・あ」

 「?俺に見覚えがあるのか?」

 「・・・いいえ?何か御用ですか?」

 「お前か!こんな嘘っぱちの記事を書いたのは!!娘はな・・・!マスコミに、お前たちに殺されたんだぞ!!それなのに、よくもこんなものが書けたな!!」

 女性に美琴の記事を見せると、女性はため息を吐いた。

 「これを書いたのは私ではありません。それに、こんな事件、私は興味ありません」

 「こんな事件だと!?娘が、死んだんだぞ!」

 「ですから、それに関してはご冥福を祈りますが、私は記者としての仕事をまっとうしている心算です。間違ったことをしているとは思っていません」

 「なんだと・・・!?なら、せめて、娘以外に女がいたことを証明してくれ!あの子はそんなことが出来る子じゃないんだ!!」

 「大変残念ですが、仕事が立て込んでおりますので」

 女性はまるで迷惑そうな顔で、時生から放れて行く。

 肩を上下に激しく動かしながら呼吸を荒げる時生は、ポケットからハンカチに包まれたナイフを取り出した。

 「お前等の・・・お前等のせいで!!」

 女性が肩にかけていた鞄は地面に落ち、女性はゆっくりと後ろを見ると、時生が震える手でナイフを持っていた。

 そこには血がついており、女性は自分の背中から血が出ていることを知る。

 時生はそこから走り去って行ってしまったため、女性は自力でスマホを手に取ると、救急車を呼んだ。

 目を覚ましたとき、そこは真っ白な天井が見えるだけ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ