ちょっと普通じゃない秘密
第二話です♪
あああああ…
きっとこれは悪夢なのだろう。
ありえないありえない。
私があの俺様社長に告白されるなんて…
てゆうか、あの社長のおかげで家にせっかく帰ったのに全然眠れなかった!
…フラッシュバック。
あの無表情俺様仮面がかっこいいとすら思えてしまうイケボで告られるとか…。
しかも相手は大手メンズブランドの社長…。
これで普通の女の子なら即答OKしちゃうんだろうけど…。
…ダメだ。
うじうじ悩んでたら何も進まない。
とにかく、会社に行こう。
きっと仕事をしていれば余計な事が頭から消え失せてくれる…はず。
何せ激務だからね。
きっときっときっと大丈夫だ!
そうでも思わないと何もできない!!
身支度を整えて外に出る。
霞んだ先に、あの社長の住んでいるタワーマンションが見える。
…いや、何も見えない。見えなかった。
かろうじて平静を装って街を歩く。
こういう時は仕事のヒントを見つけることに集中しよう。
…あ、私の勤めている会社は大手レディースブランドなんだけど、会社内での立場がちょっと普通じゃないっていうのが『ちょっと普通じゃない会社員』の原因。
あの女の人の着てるトップスの柄いいな~
着回ししやすいよね~
ハイ、会社着いた。
無事邪念を振り払って激務まで辿り着けたぞ!
後は忘れるだけ!!
「社長!!」
社内に足を踏み入れて三秒。
早速部下から声を掛けられる。
…あ、気付いた?
そうこの鳥羽志織25歳は他でもない大手レディースブランド『BLOODORANGE』の代表取締役社長なのです!
激務な訳も分かったよね?
と、言うわけで今から地獄へレッツダイブ!
さあ今回は何徹かな?
まあ楽しいから良いけど!!
…そんなこんなで書類の山と次々に鳴る電話と格闘して早数時間。
やっと小休憩に入れまひは…。
それでも休憩はこの後打合せする会社の方が来られるまでの時間だけ。
我が社の商品が人気なのは非常にありがたいのだけれどなぜこんなにも社長のやる事が多いのでしょう…。
「社長。『eagle』の社長がお見えになりました。」
休憩終了宣告なり。
仕方なき、仕事モードに切り替えるぞっ。
ていうか社長自ら来るんだ…。
「分かったわ。すぐにお通しして」
この数年で何回はなったか分からない言葉をまた放つ。
今から会う『eagle』はメンズブランドなんだけどうちと同じぐらいに出来てうちと同じくらい人気のブランド。
もしBLOODORANGEがメンズブランドだったり(もしくはその逆)したらライバル間違いなし、だった。
良かった。
コンコン、と控えめなノックと共に社長室の豪勢な扉が開け放たれる。
そして高価な革靴を鳴らし社長が入ってくる。
営業スマイルで向かい入れたその“男”。
………後悔100%なり。
なぜ私は今日会社に着いた時点でこの目の前にいる社長との契約を破棄しなかったのだろう。
…そう、今私の目の前に立っているのはまさに今朝のあの男。
あちらは特に驚いている素振りも見せず応接セットに近づいてくる。
まあそりゃそうか。
打合せ相手が誰だか思い出さなかった私も悪い。
すなわち自業自得とも言えるこの展開なのだが告白を聞いてから何も言わず速攻で立ち去った私としては気まずいというかなんというか…。
一礼だけして立ち去っていく私の部下に必死の思いでテレパシーを送る。
…分かってますよ!無理ですよね!!
あああ…この激務の中忘れていたのに思い出してしまった…。
とりあえず、何も無かったように接そうそうしよう。
「本日は社長自らようこそお越しくださいました。どうぞ、お座りください。」
促しつつ自分も応接セットの超ふかふかソファーに腰を下ろす。
社長になって良かったと思う事の一つ、ふかふかソファーに座ってニコニコ話すだけで仕事になる。
やっぱ最高!
まあ一応仕事の話だからしゃんとしなきゃいけないんだけどね。
サラリーマンでも常識中の常識の名刺交換。
あ、そう言えばこの社長の名前知らないや。
ちょうどいい。
名刺を拝見いたしましょう。
えーと、何なに?
【eagle代表取締役社長 大鷹透夜】
あっ…eagleで鷲なのに鷹なんだ…。
…なんか、ごめんなさい。
察します。
「…それでは早速なのですが、今回の企画はどうお考えでしょう。…大鷹社長。」
躊躇しつつも名前を呼んでみる。
大鷹って雰囲気合い過ぎなのな…。
というか、仕事中に相応しいって言えばそうなんだけど相手に威圧を与えるその無表情俺様仮面辞めてもらえませんかね…。
すごく、すごーく気まずい…。
…はっ!
ここは会社なのよ志織ちゃん!
切り替えしないと…!
「全体的な案は良いと思うが、そちら側にメリットはあるのか。」
ほ、ほら!
大鷹社長も仕事モードでしょ!!
プライベートの余計な感情は切り捨て……切り………切り捨……………切り捨てれない。
なんで私の人生初告白された側体験はこの男がかっさらっていったのだろう…。
初+イケメン。
切り捨てられる人が居るならぜひともお会いしてみたいものですわ!
そんなこんなで告白シーンがちらちらとフラッシュバックしてくる中なんとか打合せは終了。
やり切った!さすが志織ちゃん!!
これでようやくほんとのほんとに大鷹社長とはおさらばだわ。
次からは部下に任せよう部下に。
「それでは、そういう案で。本日はお越し頂きありがとうございました。」
何事も無く営業スマイルで対応終了。
プライベート干渉無しで告白なんて無かった事のようだ!!
…あと3歩。あと3歩で私の激務と言う名の平穏な生活が戻ってくる!
「あ、そうだ。」
急に大鷹社長が先ほどとは違う口調で何かを思い出したようにつぶやく。
どうでもいいことならぶっ飛ばすぞ。早く言え。それか出ていけ。
…なんて言えるはずもなく。
営業スマイルでただただ答える事しかできないのが辛い…。
「なんでしょう。」
嫌悪など1ミリも見せず対応する。
「今朝の返事は、また電話するから答えを考えておけよ。」
…やっぱり大鷹社長も覚えてましたか。
平穏な生活が遠のいていくのが見えました。
……ん?電話?
でも大鷹社長は私の電話番号を知らないはず……って、さっき名刺渡してたーー!
ああ…らしからぬ失態。
でも渡さないのも失礼に当たるし…。
いっそ携帯番号変えてやろうかとか思うけどそんな事出来るはずもなく。
「…はい。」
私は仕方なく返事をするしかできませんでした。
さあ、これからの生活、どうなるのでしょう。
ありがとうございました( *´艸`)