第七話 異世界で作る
さて、俺が図書館に住むようになって三日たった。
ライラは、ここの環境になじんだ。
本は傷つけない。と、言われたことは素直に行動をする。
礼儀作法ができたとはいえないが、なんとか発見! 野生のオオカミ娘からド田舎のやんちゃな田舎娘ぐらいにはなっている気がする。
ついでに、ライラには文字を教えている。
とりあえずは、俺が理解できる日本語のひらがなを教えている。
まあ、日本語は日本人以外から見たら暗号文のように厄介だそうだ。考えてみれば、ひらがな五十音にカタカナ五十音。それらを覚えたら次は漢字だ。
漢字に至っては五十で終わらない数があるのだ。しかも、音読み訓読みと二種類の読み方がある。戦時中に暗号でもない日本語の文章が理解できなかった。と、いう話があるそうだ。嘘か本当化は知らないが……。
とりあえず、教えやすい言葉を教えているだけだ。
ひらがなとカタカナなどを覚えていけば、あとは漢字辞典を読みながらで覚えていけるかもしれない。と、いう理由だ。
俺も違う世界の文字を解読している。
読めるのだが、文字からどうすればという説明が楽なのだ。
たとえば、本という文字。その文字からこれは、本と読む。文字の翻訳の辞書を書いている。あいうえお順で書いているのだが、今期がいる。
パソコンがあるので助かっているのだが、根気がいる。とはいえ、やっているのはこれだけではない。
「さてと……あれの準備はどうかな?」
と、俺は調べる。
台所があるのと資料から作ったこの書庫があることで手に入る便利な代物を作る。異世界の薬になる植物などで薬を作る。後は、そのままだと食べれなかった木の実などを食べれるように加工する。たとえば、どんぐりだ。
あいにくも俺も元居た世界では、どんぐりを食べたことはなかったが、ちゃんとした処理をすれば食べれる。と、いう話を聞いたことはあった。
ただし、ちゃんとした処理の仕方は知らなかった。
その処理の仕方を調べたのだ。
まず鮮度を調べる。水に入れて沈んだドングリの殻を石などで割って薄皮を剥く。その後、煮込んであく抜きをして天日干しをする。
これで保存食の完成である。
問題は、
「あんまりおいしくねえな」
「ないね」
俺の言葉にライラもうなずく。
美味しくないのだ。これが……。
「せめて、酢があればマヨネーズでも作れたんだけれどな」
卵ならライラがどこかの鳥から卵を奪い取れる。油は油が多い植物から絞ればよい。マヨネーズは中毒者も出るような調味料で味噌や醤油と違いすぐに作れる。味噌や醤油は発酵させる必要があるからな。
「ハーブを集めるしかないんだよな」
しょうがないのでハーブを集めている。あとは、薬草になるとかそういった品などを集めている。そして、さらに高い技術の品などの資料。それらで説得するしかない。
実物が弱いが、一人だとこんなもんだった。
いや、二人だな。
ライラがいなければ、卵すら手に入らないだろう。
俺はそう思いながら、卵と砂糖と牛乳を使ってプリンを作っていた。
牛乳といったが、正確に言うと何かの木の汁だ。まあ、図鑑で見たところ牛乳に似た成分の液体が出るそうだ。試して飲んでみたが、たしかに牛乳のような味がした。
プリンは極めるのは難しいが、材料はそれほど困難ではない。
砂糖になる木の根っこを煮込んで味を固めて砂糖にする。
質の悪い砂糖だが、まあ良いだろう。
ちなみに、ライラは、
「甘い。おいしい。おいしい」
と、ほおっておくと糖尿病になりかねないほどに食べかねなかったんので取り上げた。とにかく、俺が作ったプリンはお店で食べるプリンに比べるといろいろと問題が多かった。
砂糖は液体の状態で入れたので、砂糖がざらざらしているわけではない。だが、プリン液を蒸すのは大変だった。火力が強すぎて中に空気の粒が入って固くなる。
これを、『す』と、いうらしい。いろんな本を見て、とりあえず卵で作れる料理を一通り作っていく。プリンがもっとも材料が少なく簡単に作れそうな品だったのだが……。
少なくとも現状である品で作れるおいしいものがプリンだった。
あいにくと俺はそれほど料理が上手ではないので……。
「……飽きた」
一日、卵は二つまで。と、いう言葉があった。
その分量を守り卵を食べすぎないように気を付けていたら……。
飽きていた。
だが、そのおかげでどうにか食べられないこともない。
……素人の作品にしてはそれなりのプリンができた。
「これ、美味しい」
「そりゃ、良かったな」
ちなみに、ほかに作ったのはショウガや香草といったハーブを使った肉を煮込んだもの。あるいは、魚を煮込んだものだ。
泥臭かったりする癖のある魚であるが、臭みを取るようにしておいしく調理ができたのだ。川魚を刺身にはしたくないので、やらなかった。
寄生虫とかが怖いので……。
衣食住で一人である程度、出来るものは食だと思う。
とはいえ、すぐに食を充実させることができるわけではない。
と、いうことを俺は改めて理解したのであった。
とにかく、そんなことをしている間に約束の一週間が来たのであった。
「おぬしが、トーヤどのか」
案内されて出会ったのは、病気だった長である。
今もまだ完治とまではいかないが、かなり調子がよくなったらしい。
らしい。と、いうのはあいにくとリザードマンの顔色はよくわからない。血色がよいとかそういう表現も難しかったりする。
だが、表情から察するに好意的に見てくれていると思いたい。
「はい。初めまして。
長殿。望月桃也と申します」
と、俺は頭を下げる。
「いや、そうかしこまる必要はない。
あなたのおかげで病が治った。
このまま死ぬと思っていたがこうして生きていくことができる。
そうなったのは、感謝してもしきれない」
「ありがとうございます」
「だが、村の場所の移動となると話は別だ」
その言葉に俺は相手を見据える。
「もちろん、頭ごなしに否定するつもりはない。
だが、村の大移動となれば話は別だ。
何かしらの利点がなければ、うなずくことはできない」
「わかっています。
まず、あの図書館の周辺ですが……水場もけして離れていません。
生活環境は大きな変動はないと思いますが」
「あの神殿の環境は我々としてもけして、生活が不可能というわけではありません。
ですが、一から建物を立て直す必要があります」
「はい。ですが、あの都市での知識を使えば、この家よりもはるかに優れた建築技術の知識も手に入れることができます。もちろん、その技術を再現できる技巧も必要でしょう。
ですが、あなた方の知らない知識をすぐに手に入れることができるはずです。
知識がどれだけ価値があるか、あなた方は理解したはずです」
おう。長の病気はよい例だ。
「今回は、時間をかけることができました。
ですが、一刻を争う状況もあるはずです。
そして、知識は常に必要というかあっても困らないはずです。
これは、俺があの図書館で得た知識で作ったものです」
そういって、俺はプリンとどんぐりを差し出す。
「ほお。これは、食べれば腹を下していたし苦みがひどかったが……。
苦みをけし無毒にすることができたとは」
「ええ。保存食としては可能かと思います。
あと、こちらは嗜好品となりますが」
と、プリンを進める。
見たことない料理を見て警戒をした様子の長であったが、警戒しつつプリンを口にする。その瞬間だった。
「うまい!」
叫んだ。
あまりの大きな声に俺は、思わずこけそうになった。
「なんだ? これは?」
「えっと卵。
鳥の卵と牛乳。いや、牛乳じゃないか……。
とにかく、ちょっとした特殊な白い液体を混ぜたものです。
本来ならば、動物の乳を使うのですが今回は手に入らずに代用品で補いました。
本来ならば、もっとおいしいものができるのですが……」
と、俺は説明をする。
嘘ではない。
俺が使ったのはあくまで代用品だ。
本当の牛乳を使えば、もっとおいしいプリンが作れただろう。
いや、それだけではない。きちんとした砂糖が作れていたらもっと美味しいのが作れた。「さらに、本当の牛乳。
それが手に入れば、もっとおいしい品をいろいろと作ることができます」
たとえば、チーズやヨーグルト。アイスクリームなどなど……。
「おお。これよりも美味なるものが」
「はい。さらにいうならば、魚をさらにおいしくすることも可能です」
たとえば、バター。それが手に入れば、魚の料理方法は増える。
「ですが、俺には知識を集めることがわかります。
けれど、人手も……技術も足りません。そして、力も足らないんです」
と、俺は言う。
「例えば、必要な植物を手に入れるには危険な場所を通らないといけない。あるいは、必要な品を手に入れるのに、戦わなければならないことがあると思います。
俺にはそれができるという保証はないのです。
また、俺の一人では作れる数に限りがあります」
これも事実だ。
俺だっていろいろとしなくてはいけないことがある。
「病気の薬を探している間にも必要なことを支持する。
今回はただ薬草を煎じるだけでよかった。
けれど、もしも薬を作るのに必要なのが時間がかかれば……」
「なるほど、おぬしのそばに住むのがよいと言ことか……。
いや、もっと正確に言えばあの遺跡……図書館といったな。
そこの近くで住むのは大切ということですな」
「はい。俺が主となったので、俺が許可を出せばあの周辺に住んでいたとしても問題はないはずです。きちんとして住めば、それは問題がないはずです。
こちらへの通路を作るというのも一つの手段です。
とにかく、いろいろと考えてください」
と、俺は頭を下げていったのだった。