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第六話 異世界の図書館


 さて、ユキノたちは薬草の図鑑を借りて(本の貸し出し管理もマーレファがしているそうだ)場所へと向かった。一応、俺が本を読んでどんな場所にみられるかを説明しておいた。なんでも、日当たりのよい木々が多い茂った場所にあるそうだ。

 ユキノたちではその病に効果がある薬草は、基本的に湿地帯が多かったらしい。そのために、湿地地帯を中心に日当たりの悪い場所を探していたそうだ。

「うむ。まさか、日当たりがよい場所にあるとは」

「まあ、異世界だから」

 と、驚くユキノに俺は言うが、俺の世界では日当たりの良い場所の方が植物はよく育っていた。そのために、今まではずっと日当たりの悪い場所ばかりを探していたユキノたちに逆にあきれてしまう。

 さすがに、口には出さないが……。

 そんな俺とライラは今、図書館をマーレファの案内で見て回っている。

 図書館といっても、書籍だけではない。魔力で映像を見せる装置。あるいは、機械仕掛けの立体映像の装置。中には、学習ビデオみたいなものもあった。

 内容もいろいろであり、大学などで専門的に学ぶ博士号とか、ノーベル賞とか。そんなえらい賞を手に入れるような優秀な頭脳を持った人間じゃないと理解できない。

 そんな専門書もあった。

 あいにくと、俺は文字が理解できるだけであり内容まで完璧に理解できるわけではなかった。そのために、こういうのは独学で学ぶしかなさそうだ。

 どこかに学校の先生でも召喚されていないだろうか?

 かとおもえば、

「ぶーんぶーん」

 対象年齢三歳だろうな。と、幼児番組で笑顔で子供と一緒に歌って踊っているお兄さんとお姉さん。そして、何かの動物などを模したのだろうかわいらしい着ぐるみのような服を身に着けている乳児たち。そんな子供たちと一緒に、歌と一緒に合わせて踊っているライラ。まあ、こんな幼児向けの教育番組もあった。

 歌の意味などは解っていないが、リズムはわかるし楽しそう。と、いうのも感じるのだろう。楽しそうにライラは踊っている。

 ……あいつ、実年齢は何歳だ?

「記録します。ライラの精神年齢はかなり低い」

「あー。親に育てられたこともないからな」

 マーレファの言葉に俺はそういう。

 そもそも、考えてみればライラは俺があうまではだれかと会話する必要すらなかったのだ。それを、考えるとかわいそうなのかもしれない。と、俺は思うのだった。

 図書館というだけあって、本もあるが映像を見るための道具もある。テレビもあるし、シアターもある。さらに、自家発電装置もありどの道具もすぐに使える。

 自動的に修理する装置まであるのだ。

 さらに、それだけじゃない。

「台所にベッドもあるのか。冷蔵庫や冷凍庫もあるのか」

 台所があり、簡易キッチンがある。あいにくとコンロは二つだし、電子レンジやオーブンといった本格的なものはない。だが、簡単な調理器具、やかんや鍋にフライパンとある。

 お皿やティーカップといった食器もあるし、冷蔵庫や冷凍庫も動いている。あいにくと、茶葉や砂糖や塩といった調味料もなければ、食料もない。冷蔵庫も冷凍庫も小さいが、これは便利といえるだろう。

 庭もあるし、そもそもこの図書館は成長するらしく変形もできる。

「……。なあ、マーレファ」

「なんですか?」

 俺の言葉にマーレファはたずね返す。

「この近くに人が住んだりしたら、迷惑か。あるいは、ここに誰かが住むのは」

「本に問題を起こさなければ、不都合はございません。

 また、近辺に住むのも問題はありません。

 本来、居た世界では近くに人に住んでおりました。

 また、たくさんの人が訪れて知識を求めるならば喜ばしいことです」

 追い払っていたくせに……。と、思うがそれなら、

「なら、俺がここの管理人になる。

 で、近くにリザードマンやライラ達が住んでもよいか?」

「かまいません」

「あと、ここで学校を作りたいし、いろいろと仕事をしたい」

「わかりました。それでは、あなたを持ち主として登録させていただいてもよいでしょうか?」

「持ち主となった場合、どうなるのかを教えてくれるか?

 その結果の話にもよるからな」

 マーレファの言葉に俺はそう言えば、

「かしこまりました。

 こちらが、契約書となります」

 そうマーレファが言った瞬間だった。

 ぶわりと俺の目の前の虚空に文字が浮かび上がる。

 見慣れぬ文字だが読むことができる。いや、理解できる。

 読み解いていくが、とりあえず命に危険はない様子だ。

 これで、寿命を削るとか命を対価にする。あるいは、何かを犠牲にするというわけではない様子だ。言ってしまえば、俺がこの図書館の館長になる。

 と、言う意味合いらしい。

 知識の管理や本を貸し出しるのとかの管理をする必要もあるそうだ。それを、考えれば俺は冷静に読んでいく。異世界ではクリーニングオフも弁護団も存在しないのだから……。

「契約を受理しました。

 それでは、館長室へとご案内します」

「そんな部屋があるのか」

 まあ、当たり前と言えば当たり前かもしれない。

 マーレファの言葉に俺がそう思っている中で、マーレファは壁に手を当てるとドアが現れた。戸惑う中で、俺はマーレファに促されて部屋に入ると、

「へえ」

 誰も来ていなかったはずなのに、きれいな部屋だ。

 窓があり日差しが差し込んでいる。ふかふかのベッドに机に本棚。カーペットもしいてあり、環境の良い執務室というよりも自室のようだ。

 と、いうか……。

「俺の部屋?」

 そう。俺の元居た世界の自室によく似ているのだ。

「マスターの記憶をもとに部屋を作らせていただきました。

 これは、マスター専用の部屋となります」

 なるほど。俺のイメージで俺の部屋を作ったのだろう。

 ふと、そんな中で見慣れるものがあった。

「これは?」

 アンティーク調の古びた感じの鍵だ。手のひらほどの大きさだ。

「それが、この部屋の鍵です。

 この図書館でしたら、どんな扉だろうが壁だろうが関係ありません。

 いつでもこの部屋に入ることができることができます。

 また、お望みの場所に出ることも可能です。

 あくまで、この図書館の中ですが」

「へえ。便利だな」

「ただし、なくさないように……。

 なくした場合は、図書館の館長の資格を失ったと判断させていただき、二度とこの図書館をご利用できなくなります」

「おう」

 それは、気をつけないといけないようだ。と、俺は思う。

 俺は適当に持っていた草のつるを使って首飾りにして首にかけておくことにする。近いうちにもうちょっとちゃんとした品。金属のチェーンとかで補強をしておきたい。

 そう思いながら、俺は部屋を出る。

 ライラのいる部屋と思ったので、ライラがいる部屋にたどり着く。

 ライラはというと、寝っ転がって腹を出して寝ていた。

「子どもだなー」

「子どもですね」

 俺の言葉にマーレファもうなずく。

 とにかく、ユキノたちが戻ってきたら交渉をするべきだな。

 俺の発案では、ユキノたちにこの付近で暮らしたらどうだ? と、いう発案がある。

 もちろん、それがすぐに受け入れられる。と、思っているわけじゃない。ユキノたちがあそこに暮らしているのにも俺にはわからない理由があるはずだ。

 だが、こちらにも利点がある。

 まず、ここには情報と知識が文字通り、山のようにある。俺は雑学に飛んでいるわけじゃないが、調べていけば農業の方法。狩りの方法。病気の予防や治療法。そういったものを見つけて、どうにかしていくことが可能な可能性もある。

 さらに、現代日本人としてはここの図書館での生活は逃れられない。

 楽を覚えると、元の苦労する生活に戻れない。と、いう話を聞いたことがある。それは、事実だと思う。

 布団に枕があって屋根があって壁がある生活。それが、当たり前となっていた俺は巨大な鳥が使っていたと推測される鳥の巣で風呂なし、調味料なし、屋根なしの生活は苦しかった。ようやっと、見つけた俺の生きていた世界に近い文明レベルの生活。

 調べてみたら、風呂はなかったがシャワーはあった。

 暖かいお湯、調理できる台所。俺としては、ここで暮らしたい。かといって、俺は知識を蓄えたからといってそれを実行できる人でも技術もないのだ。

 環境を上達させることもできない。生きていくのも難しい。そういう環境だったから、我慢できていたがある程度の保証ができたとたん生まれてきた願望。

 白米が食べたい。味噌汁が飲みたい。醤油味の何かが食べたい。和食が食べたい。別に、和食が死ぬほど好物。と、いうわけじゃない。

 だが、二度と食べられなかったかもしれない。そう思うと、突如として食べたくなるものがある。刺身とか、お寿司とか天ぷらとか卵かけご飯とか……。

 とはいえ、米の育て方の本があったとして現物の米があるという保証はない。味噌や醤油も俺は大豆を使うと知っている。大豆の育て方が知ったとしても、大豆の現物があるという保証はない。

 さらに、現物を手に入れてどうやって育てるのだ?

 大豆ならば、まだ簡単かもしれない。だが、米は違うはずだ。

 米とは、八十八の手間がかかるという意味を込めて米と書くのだ。さらに、現代文明の機械もないのだ。それを、考えると育てるのがどれだけ大変か?

 ただの一介の高校生がいきなり、米作りを成功させると思えるほど俺は楽観視ではない。それに、ユキノたちの生活もだ。今まで、どうにか生きてきたが今までもこうして生きていられる保証はない。今回のような病気をはじめとした、危機に直面する可能性がある。

 そんなこと、知ったことではない。と、言い切れるほど俺は薄情な人間になったつもりはない。だからこそ、俺は決意をしていたのだ。

 そう思っている中で、

「マスター。

 客人です」

 と、マーレファが現れて言う。

 どうやら、ユキノたちが戻ってきた様子だった。

 俺はユキノたちの元へと向かうことにしたのだった。

「長の病気は治って言っている。例を言う」

「こちらこそ、あなた方のおかげで自分の力がわかりました」

 今までは、俺にあるという力もわからなかった。

 だが、これがわかったことは幸いだ。

「それで、一つの提案だ。

 まず、俺は図書館に住むことになった。

 いろいろと、ここは環境がよいからな。それに、情報が多い。

 ここでの知識は役に立つはずだ」

 軽く調べてみていたんだが、便利な情報は多い。建築の本や農業、畜産の本もある。ほかにも、魔法やら科学技術の本もあった。

 とはいえ、俺に理解ができるかどうかは別の問題だったりする。

 算数を学んだばかりの小学生がいきなり、フェルマーの定理について書かれた本を読まされたところで、理解ができるわけがないのと同じだ。

「なるほど……そうですか」

 と、心なしかさみしそうに言うユキノ。

 尻尾がぺたりとヘタレているのが犬みたいだ。

「それで、提案なんですが……。

 あなた方も図書館の近くに集落を移動させてみませんか?」

「へ?」

 俺の発案にユキノは驚いた声を上げる。

「もちろん、集落がもっと大きければ俺は発案を考えました。

 けれど、今の集落は言ってしまえば小さなものです。

 図書館は、一時的に寝起きができる環境もそろっております。

 そこで、一時的な寝泊まりをしながら近くに集落を作る。

 何か困ったことが起きれば、俺に相談をすれば俺が必要な情報を書いてある本を見つける。さらに、俺が何か役に立ちそうなものがあれば、それを実現させるのに手伝ってほしいのです。これは、別に条件じゃありません。

 そこの集落に住んでいるのに何か理由があるかもしれません。

 けれど、たとえば急病や急ぎの要件。それを、伝えるのには大変ですし……恥ずかしい話、俺はインドア……。あまり、鍛えられていないたくましく無い種族です」

 現代日本人は、優れた文明を持っている。

 海を離れた大陸同士の人とすら、一瞬で会話が可能なほどだ。一時間で、四十キロも五十キロも、その気になれば百キロも走ることができる乗り物。乗り物は地を走るだけじゃなく、空を飛び、水上を走り、水中へと潜る。硬い岩盤を破壊し、鉄を切り裂き、一瞬で情報を伝え、夏は涼しく冬は暖かくきれいな水がちょっとひねるだけで、出てくる。

 お湯を沸かすのも簡単で、初夏秋冬と四季を問わずに作物を栽培することも可能。きちんとした保存さえすれば、食べ物を年単位で保存も可能。

 そんな社会で育っている俺は、それほど強靭な体を持っていない。

 おそらく、集落の子供にも負けるかもしれない。

「途中で、何かあればこの図書館での知識を手にする方法は失います。

 あなた方も、それは困ると思いませんか?」

 何しろ、彼らはすべてのこの書物を読めるわけではない。

「もちろん、これは俺のわがままです。

 あなた方が断ったところで、あなた方に俺は協力します」

 と、俺は前置きをする。

「ただ、もっと良い環境を作りたいと思っているんです。

 効率的に考えると、ここがよいんです」

 俺の言葉に、

「長が目覚めてから、少しだけ考えさせていただけないでしょうか?」

 と、答えた。

 まあ、考えてみればそうだよな。と、俺は納得する。

 何しろ、状況が状況だ。

 村の形にかかわることだ。

 これが、村人が一人、二人増えました。

 それならば、事後承諾というか独断で決めたとしても問題はない。

 だが、村を移動させるとなると大ごとだ。

 それを、かってに決めるというのは問題だ。

 しかも、ユキノは村の長の娘にしか過ぎない。

 長の娘という言ってしまえば代理だ。

 しかも、娘……つまりは、女性だ。

 あいにくと、彼らの文化や風習は詳しくないが、長というのは男性がするもの。と、いうイメージがある。あくまでイメージでしかなく実際のところは、どうなのかはしらない。ひょっとしたら、そういうのは関係なく長子が長になる。

 と、いう決まりがあるのかもしれない。

 とにかく、長というリーダーの病が治るまでの臨時だったところがある。

 その病も治り始めたところ、長の意見を聞くのは大切だ。

「わかっております。

 村の長が治ったらこちらに連絡をいただけますか?

 こちらの方も、もっと判断材料をご用意しておきます。

 そして、長と話をさせていただきたい」

 何事も会話は大切だ。

 話せばわかる。と、いう言葉があるがとりあえず話ができるならば、話をするべきだろうと俺は思う。

 まあ、話してもわからない相手には話しても無駄。と、いうのもあるが……。

 俺は加護のおかげで、会話が可能なのだ。

 ならば、話をしたいと思って何が悪いというのだ?

「わかった。七かい月が上った翌朝にまたここに来よう」

 つまり、一週間後ということか。

 と、俺は思いながらうなずいた。

 そして、彼らが出ていったのを確認して俺は図書館であるものを調べ始めたのだった。

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