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第四話 異世界を進む


 まあ、たしかにデメリットがあるだろう。長が生き延びた事が出来たとしても、新しい食いぶちが二人増える。

 増えた場合、食料や寝床などを面倒を見る必要が増える。

 しかも、俺だけならともかくライラは言葉が通じない。

「ライラに対して確かに不安があるだろう。

 ライラの方は、俺が言葉を伝える。そのうちには、言葉が伝わりあう事が出来るかもしれない。お互いの知識や知恵や技術を交換しあう。

 何かに得る物がある。それに、俺としてもライラには世話になった。

 もっと環境が良い場所があるからと、見捨てるような人間になりたくない。

 そして、そんな人間をお前達は信用が出来るか?」

 俺の言葉にユキノは、

「言っておくが、特別扱いは出来ない。たとえ、長を救えたとしても食事に水も大した事は無い。働きに応じたもので最低限の食料以上は、働き次第。

 住む場所なども、言ってしまえば自力でどうにかしてもらうところがある。

 それでも良いのか?」

「かまいません。と、言うか俺の故郷には働かざる者、喰うべからずと言う言葉があります。ちゃんと、働かない人間は食べるな。と、言う言葉です。

 まあ、老いた人間やまだ幼い子供なら多少は例外になりますが……。

 子供はちゃんと未来のために知識を学ぶ。老人は、得た知識を若者に伝えて未来への道標を作ると言うのが仕事だと俺は思っていますし」

 恩人だから……。と、言う理由で動かずに何もしないわけじゃない。

 まあ、俺は厳密に言えば未成年こどもなのだが、この環境で子供を主張するような事は出来ない。と、言う事ぐらいはわかる。

「なるほど。ならば、さっそく働いて貰おう」

「あ、その前にライラの方に話を……。

 ライラが断れば、ライラを無理につれて行くつもりはありませんし」

 と、俺はユキノの言葉に言う。

 まあ、ユキノが焦る気持ちも分かる。

 実の父親の命が掛かっているのだ。

 とは言え、ライラにせめて最低限の説明はしたい。

「えっと……待たせたなライラ」

「うん。待った」

 素直にライラは頷く。

「ライラ。俺は、いろんな奴の言葉が解る。そして、こいつらは俺にしかできない仕事を頼んだ。人の命が関わっている仕事だ」

 俺の言葉にライラはすっと相手を見る。ライラは馬鹿だが何も考えてないわけではない。ただ、知識を得ると言う機会が無かった。そんな環境でここまで生きて生けたのだ。

 むしろ、頭は良い方のはずだ。

 ただ、きちんとした知識や技術を学ぶ事が出来なかったのだ。

「そして、俺はここに住もうと思っている」

「なんで?」

 俺の言葉に、ライラは首を傾げて尋ねる。

「ライラ。お前は、よく頑張って生きて居る。

 けれど、いつまでもあの環境でずっと生きていく事が出来るわけじゃない」

 と、ライラに言う。

「人間は生きていく上で、お肉だけじゃない。野菜も必要だ。

 それに、ライラ。お前がもしも、これから大怪我を負ったら食料は手に入らなくなる」

 俺は淡々と言う。

 事実、今まではライラは怪我らしい怪我はしなかった。

 だが、これから先は万が一にでも大怪我を負えば治療も満足には出来なく成るだろう。

「一人じゃ限界があるし、俺だけじゃお前を助けきる事が出来ない。

 けれど、ここならお互いに出来ない事を補い合う事が出来る」

 と、俺は言う。

「助け合いが出来るんだ。

 だから、お前もここで住まないか?」

 と、俺が言うとライラはしばらく考えて、

「良いよ? けど、ライラ。言葉が解らない」

「しばらくは俺が翻訳する形だな。

 その後に、言葉を教えていけば良い」

 と、俺は言ったのだった。

 そして、

「話はまとまった。その神殿に案内させて下さい」

「わかった。私と……この者達、セレイとレセイが案内します」

 セレイとレセイと言うのはおそらくお供の二人のリザードマンなのだろう。

 ……どっちが、セレイでどっちがレセイなのかは解らないけれど……。

「それじゃ、ライラも一緒に行くぞ。

 ライラ。こいつらの名前だ。えっと、こいつがユキノ。

 名前を言ってみてくれ」

「ユキノ」

 俺の言葉に素直にユキノが名を呼ぶ。

「ユキノ。ライラが名前を呼んだが、理解出来たか?」

「ああ。ややなまりがあるが名前はちゃんと理解出来た」

「なるほど……それなら、まったく言語を理解し合えない訳じゃ無いか。

 何かあったら、それぞれの名前を呼んでみてくれ」

 と、俺は言ったのだった。

 いや、まあ……問題は、セレイとレセイの区別が付かないと言う事だ。

 その後、俺たちはそちらへと向かうことになる。

「へー。つまり、セレイとレセイは双子なのか」

 と、ユキノから改めてセレイとレセイを紹介されたが、なんでも一卵性双生児らしい。リザードマンはほ乳類らしく、お腹から生まれてくるらしい。

 てっきり卵から孵ると思っていた。

 俺はそう言いながら、セレイとレセイを見る。

 二人とも、同じ青みがかった鱗をしておりよく似ている。

 ユキノの方は、良く見ると身に着けている服がやや豪華だし鱗はやや白っぽい。かといって、不健康と言う意味合いではなく白蛇とかのような自然な色合いだ。

 とは言え、やっぱりあまり区別は付かない。

「ああ。同族でも区別は付かないが……。

 お前らも区別は難しいか?」

「ああ。あいにくと、大体の年齢を経ていたりするので区別をつけれるが……。

 正直な話、男女の区別も付かない。お前らは?」

「まあ、髪の毛の色や肌の色で判別しているな。

 あとは、男女の区別ぐらいはつけるが……」

「うーん。そうか」

 一緒に暮らす上で、名前を覚えたとしても個体を区別出来ないの派問題だな。と、俺は思う。まあ、その場合は一緒に暮らしていて、どうにかして慣れるしかないだろう。

 ペットを飼っている人も、可愛がっている内に同じ犬種の犬でも見分けが出来るようになると言うのを聞いたことがある。

「まあ、一緒に暮らしていく中で見分けがつくようになるかもしれないな」

「そちらの方は修練次第だな。

 なるべく見分けが付くように方法を考えるが、それよりも先に考えるのは父の事だ」

「ああ、そうだな」

 ユキノの言葉に俺は頷く。

 ちなみに、現在としては良い服を着ているのがユキノ。

 似たような服装をしているのが、セレイとレセイとして区別をつけている。

 まあ、大抵は二人一緒に居るらしい双子なので一緒に名前を呼べば良いだろう。

「しかし、お前はどうしてこの世界に来たんだ?」

「それが、わかれば苦労しないね。

 平凡、平和に暮らしていた。

 まあ、俺たちの世界の小説……絵空事の物語じゃ平凡で普通の学生が、異世界で勇者として選ばれて召喚される。と、言うような事もあるけれどな。

 こうして、現実に異世界へと召喚されて帰れない。と、言う状況になると物語のやつらは、よくそんな状況を納得できる。と、思うよ」

「ま、たしかにな。我々は、自業自得の意味合いもあるから納得が出来るが……。

 他者の勝手な都合でこうなったとなると不愉快だろう」

 俺の言葉にユキノは納得する。

「そう言えば、ライラ。

 お前は、どうしてこの森に住んでいるんだ?」

 と、俺は改めてライラに尋ねる。

「わかんない」

 はい。ある意味では予想通りでした。

「ライラ。まだ、小さい。

 母様、生きろ。そう言った。

 光、ライラを包んだ。

 ライラ。森にいた」

「端的だなー」

 と、俺はライラが言っていた言葉を、そっくりそのままユキノ達に伝える。

「うむ。

 まるで、戦乱から子を逃がすような言い方だな」

「あ、なるほど」

 戦争反対国家であり、第二次世界大戦からは平和ボケをしている。と、まで言われるほど戦争に縁のない日本人の俺は、すぐに思いつかなかった。

 だが、読んだ本などで思い返してみれば、戦争などで子供を逃がす。と、言う話はある。まあ、架空の物語や過去の逸話としてきくならば、美談となるが実際に起きたとなると、やるせない気持ちになるものだ。

「まあ。あくまで仮説だがな。

 そもそも、逃がす先がどうしてこの世界なのかがわからん」

「うーん。仮説に仮説を重ねる。

 もはや、妄想の話になるがそれでも良いか?」

 と、ユキノの疑問に俺は前置きをする。そして、ライラにもこれはお前が、この世界で生きて居る理由かも知れないが、俺の想像だ。と、言っておく。

「真実とは限らないからな」

「別にどうでも良い」

 そうライラは切って捨てる。自分の事だというのに興味が無いらしい。

 まあ、元の世界に戻る方法もなくその記憶がほとんど無いからこそ、哀愁も故郷に帰りたいと言う願いもないのだろう。

 ある意味では、前向きに生きている証拠だ。

「その戦乱が世界規模と仮定する。で、たとえ、逃げたとしてもこの世界だと安心が出来ない。だから、異世界へと逃がした。と、言う仮説だ。

 さらに、異世界へと生きた人間を無事に移動させる。と、言う魔法は難易度が高い。

 ひょっとしたら、未完成だったのかも知れない。で、転移に失敗した」

「なるほど」

「へー」

 納得するユキノに対してライラは未だに他人事のようだった。


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