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第二話 異世界で会話する


「人間とは文明的な生活をするべきだ。と、思う」

 と、俺はそう唐突に叫んだ。

 ライラと出会って三日経った。

 俺はこの生活に不満を覚えていた。

「ぶんめー」

 と、ライラが首をかしげる。

「食生活、生活環境。全てが人間の生活スタイルじゃないんだよ」

 と、俺は言う。

 俺はライラの家……正確に言えば、その昔に住んでいた鳥の巣穴に住んでいる。

 ちなみに、この家を作った制作者にして元住人……もとい、住鳥はライラの血肉となったそうである。まあ、そこはそれほど重要ではないだろう。

 鳥が住んでいたねぐらを住処にしている。

「まずは、環境だ。

 住む場所を変えた方が良いと思う」

 と、俺は言う。

 何しろ、屋根も壁もないここは夜風が吹き荒れて、雨がふれば体が濡れる。夜露や朝露も襲い掛かり、何よりも若い男女が同じ場所で寝ているのだ。

 あいにくと、そう言う関係にはなってはいないが……。気まずい。

 なにしろ、ライラは露出過剰だ。

「ちゃんとした家が欲しいし、食料もきちんと保存が欲しい。

 あと、食べ物だってちゃんとした料理が良い」

 と、俺は言う。現代文明になれた俺としては血抜きもされていない肉を焼いて食べる。(味付けなし)に、野菜や果物は生野菜。(ドレッシングなし)である。

「せめて、塩だ。塩が欲しい」

 日本人にとって五大調味料にさしすせそ。と、言うのがある。砂糖、塩、酢、醤油、味噌である。そのうち、もっとも大切なのは塩である。

 ある国では、塩を手に入れる為の行動で革命すら起きたと言う話を聞いた事がある。

「塩?」

「しょっぱいやつだ。とりあえず、味覚だ。味覚をなんとかする」

 と、俺は宣言した。

 狩りは出来ないが、とにかく俺も貢献する。そして、そのためにはまずは味覚だ。衣食住の食をまずは充実させたい。と、俺は宣言したのだった。

 そして、俺は行動へと移す。

 俺も伊達に田舎育ちではない。ライラが見つけた石の中に、黒曜石に似た石があった。……ただし、色は黒ではなく茶色だった。そのため、俺は黒曜石ではなく茶曜石と名付けた。とにかく、さすがに日本で手に入るナイフと同じではないが、それでも刃物としては十分だ。と、俺は判断する。

 ちなみに、現在の俺の持ち物は以下の通りである。

 制服(春・秋用)。日本の学ラン。冠婚葬祭に使える万能な服。色は黒。それなりに暑さ寒さを和らげてくれる。燃える。色は黒なので汚れはあまり目立たない。

 カッターシャツ。学校に着ていくときに着ていた下のシャツ。真っ白だったが、現在は汚れで薄く汚れている。長袖。

 名札。日本語で俺の名前が書いてあり、上にはローマ字で俺の名前の読み仮名がついている。ちなみに、ライラはこの文字は両方とも読むことが出来なかった。ピンがついている。安全ピン。

 生徒手帳。校訓と身分証明が出来る顔写真がある。かといって、この場では何の役に立つかは解らないがメモ用紙にもなる。ペンもある。はない。合成樹脂のカバーがついている。が、成分などには当然ながら詳しくない。

 スマホ 通信装置。ただし、電波は届かない。電池も切れた。重しにしかならない。が、壊れてしまうのももったいない気がする。

 である。……こんな事ならサバイバルナイフでも常に持ち歩いていれば、良かった。と、思うが現代日本で常にサバイバルナイフを持ち歩いているような人間なんぞ、危険人物だ。

 まさか、異世界に突然に召喚されてサバイバルをする事になる。と、言うような事を想定しているような人間なんぞいるわけないのだから……。

 とにかく、武器になるものが欲しかった。

 とは言え、

「はたして、これは武器になるのだろうかね?」

 と、俺は茶曜石で作ったナイフもどきを見る。

 原始人だってもっとまともなのを作れただろうな。と、言うような辛うじてものが切れる程度であるが、たぶん肉を切る事は出来ないだろう。

 そう断言できる程度である。

「ま、危なくなったら逃げよう」

 と、俺は決める。

 そして、俺は周囲を探索を始めた。

 まずは木の実である。

 存外、木の実は簡単に見つかる……見つかるのであるが、

「問題は食べる事が出来るか? なんだよな」

 だった。

 有毒植物であり、食べたら死んだ。と、なったら笑えない。

 では、どうするか?

 答え、動物実験と言うのがあります。

 と、言う事で動物実験から始める事にした。

 非道という事なかれ……世の中、弱肉強食。毒で死ぬ生き物は弱者である。

 智恵がある存在が強者なのである。と、俺は静かに主張しつつ、適当に植物を集めて生き物を探し始めたのだった。

 植物には味がある。そもそも、メープルシロップだって樹液なのだ。まあ、メープルシロップのように味覚になるものばかりとは限らないだろうが、それでも木の実などもある。欲しいのは甘みである。それと、野菜。

 人間は野菜だって食べないと病気になるのだ。問題は、その植物が無いと言う事だろう。後は、なんといっても塩が欲しいと言う事だ。

 人間、水と塩があれば生きて居られる。と、言う言葉がある。

 まあ、健康かどうかはさておき塩は欲しいが……。

「どこかに塩湖とかないかな?」

 塩湖とは、海水の湖である。

 そこから、ちゃんと調節すれば塩が手に入る。

 そう思いながら、俺は適当な植物を集めて近くにいた動物へと放り投げる。毒かと警戒するやつらも多いが、中には食べるやつもいる。

 そして、食べないやつもいる。食べないもの、食べた物などを生徒手帳に書き込んでいく。問題は、これが人類が食べても死なないと言う保証があるかどうかと言うのは、怪しいと言う事である。

 どうせ異世界に行くならば、転移特典とか欲しかった。

 と、思う。最近あるゲームなどでは異世界に転移した人間は何かしらの特異能力を手に入れるのだ。それが、大抵はチートと呼ばれるようなやつだ。とは言え、身体能力は普通だし魔法や特殊能力が使えるわけではない。

 毒物無効とか出来れば良いのだろうが、あいにくと解らない。万が一、試してみて毒が有効で死んだら……ただのアホである。

 そう思っていると、足音が聞こえた。

 獣の足音ではない。

 伊達に、祖父の田舎で育ってきては居ない。

 獣と人間の足音……正確に言えば、四足歩行と二足歩行の生き物の足音の違いは解る。

 だが、ライラではないだろう。なぜなら、足音は複数あった。

 俺は警戒をかねて茂みの中に潜り込む。

 現れたのは、

「うわ。ファンタジーな」

 あまりやったこと無いが、ゲームなどで出てくるだろう蜥蜴の人間。俗に言う、リザードマンがいた。体全体を覆うのは、蜥蜴や鰐、あるいは蛇を思わせる鱗に覆われた肌に、爬虫類特有の鋭い縦長の黒目。

 だが、手は人間の手であり服を見にまとっているのも文明的だ。

 そして、俺が何よりも注目したのはその手にして居る武器や衣服だ。衣服はちゃんと獣の皮をなめした……加工した品。そして、手にして居るのは俺が作ったなんちゃって石器よりもさらにワンランクは上であろう鉄製の刃物。

「うわ。言葉が通じれば……すっげー仲良くしたい」

 まあ、相手が会話が通じる。言語能力だけではなく人間性? いや、リザードマン性とでも言うべきか……。とにかく、性格も問題があるがとにかく、その性格にも気になる所がある。

 そんな中、

「しかし、本当に薬なんか見つかると言う保証があるのか?」

「たしかに」

 と、言う会話が聞こえた。

「え? 言葉が……」

 と、俺は驚く。

 言葉が理解出来たのだ。

 だが、ライラは言葉が分からないと言っていた。

 ライラが嘘を言っていた……とは、思えない。

 ライラには悪いが、あいつは身体能力は高いが嘘を言えるほどの頭があるとは思えない。

「うるさい。たしかに、ここは異界の地。

 薬草が見つかる保証は無い。

 治療法とて、確かに無い。

 だが、長が死ぬような事を許せると思うのか?」

 と、言い争う三体のリザードマン。

 その中の先頭に立つ……どことなく偉そうなリザードマンが言う。

 口調からしてたぶん、三人とも(三匹か?)男だろう。

 薬を探している様子だ。

「とは言え、薬草かどうかすら怪しいんですよ。

 この世界に、俺たちの世界の薬草があると言う保証すらありませんし」

「予見者の言う希望の交渉者が現れると言う保証もありませんし」

「喧しいぞ! そんなに長を殺したいのか!

 たとえ、わずかな可能性でもその可能性を追い求めようと言う気迫は無いのか!」

 と、怒鳴る中だった。突如として襲い掛かろうとしている狼……もどき。

「危ない!」

 と、気が付けば俺が叫ぶ。

「後ろ!」

 俺の言葉に瞬時にリザードマン達は動く。

 くるりと後ろを振り向くと、襲い掛かろうとしていた狼もどきを手にして居る武器を使い一太刀で切り裂いた。すげえ!

「今のは……」

「あ。俺です」

 と、途惑うリーダー格のリザードマンの言葉に俺は手を上げて話しかける。

「えっと……どうも初めまして」

「……お前、我々の言葉が解るのか?」

「え、ええ」

 初めまして。と、言おうとした時だった。

「トーヤ。どうした」

 と、ライラも現れたのであった。

 ちなみに、トーヤとは俺の事だ。

 桃也と正しく名前を呼ぶことが出来ないらしい。

「ああ、このリザードマンと話をして……」

「話?」

 その言葉にライラが驚いたように言う。

 そこに、

「お前、その娘と会話が出来るのか?」

「あ? そりゃ、話ぐらいは出来るぞ。

 そりゃ、ライラはあまり頭が良いと言う印象もないし会話が流暢と言う印象もないけれど……。けれど、ちゃんと会話ぐらいは出来るぞ」

「ライラ。こいつら、話、解る?」

「少なくともお前よりは上手に言葉を話しているぞ」

 少なくとも会話能力に関しては、向こうの方が流暢だ。

 人類としてライラは恥じるべきだろう。

 だが、

「ライラ。リザードマン。言葉、解らない」

「は?」

「そこの者、どうやら気づいて居ない様子だな」

 と、ライラの言葉に怪訝な顔をしていると、そう口を挟んできたのはリーダー格のリザードマンだった。

「我らとその娘は違う言語を話している。

 我らにとって、その娘は猿の鳴き声のような音にしか聞こえん。

 たいして、その娘も言語が伝わっていない。

 おそらくだが、お前は全ての言語を理解する力を持っているようだ」

「あー」

 異世界転移の特典とかチート能力……いや、チートじゃねえな。これ。戦闘で、お前の言葉が分かるぞ。と、言った所でそれがどうした? と、本気で言われそうだ。

 まあ、これで納得だ。

 ライラと会話が通じたのは幸運と言えば、幸運だがたまたま言葉が通じる相手ではなくたまたま、俺が言葉が通じる能力を持っていたという事だ。

「そして、我らはお前を捜していた」

「探していた?」

 その言葉に俺は怪訝な顔をする。

 そう言えば、この三人(と、数えよう。とりあえず、文句を言われないと思う)は、誰かを捜していると話していたな。

「あなたこそ、希望の交渉者」

「俺は、そんな名前じゃないんだけれど」

 なんだ? その中学二年生の病人が名乗りそうな異名。

 いや、その病人はもっとこう破壊者とか救世主とか戦闘系? とかを名乗るだろう。

 少なくとも交渉者はないよな。と、思いながらそう呟いたのだった。

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[一言] 希望の…交渉…あぁ!言語スキル!
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