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二十二話 異世界で卵を拾う


 ここは異世界である。

 何度でも言おう。異世界だ。

 それも数多の世界がまぜこぜになった異世界。

 そのためか常識というのが通じない。

 何が起きてもおかしくない。

 そうおかしくないのだ。

 たとえばドラゴンに乗ることもあるのだ。

 そして逆説的に言えばドラゴンから落ちることもあるのだ。

 そう。現在進行形の俺のように……。

「うそやぁぁぁっぁぁ……」

 ああ。異世界でドラゴンから落ちて死ぬ。

 それが死因とは想像もしてなかった。いや。想像している人生ってどんな人生だと聞きたい。もしもそんな死を推測していたらどんなどんな臆病者だ?

 いや。臆病者というよりも単に中二病なだけか。

 とはいえそんな死因を迎え撃とうとしているのだから違う。

 どちらかというと預言者である。

 だが、オレは中二病でもなかったし預言者でもなかった。

 そのために結果としてこんな最後を予想していなかったわけで……。

 などと高いところから落下していきながらそんなことを考えていた。

 単なる現実同比である。

 なぜ落ちたのか?

 それは簡単。

 襲われたからだ。

 まさかドラゴンへ襲い掛かるような奴がいるとは思わなかった。

 襲ってきたのは鳥である。

 鳥だ。

 ちゅんちゅんぴよぴよ。ピーチクパーチクとなくあの鳥だ。

 そんな鳥の一匹や二匹、フレアルドさんなら平気だっただろう。

 ……けれども一万、二万どころか数十万。下手したら数百万もの鳥に襲われたら話は別である。

 大量の鳥が襲ってきてフレアルドさんも厄介だった。

 何とかよけようとしてかなりアクロバティックな動きをするフレアルドさん。

 結果としてオレはその動きに体がついていかなかった。

 戦士としても活動していたユキノ。野生児のライラ。二人に比べて俺は情けなくもか弱い凡人であった。

 男としてのプライドを粉砕しながら体力がなくなりオレは落下していたのである。

 俺はうっすらと意識を失いながら来世は平穏な人生を送れるように願った。

 だが、意識を失うよりも先に何かに引っ張られた。

「ふえ?」

 朦朧としかけた意識が現実へと引き戻される。

 そして見たのは巨大な鳥。

「え~」

 困惑する中で鳥は俺をどこかへと運ぶ。

 ぎゃーぎゃーとフレアルドさんたちが追いかけてくるがそれどころじゃないだろう。

 俺はというと平穏? とは言えないのりでそのままつれていかれた。

 そして、

「うぎゃ」

 俺は落とされた。

 空からは響く鳥の声。あいにくとオレの能力は鳥と会話まではできないらしい。

「なんだ? 俺は餌か?」

 鳥が食べると言ったら主に虫などをイメージするだろうが実際は違う。そりゃ一般的な鳥が食べるのは穀物や木のみ、あるいは小さな虫だろう。

 けれどもそればかりとは限らない。

 フクロウや鷹といった猛禽類と評される鳥などは小動物を襲う。鼠や蛇などわりと襲って食べるというのだ。

 当然ながらオレよりはるかに巨体な鳥。

 それがベジタリアンという可能性もないが肉を食べるならば俺を餌とみなす。その可能性は極めて高い。

 そしてここにあるのは、

「卵だ」

 そう。卵である。

 俺の腰ほどあるだろうほどの巨大な卵。

 目玉焼きにしたら何人分なんだろうか?

 一瞬だけ考えたが頭上からのその卵の親だろう鳥の視線を感じてすぐに消す。

 たべませんよ。食べません。だから俺も食べないでね。

 心境としてはそんなもんだ。

 そう思っている中でなぜか鳥は俺へ一つの卵を押し付けてくる。

「え? なに? なんなわけ?」

 押し付けられた卵。

 形だけは見慣れた鶏の卵によく似ている。

 ただしサイズはでっかくオレの腰まであるし色合いも普通と違う。

 色合いはあえていうならば……そうあれだ。イースターエッグに出てくる模様付きの卵のやつだ。

 カラフルにマジックペンやサインペンなどで色塗りをしているやつ。それもきちんと細かく描いた大人向けのぶんだ。

 赤と青、黄色と緑に茶色。そして白と黒。その七色がまじりあっており独特の色彩を描いて模様を描いている。派手な組み合わせな気がするのだがどこか落ち着いた色合いなのは色がパステルカラーではなく淡い色だからだろう。

 その卵を俺に押し付けてくる。

「え。いや。なに?」

 戸惑うがまるで受け取れでもいうように卵を押し付ける鳥。

 キョーキョーと鳴いているがあいにくと翻訳はされない。

 動物との言語はできないらしい。

 だがなんとなくニュアンスで受け取れとでも言っているのだろう。

「手にした瞬間、卵泥棒とでもいうようにつつくなよ」

 そうつぶやきながら俺は卵を手にする。

 その瞬間だった。

 卵が輝き始めた。

 その瞬間に鳥がひときわ高くかつ嬉しそうに鳴き始める。

 俺はただ戸惑うだけだ。

 やがて光が消えた瞬間。

 ぴきっ! と、言う音がした。

「え?」

 戸惑う中で卵にひびが入り真面目る。

 どんどんと吐いていくひび。

 これは割れたのではない。

 孵ろうとしているのだ。

「え。なんで? なんでこのタイミング?」

 近所の庭で鶏を飼育していた。

 その中にはヒヨコが孵ることもあったがタイミングというのがあった。

 少なくともこんなタイミングじゃない。

 戸惑う中で殻が割れた。

 そして現れたのは、

「……ど、どちら様?」

 思わず呻いたのは仕方がないだろう。

 何しろ卵の殻から出てきたのは俺が思ったような鳥ではなかった。

 背中に羽が生えた小さな子供。

 風や光の加減で色彩が変わる髪の毛をした真っ白な肌をした少女。

 羽も同じ色彩である。

「えー」

 戸惑う中、ぱちりと目を開くと俺を見た。

 いや。まて! これって……。

「……パパ」

「違う!」

 予想通りの言葉に俺は叫ぶが、

「パパ。パパ。ぱーぱ」

 ああ。やっぱりだ。予想通りの刷り込みが完成してしまっている。

 刷り込み。

 主に鳥などに言える生まれて最初に見た動くものを母親だと思い込むやつだ。思い込んでそのあとをついて歩くその姿はとても可愛らしい。

 実際のところさほどそれほど頭がよくなかったりするらしいがそれはさておいておく。

 今はこの目の前の鳥? である。いや。鳥と表現するのが正しいのかも謎だ。

 背中に羽が生えていることを除けば人間そっくり。

 むしろ全体図を言えば天使と表現するべきかもしれない。

 とはいえ、

「パパ。ぱーぱ」

「まあ。ママと呼ばれるよりはましだけれど」

 そう思いながら俺はくるりと鳥の方へと視線を向ける。

 今からでも遅くないかもしれない。

「こっちが親だ。さあ。お母さんだ。ママでもよいけれどな」

 そう言うと本能で理解しているのか近づいていく。

 よし。

「それでは親子の感動の再会を楽しんでください。

 俺は自力で帰ります」

 地上に降りてここから離れればフレアルドさんが来るだろう。

 俺がいなければあいつらは意思疎通もできないんだから大丈夫だ。

 そう自分に言い聞かせながら降りていく。

 けれど、

「パパ」

 キョー

 小鳥? が叫び鳥が鳴く。

 そして鳥が俺についていく。

「いや。オレはパパじゃない。

 親はあっち。あっちもパパじゃないだろうがままだ。

 ママと一緒にいなさい。

 たいがいに子持ちで離婚となっても基本的に母親が親権を取るんだ」

 いや。別に鳥と結婚したわけじゃないんだけれどな。

 そう胸中で付け足しながら言う。

 けれども、

「パパ。パパ。ぱーぱ」

「だああ。どうして離れないんだよ。

 つか、お前も何、子供が巣立つのを満足そうに見ているんだ。

 生まれたばかりだろうが!

 魚とかならともかくまだひな鳥だろうが!

 面倒を見る時期だろうが!

 母性本能をどこに捨ててきたんだ!」

 そう温かいまなざしで見守る親鳥だろうたぶんに俺は怒鳴る。

 けれどもやっぱり会話はできなかった。役立たずのスキルだ。


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