十八話 異世界で魔王と交渉する
驚きの約四か月ぶりの更新です。
妊娠、出産を経験してまいりました。
まだ育児が忙しく更新はひどくゆっくりですが気長にお待ちください。
魔王。現代日本人ならば見たことはないけれど(当たり前だ)一度ならば聞いたことがある名称に入るだろう。
大御所ファンタジーゲームのドラゴンが出たりする作品では高確率で出てくるラスボス。とはいえ、近年のファンタジーでは魔王=悪という概念はあまりない。
魔族の王という意味合いであり別に人間を支配しませんよ。そんな存在だって話には聞くし魔王がめちゃくちゃ弱いとかそんなのもある。
けれども先入観というやつだろうか。
魔王=人類の敵。
そんなイメージを抱いてしまい俺は体が硬直するのを感じた。
だが、嫌悪をあらわとするような愚行を犯さない。
「ご丁寧にありがとうございます。ディヴァイア様。
失礼ですがなぜあなたはこの世界に? 理由をお聞きしてもよいでしょうか?」
俺は丁寧にそう尋ねる。
ついでに俺やユキノは事故。ライラは赤子のころからこの世界にいたようなので不明ということも付け足しておく。
≪質問の理由を聞こう?≫
「わたしたちは今、集落……町を作っております。
技術や情報などを集めていますが致命的に足りていないものがあります。
その中に住民というものです。
あまたの世界が混ざっている。いろんな世界の人達と生きていった方が良い。
そう思っていますが、あくまでもそれは一緒に暮らせる者たちです。
どんな世界でどんな風に生きていたか? ある程度のことを知らなければあなたに集落に来てほしい。そう言えません。
もちろん集落の人たちにも決めてもらいますが、過去を知らない相手を呼ぶ。
それは愚行だと思っています。俺は人材を集めてほしいと今、集落にいる仲間から頼まれました。その仕事をいい加減にすることはできません」
きっぱりと俺は宣言する。
その言葉を聞いてにらみつけたのはディアマンだ。
≪それは場合によっては魔王様と敵対するというのか?
貴様らごときが!≫
吠えるように叫ぶ彼に俺は冷静に、
「そっちこそ自分の発言には責任を持った方が良いぞ。
あんたが唯一の魔王様の臣下だ。
忠誠心を否定するつもりはないが無駄に敵を作れば当然、それは魔王様の敵だ。
俺たちの実力が大したことがなくてもここで敵対をする。
自分と敵対する。あるいは自分を疑う者はすべて皆殺し。
そんな王だと主張したいならば話は別だが……。
そんな王なんて俺は王といは認めたくないね」
≪なんだとっ?!≫
≪よさぬか! ディアマン!≫
ディアマンの発言を泊めたのはその件の魔王様だ。
≪そのもののいうのは正論だ。
王と呼ばれながら異界へと来た。
逃げ延びたか、それとも追放されたか……。
どちらにしてもそれ相応の事情がある。
そう判断するのは当然だ。
そして悪事を働く王というのがいる。
暴君の支配者というのは脅威であり人民にとっては敵である。
それもまた事実。それを警戒するという行動をとるのはまた当然。
むしろそのものは責任をもって恐れずに我に真正面から向かってきた。
その行動を愚かというのはそれこそ愚か者の行動。
我を愚か者の主君にしたいのか?≫
≪も、申し訳ありません≫
ギロリとにらまれてディアマンは黙る。
≪すまぬな。こやつの忠誠心は高いのだがこの地に落ちぶれた事情が事情でな。
そのために警戒心が強い。
我ら魔王というのは魔族の王という意味でな。
先代の死去、我が魔王となったのだが……我は見た通りの幼くてな。
ほんの二百年しか生きておらん若造だ≫
二百年。……少なくとも俺から見たら十分に長生きしている。
魔族の平均寿命が何年かは知らないけれどな。
話をまとめると魔王様は若造ということから軽んじられた。さらにに別種族が飢饉や伝染病といった災害を魔王の仕業。そう主張して戦争を仕掛けてきたというわけである。
戦争で一致団結すれば勝てたかもしれないがこれを機に自分が魔王になろう。そう思った野心家などが現れて魔王の国は混乱のるつぼとなってしまった。
そんな中で現れた暗殺者。魔王の力でどうにか退けようとしたのであるが秘策による異世界転移の魔法により次元の彼方へと飛ばされた。
その次元の彼方こそこの世界だったというわけである。
≪そもそも人間族は不都合を全て魔族の責任へと押し付けていたのだ。
数年前の農作物の凶作による基金、伝染病なども対応を怠った王族や貴族領主の問題だ。だが、それらの責任を魔族に押し付けることで怒りの矛先を変えてさらに戦力などを上げたのだ。教会とかいう宗教も魔族を悪と断じていたしな≫
「なるほど」
説明を聞いて俺はうなずく。
≪……信じるのか?≫
「話して頭から否定するぐらいならば最初から話し合いをしようとはしませんよ。
少なくともそういう話がないわけじゃないと思いますからね」
古典的な話では魔王が世界を滅ぼそうとしていて人間側が正義。
それが単純明快な話だが最近のラノベや漫画などではそうとは限らない。そもそも戦争なんてどっちにしても問題があるのだ。
ある漫画の話だが、戦争なんて始めるやつが悪い。そんな言葉がある。そもそも戦争なんて大義名分さえあればあとはいくらでも簡単だ。
勝てば官軍という格言があるとおり、かったら向こうが悪かった。そう主張し続けることができるというわけだ。
「まあ。確かに真実を確かめるすべはない。
けれど少なくとも俺たちと話し合おうとしている意思がある。
あとはあなたという人となりを見ることですかね? いや、魔族なり?」
俺はそういって静かに魔王を見据える。
「すくなくともそれだけのことがあっても人間という種族である俺を殺そうとしない。そんな方だとはわかりました。それで俺を殺さない理由は?」
≪中々に肝が据わっているな。
自分を殺さない理由を尋ねるとは……。そうだな。まず一つ、ただたんにずっとここにいても意味がなくそして退屈をしていた。
この地に訪れた者ということもあり興味を抱いたのだ。
二つ目はお前が話が通じたからだ。
それに気に入らないや危険。そんな私利私欲のために……いや、たとえ私利私欲じゃなかったとしても武力ですぐに解決しようとする。
それでは私を追放した者たちと同じだ。
私はそこまで落ちぶれるつもりはない≫
なるほどかなり理性的な御仁のようだ。
そこの側近にも見習ってほしい話である。
「そうですか。……ぶしつけなお願いかもしれませんが一つご相談があります。
あなたも私たちが作る街に来ていただけないでしょうか?
王というか為政者として頼むというわけではありません。
ですが政治などといった観点の知識を欲しています。
そこであなたが認められれば王……まとめ役の地位が手に入ります」
≪なんだと!?≫
俺の言葉に激昂したのは魔王様ではなくディアマンのほうだった。
≪魔王様を試すというのか? 静寂な人間が何様のつもりだ!
本来ならばお前らが頭を下げて庇護を願い出るべきだろう≫
≪よさぬか! ディアマン!≫
今にも襲い掛かりそうなディアマンを止めたのが魔王だ。
≪統治者は統治者だからえらいのではない。
統治者として認められて初めて地位を認められるのだ。
そもそも慕う国民や民がいて初めて統治者、王としての価値があるのだ。
臣下が一人しかいない我など軽んじられても文句を言う権利はない。
それを能力を確認する。
それだけでも十分に我を尊敬しているといえるものだ≫
≪ですが!≫
≪いい加減にしろ。お前が人間を嫌う疑う気持ちはわかる。
だが、我をたばかり追放した者たちも人間たちもこの地にはいない。
この者たちは全くもって無関係だ。
八つ当たりや敵愾心もいい加減にしろ。
たった一人の臣下。お前は我の自慢だがだからこそ自身を律してほしいのだ≫
≪わ、わかりました≫
自慢といわれてどこか嬉しそうなディアマン。
絵にかいたような忠犬キャラだな。
ただし飼い主以外には敵意が強くって狂犬に近いタイプの忠犬だ。
有能な側近というよりも主人を困らせる忠誠心がから回っているタイプだ。
言ったら間違いなく忠犬から狂犬になるので黙っておくけれどな。
そう思いながら俺は話をする。
「この地に思い入れがあるのならば無理には言いません。
ですが、念のために言うならばあそこにいる種族は人間は俺とライラ二人だけです。
これから先、人間やそれ以外の種族。いろいろと増えるでしょう。
どんな場所になるかはわかりません。
けれど多種多様な種族。生まれも育ちも過去も経歴も、それどころか種族。いや、世界すら違う者たち。
彼らをまとめ上げることができるか?
それは並大抵の王では無理です。
無理なお願いかもしれません。
なので、王になりたくなければ無理強いはしません。
同じように住みたくなければ無理には言いません。
ですが少しでも考えていただけると助かります」
俺はそういって頭を下げる。
それと同時にライラ達も頭を下げる。
≪うむ。考えさせてもらおう。
ところでお前たちはこの後、どうするつもりだ?
日も暮れ始めている。なんならしばらくこの城に泊まるがよい≫
その言葉に驚いたのは、
≪正気ですが主! もしもこいつらが≫
俺たちではなく(そもそも言葉が通じるのは俺だけだけれど)ディアマン。
俺はスルーして、
「ありがとうございます。確かに俺たちが一晩の宿泊。
もしも俺たちが敵意を持ったもので周辺に敵がいるならば俺たちがいる間は攻撃しない。俺たちの人となりをじっくりと見て敵か味方が判断したい。
そんな思いもあるんですね。
まあ。良いですよ。わかっていてもかまいません。
俺たちに後ろ暗いところはないんですから」
≪ほお。全てを察してそれを理解しているというか。
なかなかに豪胆だ。
面白い奴だ≫
俺の言葉に魔王がそういって笑う。
対して俺の言葉を聞いて魔王の真意に気づいたらしいディアマンは俺をにらむ。
俺が魔王に気に入られたのがひどく気に入らない。
そんな視線だ。
嫉妬で人が殺せるならば間違いなく殺されていただろう。
そう感じる。
……お前、ディアマンという名前じゃなくて嫉妬という名前のほうが似合うのでは? そう思ってしまう。
さすがにそれは口に出さないが……。
とにかく俺たちはお言葉に甘えることにした。
「大丈夫なのか?」
俺の言葉を理解していたフレアルドさんが俺に問いかける。
「魔王というやつ。
なかなかに曲者だと思うぞ。
腹に一物や二持つ抱えている」
「王様なんだからその程度の腹芸はできるに決まっているだろ。
実直、素直。正直で裏表がない。
そりゃそんな人間が嫌われるとは言わないけれどその人間が政治ができるほど世の中というのは単純明快じゃないんだ。
そうだとしたら人類の歴史はもっと単純明快だっただろうな」
俺は肩をすくめる。
あの図書館でいろんな歴史の本を読んだが人間の歴史というのは基本はそれほどにどこの世界も変わらない。いやある程度の知性や文明があったら人間じゃなくても大した違いが無かったりするわけだ。
だから政治家、王様というのは、
「清濁を併せ持って策略をもって裏表がある。そうじゃないと務まらないんだよ」
性根に問題がなければそんな相手でも国は発展するのだ。いや、性根に問題がないならそういう人間ではないと難しいのだと俺は思う。