十六話 異世界の雪山生活
しばらく待つことになったがその間、暇だということなのでいろいろと調べる。
地図を見てどこへと行くかという話し合いだ。
ついでに周辺を調べる。
「調べてどうするの?」
そういうのは寒さが苦手らしいユキノだ。
「ここは雪だけれど山だからな。
何かあるかもしれないし、雪山というのは自然の冷蔵庫だ。
召喚魔法を研究していたなら転移魔法が使えるということだからな」
俺はそういう。
「俺の世界の架空物語。
妄想というかもしもという考えで作った話だな。
そこでもしも魔法があったら異世界転移の魔法なんてのもあるな。
魔法陣とかで特定の場所へと移動できる装置だ。
もしもここに設置ができたら助かるだろ」
雪山ということもあり暑い時期ならばここで氷を削り取って運べる。
そうすれば希少な氷の価値が一気に減る。
悪い意味ではなく氷が使うことができるということは助かるのだ。
ついでに言うとここならば砂糖と牛乳と卵があればアイスクリームを作るのも簡単だろう。金属の筒にでも入れてここで材料を振り回しながらしばらくいればアイスクリームが簡単にできるかもしれない。
それに雪に野菜を生めると保存が効果的なのだ。
実は冷蔵庫に入れるよりも甘味が高まって栄養も高まるのだ。
そもそも今、俺たちの街にある図書館にある冷蔵庫はあくまでも図書館の設備の一つだ。冷蔵庫としては少なくて食料の保存は目下の課題だ。
生野菜だけでも保存がきくならば素晴らしいことだ。
肉の類いもここならば保存がきくだろう。……冷凍保存に近いような気がするけれどな。
「けれど、ネージュはそれが可能といったんですか?」
「いや。言っていない。けれど、フレアルドさんに行き来してもらって可能になったら設置する。それも一つの手段だ」
彼女は暑さに弱いみたいだからな。とはいえ、それはまだ可能性だ。やる気がなく断れた時とか問題とか相談されたらの発案だ。
俺はそう思いながら雪山を見る。万が一のとき用に何か面白いものや鉱脈があるとうれしいんだけれどな。そう思いながら俺は周辺を見て回っていった。
雪山でもあるような石や植物の採取。
「それをどうするの?」
「後で調べる。
何かの薬草かもしれないだろ」
図書館に言って実物と比べればどんなものかわかるだろう。
「食用になるかならないか。薬草になるかならないか。
何かに使えるかもしれないだろ」
頻繁に取りに来るほど貴重な品である可能性は低いが何かの役に立つかもしれない。
「たとえ、ネージュがここを離れないにしても接触をなくすつもりはないからな。
向こうからかかわりたくないというならともかくな」
こちらとて関わりたくない相手というのはいるだろう。
例えば、魔王とか破壊神とか……いやいるかどうかはしらないけれどな。
危険な相手や狂暴な相手と知的な交流をするつもりはない。
ほかにも敵対行動をとり理解しあえない相手と思うならば関わりたくない。
なるべくかかわらないが最悪の場合は戦うことになるかもしれない。
その可能性を考えて俺はため息を吐く。
真っ白な雪山に白い息が出た。
「どうしたの?」
「ちょっと考えているんだよ。
これから先、出会う相手が話し合いで解決できる相手だけだとよいな。そう思ったんだ」
その言葉にユキノは黙る。
「幸いにもフレアルドさんと話し合いで解決した。
けれどだ。
もしも敵意をもって話し合いで解決しない。
そんな相手ばかりという保証はないぞ」
「フレアルド。強い
ライラやユキノたち。フレアルドほどじゃない。けど強い。
負けない」
そうライラが主張するが、
「けれど怪我人が出る可能性もあるし、フレアルドさんが苦戦する相手が現れる可能性もある。苦戦するような武器を持っているとかな」
俺はそう顔をしかめて言う。
俺は作り方はわからないしレナードにも作り方を知っているか確認していない品。
例えば核兵器だ。
日本で生まれ育った以上、嫌でも歴史で学ぶ俺が知っている限りだと最低最悪の兵器。それを思い出して俺はさらに顔をしかめた。
「どうしたの?」
「嫌な武器を思い出した。
少なくとも俺の世界じゃあの兵器を『実践』で使われた国は俺の出身国だけだ。
ただし俺の産まれる前の話だけれどな」
俺はそういって肩をすくめる。
「俺も書物で読んだぐらいだ。
その被害を、実害を受けた人間は俺の爺さんや婆さんぐらいだ。
それも子供のころだったからな。
その経験を受けた人間もどんどんと減っている」
俺はそう説明をする。
減っていくのはもはやしょうがないことなのだ。
永遠に生きる人間はいない。
人間は長く生きれて百年ちょっとが少なくとも医療技術の現在だ。さらに核爆弾……正確に言うならば原子爆弾。
「だから、あくまで簡単な話としてしか知らない。
ただものすごい高温で皮膚が解けた人もいたそうだ」
「皮膚がっ?!」
俺の説明に絶句のような声を上げるライラ。
「内臓や目玉が飛び出たやつもいたそうだ。だが、そういったやつらはすぐに死ぬことができた。……ある意味、苦しみから早くに開放することができたんだ」
俺はそういって顔をしかめる。
「もっと恐ろしいのは放射線だった」
俺はそういう。
「ほうしゃせん?」
「悪心、嘔吐、食欲不振に始まり下痢や発熱といった症状が出る。
やがて髪の毛が抜けて血の病気……白血病になる」
「白血病?」
俺の言葉にライラが首をかしげる。
「血の病気の一種でな。
治療法はいろいろあるが非道な病気だ。
それだけではない。その土地では数十年はまともな植物は育たない。まともな動植物も生まれない。そういわれた。
その近くにいたというだけでその子供たちは苦しんだそうだ。
遺伝子……体を作る力に影響を与えるそうだ。
そのせいでそこに影響を受けた人の子供は奇形……手足が不十分で産まれる。そんなことを言われていていまだ、その子供や孫も差別されることもあったそうだ」
それは非道というか少なくとも不幸だと思う。けれど怯えたりする人の気持ちも俺はわからないではない。
「いろんな意見があるが、少なくともそれを実践で使われたことはそれ以降はない」
俺はそういった。だが、最悪なことにその技術はいまだに発展されている。原子力発電なども言ってしまえばその技術だ。
電力を一気に生みだせるが危険極まりない発電方法。とはいえその発電方法が必要なのも事実だったりする。
まあ。異世界に来て変える手段もないんだから語っても意味がないだろう。
「俺の世界以下の文明レベルの世界がないとは言わない。
けれど文明レベルがさらに上の世界もある。
そして平和な世界ばかりという保証はない」
戦乱、動乱の世界。
魔法が発達した世界。魔法が発達した世界。
単純に分けてもこの二つだ。
だが、
「たとえば農業が発達した世界。畜産が発達した世界。
そういった生産が発達した世界。
あるいは医療や生命についての分野が発達した世界とな」
世界と考えると規模がでかいが国と考えれば元の世界でもあった。
日本は技術大国といわれていたぐらいに技術力にたけていた。細かい細工などに関して高い技術力を持っている。それとクリエーターとしても高い評価を持っている。
日本のアニメや漫画は世界的にも高い評価を持っている。
けれど日本がすべての分野に高い技術を持っているわけじゃない。(そもそも先進国としては日本はあまり地位が高くないように思えてしまう)
軍事力が高い国。医療にたけた国。料理がおいしい国。美術にたけた国。いろいろと国々に特色がありその国の中でも世界一と評される分野はある。
本当に世界一なのかとかは言論があるし日本が技術力とアニメと漫画で世界一だと主張するわけじゃない。
けれど本場という言葉などはある。
「戦争が多い国で戦争のための技術がたけている世界がある。
そしてその世界が避難のために異世界へと渡る技術を持っていてもおかしくないね」
「たしかにな」
俺の言葉にユキノはうなずいた。
そもそも文明が発達するのは戦争というか戦いだ。
戦いで人を殺す手段が発達する。そして味方を生かすための技術が発達する。食料を保存したりする技術が発達し、食料を生み出す技術が発達する。そして建築などの技術なども跳ね上がるというわけだ。例外は芸術、娯楽の方面だろう。
テレビゲームはミサイルの誘導を元にした技術。缶詰も戦争で食料が長持ちすることを望んでいたのが結果だったそうだ。建築は戦争が終わってから日本は様々なビルなどが立ち並んだそうである。現代日本の文明があるのは戦争があったからだということは確かだ。とはいえ戦争は人材が減っていくし収入は合計的に考えればマイナスだ。日本だって長いこと戦争をしていないが技術力を発達しているのが事実だ。
そう思いながら俺は俺は雪山でいろいろとみている。
「まあ。ドラゴンがそうそう負けるような相手というのもめったに出ないと思いたいな」
ゴロゴロと会ったらさすがに泣きたい。そう思うのは俺だけじゃないはずだ。
俺はそう思いながらある程度の植物と鉱物を採取する。
「とにかく集落から村へと発展させるのが目的だ。
そして村は町に発展させ都市へと成長させる。
やがて国までいくかもしれないな。
とはいえ、その前に王様になれそうなやつを探さないといけないな」
「お前が王になるつもりではないのか?」
俺の言葉にユキノがそんな疑問を口にする。
「俺はせいぜい、外交官ぐらいだよ。
王様なんて大層な立場になれる器じゃない。
そもそも人の上に立ってまとめるというのはカリスマ性が必要なんだよ」
「カリスマ性?」
俺の言葉にライラが首をかしげる。
「人間的魅力だな。そのうえで支配者になれるカリスマ性を持った人間なんてそうそういない。なんとなくの成り行きで決まったりする。
だが一つの国、しかも多種多様な種族。それも住んでいた国も文化も違えば世界も違う。そいつらが一緒に共闘する上でまとめ役をする人間。
そうなるのは普通の人間じゃ無理だ」
元居た世界では政治家は選挙で決まっていたがそれでも複数はいた。それに選挙で死ぬまでトップだった人間なんていない。
皇族もいることにはいるが彼らは国の象徴であり国を治めているわけじゃない。
どちらかというと俺が要求しているのは戦国時代の大名レベルのことだ。ただ戦国時代の大名だって天下統一に近づいた織田信長は元は小さな小国の大名だった。とはいえ小さいとはいえ一つの地域を収めるトップだった。
「政治の知識なんてないしな。
圧倒的な力やカリスマ性。そういったものも必要だし人材はもっと必要だ」
「なんだか大変?」
「ものすごく大変だ。今のところ、条件をまとめられるのはライラの親父さんぐらいだが」
「お、親父は無理だぞ。
病気は治ったがそんな大役は!」
俺の言葉にユキノが慌てたように言う。
「そりゃそうだ。ライラの親父さんはリザードマンのまとめ役で精いっぱいだ」
集落の長と国のトップじゃ地方議員と国会議員。いや、もっと差がある。町内会長と国会議員ぐらいレベルが違う。
「どこかに王族とかいないかな?
馬鹿じゃなくて民のために一生懸命に働いて頭脳もあってできれば忠実な家臣つきで」
「無茶を言っていないか? それ」
「わかっている。無茶だということは」
ユキノたちのような例外を除けば何らかの形で異世界へ逃げ出そうとした結果の失敗者か俺の様な不幸な事故で飛ばされた人間だ。有能で立派な王様がそうそう逃げる羽目にならないだろう。
俺が要求しているのは駅近で家賃一万円以下で家財道具にオール電化にインターネット完備の上に3LDK。なおかつペット可の部屋を借りたい。そう要求しているぐらい無茶な要求だ。
「政治や人をまとめる知識がないんだよ。
そういうのは本を読みながらじゃ無理だしな」
決断力も必要だし。
俺はそうつぶやく。
「今は少人数だからどうにかなっているんだよ。
大人数になったら場合によっては上下が決まってしまう可能性もある」
「上下」
「種族間による差別だよ。
俺の世界じゃ人間種族以外は知性が高い種族はいなかった。
妖精や小人、リザードマンもいなかった。
けれどそれでも奴隷なんてものはいたからな」
奴隷。
その言葉にユキノは顔をしかめた。
ユキノたちは元居た世界では亜人族として捕まると奴隷にされることがあったそうだ。そうしない人間種族もいるが奴隷を推奨している国もあったそうだ。
だからこそ俺の言葉に理解したのだろう。
「人間同士で奴隷をするのか?」
「するんだよ。髪の毛の色や肌の色が違う。
瞳の色が違うという多数と違うのは異端としてな」
俺は肩をすくめる。
かつて黒人は白人によって奴隷にされていたというのは歴史では有名な話だ。個人差別というのは俺たちの時代でもまだあるそうだ。
そもそもアメリカで黒人が大統領になったのがニュースになるのだから現実差別はなくならない。
「差別を完全になくすのは不可能だろうな。
偏見に思い込み、そして向き不向きや違いがある以上はな」
子供だって差別をするのだ。
自分と違う他人を異端と感じるか個性と考えるかの違いだ。
どうやっても仲良くなれない人間もいる。
理想の政治家といえば、その多種多様な違いや生理的な嫌悪。そういった清濁を併せ持って飲み込んで全体の益になるように考える。
それを望むのだがそんな政治家はそうそういない。
多少の違いや問題は目をつぶるしかないだろう。
だが、
「最悪なのは奴隷ができてしまうことだよな」
俺はそうつぶやきながら歩く。何しろ言語が違うんだからその問題は恐ろしいのが事実だった。