十四話 異世界にて竜に乗る
フレアルドさんの要望。つまり、この街に住みたい。と、いう意見は、一応とはいえ許可された。もちろん、不安がある。
直接、会話をしたのは俺だけだ。つまり、フレアルドさんの人柄を理解しているのは俺だけとも言える。一応、俺が安心できるだろう人柄だ。と、いった。
いや、人柄じゃなくて竜柄というべきかもしれない。
とはいえ、助かるのは事実なのだ。何しろ移動手段もあるし、万が一にでも邪悪な敵。そういった存在が襲ってきたときに、最終的な切り札になる。と、いうか最大の理由として断ったとしても無理やり、居座られた場合は追い出すことができない。と、いうのがある。それならば、住みたいといわれて許可を出した。と、いう形にした方が今後の生活などを考えてもよいだろう。と、いうのが本音だ。
とにかく、そうしたことからフレアルドさんにのって人手探しの旅に出ることになった。 食料をまとめ上げる。ちなみに、保存食として一度、レナードと出会った科学都市と呼ぶことにした地区から携帯食料や旅に必要な品。さらに防寒着などを手にしてきた。
ちなみに、ここのことを俺はジャングルとして地図にも書いてある。
「いっそ。行ったことがある場所は自動的に描かれる魔法の地図。と、いうのでもないのかな?」
「あいにくと、知識の書ですがそういうのはどちらかというと魔法道具。
図書館にはありません」
俺のつぶやきに、マーレファがそう答える。
ちなみに、この図書館は地図はない。理由は簡単であり、あらゆる地図が手に入ったところでどうする? と、いうことだ。それに、地図は時に機密扱いとなる。
それを言うなら書物だってある意味では軍事機密になる品だってあるはずだ。とはいえ、この図書館があった場所は中立国家。あらゆる戦争になってもどこの見方もしない。そして、自分たちから攻め立てない。と、いう国だったそうだ。
その証拠として、地図を持たないようにしてそうだ。ただし、ひとたび敵になればその書物とそこの研究員などの力を使い、あらゆる手段を使っていたそうだ。
何しろ、暇な貴族が書いたへたくそな詩集まであるのだ。
その貴族の若気の至りで書いた詩集を大音量で軍人相手に朗読する。と、いう手段でその貴族が泣いて許しをこいた。と、いう逸話もあるそうである。
……こういうのをペンは剣より強い。と、いうのかもしれない。
そう思いながら俺は荷物の整理をする。ちなみに、
「ねえ。ねえ。とーや。これなに?」
と、たずねてくるライラ。そう、今回もライラとユキノが同行する。
持っているのは、寝袋だ。
「寝袋だな。ちょうどよいから一応、同じのを四つ……いや七つぐらい持ってきてくれ」
そう俺はライラに指示する。
本来なら三つで十分だろうが、フレアルドさんがついてくることからそういったのだ。ちなみに、今回はコートをている。上空の空気というのは冷たいということはわりと、有名な話だからだ。食料なども入れて置き、カバンに入れる。
籠を入れておいて、それをフレアルドさんの背中に巨大なヒモで結ぶ。ちなみに、荷物を背もたれにして落ちないように体でくくっている状態だ。
何しろ、ドラゴンに乗るのだ。
俺がいた世界ではお金さえあれば、たいがいのことはできる。と、豪語するような人間もいる。だが「じゃあ。ドラゴンに乗れ」と言われたら不可能だろう。
……そういう問題じゃないような気もするけれどな。
とにかく、そうして移動する。……携帯電話もあったりしたのだが、あいにくと通話はできなかった。そういえば、電波塔とか中継地点がいるよなぁ。と、思う。いつか、電話も可能にしたいものである。
そう思いながら俺は飛び上がる。
どすん! と、胃に来るような重量感。
そして、内臓が急に持ち上がるような浮遊感。
あえていうなら、ジェットコースターとエレベーターを足してそれを一万倍の濃度にしたような感覚だ。
俺は身に着けていたサングラスをつけなおす。
そしてやがてましになる。
「……思ったより寒くないな」
はるか下に木々が見える。上空何メートルなんだろうか? たぶん、キロメートル単位になるだろうはずだ。
「わたしは火の竜だ。お前らが死なないように温度を上げるぐらいは簡単だ。
そもそも、わたしは寒いのは嫌いだ。上空ぐらいの寒さならば自分の熱でどうにかする。
さすがに雪山は勘弁だ。あそこを熱すると水になったり雪が大量に襲ってくる」
「そりゃなぁ」
と、フレアルドさんの言葉に俺は言う。つか、つぶやいた言葉まで聞こえるとは何たる地獄耳。まあ、そこまでは言わないでおく。
幸いにも心を読むことはできないそうだ。
まあ、雪山を暖かい気候にしようとしたら間違いなく災害が起きる。具体的に言うと、洪水か雪崩だ。さすがに、体を大量に冷やされると困るようだ。
……体温を上げすぎて死ぬようなこととか、ないんだろうか? そんな疑問を抱いたがドラゴンの生態学なんていうのはないので、それは知らない。
いや、あるかもしれないけれどその本は読んでいないからな。俺の知識の中にはないのだ。と、誰ともいわずにそう言い訳をしながら俺はサングラス越しに望遠鏡で遠くをみていったのだった。
とはいえ、集落はともかくとして人が住んでいる。そんな場所というのはそうそうないというのも事実だ。
面白そうな場所があればそれで満足ということである。
「まあ。雪山に行く予定だしな。
どっちにしても防寒着は必須だな。
そういえばユキノ。ついてきておいていうのもなんだけれど……。
お前、寒いところは大丈夫なのか?」
何しろ主に住んでいたのは熱帯に近い南国風のジャングル。そもそも見る限りではトカゲのような見た目をしている。
トカゲというのは基本的に変温生物だ。
周囲の外気の温度に影響を受けやすく自分で体温を温めたりすることはできない。そのためにトカゲは気温が高い場所で生活をしている。
水浴びや夜などの気温が下がる場所。そこでは朝早くに起きて日当たりのよい場所に日の光を浴びて体温を上げて行動する。
……リザードマン達が日向ごっこしているというのを見たわけではないが気になる。
「まあ。寒い場所に来るのは初めてだ。
ところで先ほどから話している雪とはなんだ?」
「……あー。雨が凍った……雨と同じように空から降ってくる冷たいものだ。
しばらくして暖かくなれば水になる。
冷たいし寒いから気をつけろよ」
俺はそう忠告する。
雪山の初心者か……。
不安だ。
俺は幸いにも田舎暮らしが長かったので雪山にもなれている。
とはいえあくまでも俺も人里近くの山だ。
雪山にもピンからキリまである。
観光地になっていてちゃんとした道を守れば問題がない。
そんな初心者向けの雪山もあれば、入念な下調べと道具。そして経験がなければ間違いなく死んでしまう。そう断言したくなるような山だってある。
とにかく、
「雪山の経験は二人ともないみたいだからな。
だから念のために言っておく。
いいか。勝手な行動をするな。
俺から離れないようにしておけよ」
雪山のレベルなら三人と縄でつながれていた方が良いかもしれない。
万が一にでも崖から落ちるようなことになったとしても、フレアルドさんと一緒ならば話は別だ。万が一にでもやばくなったとしても、助かる確率が高い。
何しろフレアルドさんは空を飛ぶことができたのだ。
まあ。最悪の可能性だ。
そう思っている中でやがて雪山が見えてきたのだった。
「連絡が来たらすぐに来てくれ」
俺はそういって通話装置を見せる。
あの都市から持ってきた数少ない通信装置だ。
そうは範囲は広いうえに電池もよくもつ。
フレアルドさんがいられない場所ならば、そうするしかないというわけだ。
俺達はそんな中で雪山を歩く。
「ユキノ。大丈夫か」
「だ、だいじょう……ぶ……だ」
俺の確認に顔色が悪い状態でうなずくユキノ。
あまり大丈夫そうではない。
「無理そうなら、無理だと素直に言ってくれよ。
お前が死ぬなんて嫌なんだからな」
「ば、馬鹿にするな。
リザードマンがそう簡単に死んだりはしない」
「いや、雪山の災害で死ぬのはそれほど、珍しいことじゃないぞ」
雪男とか雪女(いるかどうかは知らないが)が雪山で凍死した。そう聞かされたらあきれるし笑うが、そうじゃないなら笑えないし納得だ。
ちなみにライラも慣れない寒さにつらそうだ。
一応、厚着をしているのだが大丈夫だろうが……。
「体に違和感があったら教えてくれよ」
俺はそういって注意する。
「そういうユーヤ。だいじょーぶ?」
「俺はまだ、慣れているからな。
少なくともやばい状況とかはわかる。
しかし、こんなところに住んでいるやつか……。
ジャングルで生活ができないとかの可能性もあるんだよな」
俺はそういってため息をつく。
先ほど言った、雪男や雪女。実在するか知らないが、小人も幽霊もどきもリザードマンもいたのだ。雪男や雪女がいたとしても、おかしくはない。
だが、ジャングルはどちらかというと熱帯地だ。
蒸し暑い空間であり雪山に暮らしているならば、住むのが難しい。
それを考えると来てもらうのは難しいかもしれない。
そう思っていると、突如として俺たちを囲む複数の影。
「……誰だ!? ってか、なんだ?」
俺たちを囲んでいたのは……一言で言うならば、雪だるまだった。
西洋であるような三個連続の団子のような雪だるまではない。日本でよく描かれているような雪玉を二つ重ねた形の雪だるまだ。
顔がついており、警戒の表情を浮かべている。
そして手が生えている。ただし、その手は当然というか木の枝の手ではなく雪で出来立てであり、氷でできた槍を持っている。
正体はさておいて、友好的には見えない。
「おい。俺の言葉はわかるか?」
とはいえ、だからと言ってすぐに反撃しようとは思っていない。
俺は基本的に戦争反対派の日本人なのだ。
「戦わないの?」
「まずは話あいだ。戦いは最後の手段にしてくれ」
俺はそう頼む。
武力で支配するというのは、俺の好みではないしそもそも愚策だと思う。
長い歴史を考えても、戦争で支配したとしても意味はない。なぜならば、戦争というのは消費以外なんでもないからだ。人命、資源、資材、すべてを消費する。
それに何より、戦争で負ければかなりの負担を背負う。
勝利してその民族を支配したとしても、反感を産む。
どうやっても勝者と敗者で上下関係が生まれてしまう。
それは年月とともに軋轢を生みだして、いずれは戦争の火種となる。
だが、頭を使えばよいのだ。
良い環境、おいしい料理。そういったのを渡せてもらえばその環境は気に入る。
まずは和平だ。
戦争で得た平穏と支配は長く続かない。
だが、発展と和平によって続いた良い環境による平穏。
そちらの方が、戦争の火種にならない。
日本が戦争をしないのは、一重にその現状に満足をしているからだ。
宗教も娯楽も、勉強も環境も最大多数は平和だ。
不満を持っている人間もいないわけじゃないが、少数であり力はない。
武力をもって武力を支配するのは弱いのだ。
そんな中で、しばらく雪だるまたちは戸惑った様子だった。
そして、
[ツイテコイ]
雪だるまはそういうと歩き出す。
「ついて来いだそうだ」
俺はそう通訳をして歩き出す。
少なくともこの雪だるま。外見はひどくファンシーだが、統率の取れた兵隊だ。可能性としては、彼らが高い知能を持ったものであるという可能性。
二つ目は、誰かが使役しているという可能性だ。
本を読んでいたら魔法の中には、使い魔という魔法の類がある。魔法で土人形を作るというゴーレムなどが有名だろう。
どちらかというと、支持をして操ることができるという可能性がある。
とはいえ、知能もあるから完全にそうだともいえない。
そう思いながら歩いていると、やがて見えてきたのは雪を固めて作り上げた巨大なかまくらのようなものだった。雪を四角くレンガのように固めてそれを集めて作った家。ちゃんと煙突もできていることから察するに、それなりに文明と技術力を持っているという証拠だろう。……できれば、中で会話をしたいな。
そう思っていると、
[ますたー。ヒトガアラワレタ]
そんな言葉を雪だるまが発すると、
[人ォ?]
そう言って現れたのは純白の女性だった。
髪の毛も肌も雪に溶け込むような純白。瞳の色はスカイブルーなのでアルビノ……生まれつき色彩がなく体色が薄いために髪の毛や肌が以上に白い。そして瞳の色素がないので血の色が出てくるような感じではないのだろう。
[驚いた。この世界にも人がいたのね。
……一部、見たこともないのがいるけれど]
「始めまして」
俺はそういって名乗りを上げる。
「望月桃也と言います。
望月が家名で桃也が名前です。
こっちはライラ。こっちはリザードマンのユキノ。
あなたと敵対するつもりはありません。
悪いのですが暖かい室内でお話をしたいのですができませんか?」
俺はそう尋ねる。
何しろさっきから寒いのだ。
俺の頼みにしばらく考えた様子だが、
[まあ。良いわ。
普通の人間にはこの環境は寒いでしょうしね]
そういって彼女はくるりと向くと思い出したようにこちらを向き、
[あ、名乗り忘れていたわ。
私はネージュというの]
そういってネージュはかまくらの中に案内する。
氷でできた部屋だが一応だがストーブがある。
「ぶしつけな質問ですがあなたは何という種族ですか? どうやってこの雪山に」
[そうね。一応人間よ。ただし母親は氷雪族で父親が人間なんだけれどね]
「氷雪族?」
その言葉に俺は知識を総動員する。
うん。やっぱりまだ知らない種族のようだ。
[知らないなら後で教えてやるわ。
それよりもあなたたちはどうやってここに来たの?
そもそもこの世界に人間がいたわけ?]
「どうやらこの世界があなたが元からいた世界とは違う世界だとはご存知のようですね」
ネージュさんの言葉に俺は言う。とはいえ、彼女はネージュさんは俺たちが元からこの世界に住んでいる存在だと勘違いをしているようすでもあった。