第十二話 異世界で竜に会う
「大変です! 大変です! 大変です!」
何が起きるかわからない。と、いうこともあって村では寝ずの番が四人いる。正確に言うならば、夜の見張り番である。
その見張り番が俺を叩き起こしてきたのである。
「えっと……誰だっけ?」
まだ、リザードマンの見分けがつかない。
「ロルドです! 大変です。トーヤ様」
「ああ。頑張って覚えておく。
見分けがつくかどうかは怪しいけれどさ。
で、何が起きたんだ? 火事か? 魔物でも現れたのか?
それとも、流浪者でも現れたか?」
「ドラゴンです」
ずべし!
と、俺はベッドから転げ落ちた。
ドラゴン。……ドラゴンだ。
「まじかよ」
と、俺は上着を羽織りながら外へと向かう。ドラゴン。
一言で言うならでっかいトカゲに蝙蝠の羽が生えている想像上の動物。基本として、最強であり無敵の化け物とでもいうべき存在だ。
ゲームでは基本的にラスボス。あるいは、中ボスでありやっぱり強敵だ。
国を亡ぼす、あるいは世界を滅ぼす。
それが異形のドラゴンだ。
そう思いながら俺は、外を見れば、
「まじでドラゴンかよ」
と、俺はうめいた。
滅びの化身が上空を飛んでいたのだ。
それも、人間とほぼ同程度の大きさではない。ちょっとしたビルや大きな山とほぼ同程度の大きさである。夜の闇でも月あかり(月が三つもあるのは無視する)に照らされている鱗は、白く光って見える白銀。
「戦いますか?」
「止めろ! 余計な死人が出たらどうするんだ!」
と、ロルドの発言に俺はそうツッコミを入れる。
わざわざ、竜の尻尾を踏んで怒らせることはしたくない。
「警戒はしておけ。だが、避難を重点に置いていざというときは、図書館に避難。
それを支持して、重要なものなどもそちらへと回しておけ。
武器の準備もするが、戦おうとはするな!」
と、俺は指示する。
先手必勝という言葉があるが、自分から絶対に勝てない。と、思われるような相手へと喧嘩を売るほど、俺はけんかっ早くない。
それに、図書館もある。図書館は、特殊な施設のためかマーレファによると、ドラゴンの群れが襲ってきたとしても図書館は魔法結界で守られる。
そのために、中にいる人間も書物も大丈夫だそうだ。
じゃあ。異世界へ移動したときに図書館にいた人達はどうなったのだろうか? と、いう疑問があるのであるが、マーレファによると異世界転移の時はその施設に人はいなかったらしい。さすがに、攻撃を守ることはできても移動には無効化できなかったらしい。
とにかく、図書館の中に入ればドラゴンが暴れたとしても大丈夫のはずだ。変な話だが住民が少ないので、図書館の中に入ることもできる。
そう思いながら、俺はドラゴンを見る。
ドラゴンが来た。と、いう予想以上の異常事態のことも手伝い、家に明かりがともり始めている。
「まあ、異世界からドラゴンが着ていてもおかしくはないな」
と、俺はつぶやく。
「問題は、会話が通じるかどうか?
友好的か敵対的かだな」
そういって現れたのはユキノだ。
「あれ、強いよ。戦うの危険」
と、現れるのはライラだ。
どうやら、俺の姿を見てやってきたらしい。
長の娘として、父親が病気になってからは代理を務めていた。そのことから、対極を見る事に長けているユキノ。また、ライラの方は、伊達に一人でこのジャングルの中で生きていたわけではないらしく、野生の勘とでもいうべきか相手の強さなどを見極める事が出来ている。戦闘能力が高いだけではなく、相手の戦闘能力を見極める事が出来る。
その結果、相手が強いか弱いのか? 勝てるのか勝てないのか?
それを見極める事が出来ていると思われる。
「別に戦いたくはないね。
だが、おびえてみているだけじゃだめだ」
と、俺は言う。
確かに戦うならば、何度も来ないように対策を建てる必要がある。
そして、ドラゴンを見る。ドラゴンはしばらく空中を旋回していたが、やがて降りてきたらしく大きくなってくる。
そして、町の屋敷がある前の方に座る。
「どうやら、話し合いはできそうだぜ」
と、俺はそうつぶやいた。
そんな中で、ドラゴンは口を開く。
≪ほお。我が姿を見て逃げぬか。
小さき者よ≫
「まずは話し合い。が、俺のモットーなんでね。
それに、攻撃する意思があるならとっくにしているだろ」
と、ドラゴンの言葉に俺はそう答える。
どうやら、ドラゴンも言葉を話せるようだ。
≪ほお。我が言葉を理解するか≫
「ああ。異世界に来た時の特典みたいなものだ。
一定の知性がある存在ならば、言葉がわかるし文字も理解できる」
≪なるほど、そういう加護をもつか≫
加護。と、表記するドラゴン。
「出来ることなら、友好的な関係を築き上げたいと俺は思っている。
ここは、俺たちの住処としている。
俺の名前は、桃也という」
≪うむ。名を名乗られ、知性を認められたのならば我も名を名乗るべきだな。
我が名は、フレアルド! 赤き灼熱の山、フレアマウンテンの火口により生まれた。
灼熱の竜帝の名を関するものだ! 愚かなる大国が我が命を狙い戦いを挑んだ。
我に牙をむく大国へと戦いの結果、大国にいた魔道機関が暴走。
我は時空のはざまに巻き込まれ、この地に訪れた!≫
と、大声で叫ぶように言う。
叫ぶように言うものだが、空気は震え突風が起きる。
「あの、すみません。
もう少し、人間に合わせて声を小さくしていただけないでしょうか」
と、俺は耳を抑えながら言う。
≪うむ。
こうして、人間と話したことはあまりなくてな。
大半の人間は、我を見ると戦いを挑むか逃げるかで会話にすらならん≫
そりゃ、そうだろうなぁ。と、俺は思う。
異世界の事情は知らないが、こんな巨大なドラゴンだ。
しかも、竜帝という称号を持っているらしい。
どういう意味をもつ称号かは知らないが、これでどこかの学校のクラス委員長というようなレベルの意味とは思えない。
予想するには、おそらくだがゲームでいうところのボスクラス。下手をしたら、四天王クラスの存在かもしれない。
まともな人間なら逃げるにきまっている。
「それで、この町に来たのはどういう理由でしょうか?」
≪退屈だったからだ≫
どういう理由だ。と、即答された理由に俺は頭痛を覚えたのだった。
言葉がわからないライラ達はただ不安そうに俺を見ている。
≪我は、元居た世界でも強く並大抵のものでは我と同じ目線に立つことはなかった。
畏れ敬い平伏したが、こうして我と会話をして意思を疎通しようとする存在は少ない。だが、何名かいた。
だが、この世界にそういう存在がいるとは限らなかった。
退屈をしつつ、天空を飛んでいれば変わった集落を見つけた。
作られて、時が止まった風化する建物ではない。
成長している集落だ。面白いと思ってきてみたのだ≫
と、フレアルドさんは言う。
「事情は理解しました。
ですが、あなた様がこうして現れると我々は驚きます。
こうして、ここにいることだけでも我らとしてはおびえてしまい生活が乱れます」
これは本当だ。
野生動物だって、近くにこんな天変地異のようなドラゴンが居れば、近づかない。下手をしたら、縄張りから逃げ出そうとする。
その結果、狩りをするのが大変になる。
現在、努力をして農作をしているが一日や二日で農作に結果が出ることはない。
それに、農作だけではなく畜産もする予定だ。問題として、牛や馬のように畜産に向いている動物がなかなか、見つからないことだ。
しかも、牛や馬や豚にヤギ。そういった動物はストレスが影響が出る。
近くにあんな牛を丸々一匹、丸焼きにしたのを一口で食べてしまいかねない。と、いうか牛をダース単位で食べてしまいそうな存在だ。
そりゃ、ストレスを感じる。
労働力にしたとしても、ストレスで早死にするし子供は産まなくなる。乳にしたり、肉にしたりするにしても、ストレスを感じればおいしくなくなる。
≪うむ。だが、退屈をしていてだな。
せっかく、異世界へと来てしまったのだ。
生活を変えてみたいものだ。
……そうだ≫
それだけ言うと竜は輝き姿が変わっていく。
光り輝くドラゴンは小さくなっていき、やがて俺たちの前に一人の女性が現れる。真紅に燃え滾るような赤い髪の毛。黒みかかった小麦色の肌。爬虫類のような瞳。
耳元に角が生えており、背中には翼。尻尾が生えているワインレッドのイブニングドレスを着た女性がそこにいた。
「……女性だったのか?」
≪視れば、わかるだろう≫
「あいにくと、見て性別がわかるほどドラゴンを見慣れていません。
なので、わかりませんでした。
不快にさせたのなら、謝罪します」
と、俺は慌てて頭を下げる。
口調が男っぽかった。と、いうのは墓場まで持っていこう。と、決意する。
≪これで、この場にいても問題はなかろう≫
「と、言うか人間に化ける事が出来たんですね」
≪わざわざ、竜帝が人へと姿を変えることはまずない。
それこそ、よほどのことが必要だ。
それ以外で竜皇帝様の許可がないのに人へと変じるのは禁忌≫
その理屈で言うと、退屈だから人の営みを見てみたい。と、思う理由で人間に化けるのはダメなんじゃないんだろうか?
俺が内心で思っていることが分かったのだろう。
フレアルドさんは肩をすくめて、
≪異界に来た時点ですでに大したことだ!
何よりも、竜皇帝様が管理するのは元居た世界の竜。
すでに、我は元居た世界の竜ではない。
帰るすべはないしな≫
「元居た世界に帰りたい。とは、思わないんですか」
≪いや、ぜんぜんだな。
長く生きているのだ。それなりに、どこでも生きていける。
むしろ、まだまだ未知の環境に竜帝の規則もない。
自由気ままに行動ができるというのはむしろ、喜ばしいぞ≫
あ、こりゃ、あかんやつだ。
と、俺は頭痛を覚えた。
当人は悪気はないが、どうやら今まではきっちりとした決まりがあった。だが、その決まりという枷がなくなり、勝手に行動しようとしている。
まあ、多少は良識というのがある様子だ。だが、浮世離れというか存在がけた違いすぎるのだ。神話などでも良く効くが、神様や強大な力を持った存在のちょっとした気まぐれで甚大な被害が出る可能性がある。
つまり、その甚大な被害を俺たちが被る可能性がものすごくあるというやつだ。
最大の問題は当人(当竜)が、そのことをまったく気づいていない。と、いうことだ。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
と、俺は言う。
「人間の世界について、あなたは知りません。
それに、文字や言葉も違うでしょう」
これは事実だ。
≪うむ。そうだな。
だが、それがどうしたというのだ?≫
「それを気にせずに行動をしては、今までの生活とそれほど変わりません。
いろんな生き方を知るためにも、我々の生活の仕方を学びませんか?」
≪……それは、我を利用するというのか?≫
「いえ、違います」
と、俺は慌てて言う。怒気がこもったまなざしと気迫。その気迫に、ライラがびくりと硬直し、ユキノさんも体を震わせる。正直な話、俺は気絶しそうだ。