第九話 異世界での旅立ち
「それでは、長。お願いします」
「長はやめてください。トーヤ様」
「長は長ですよ」
長の言葉に俺はそういう。
長としては、俺が村長になったと思っている裸子が、俺としては違う。俺は、アドバイザーだ。第一、俺はクラスではせいぜい班長にしかなったことがない。(それも、だれもやりたがらなくてじゃんけんで負けてという理由だった)
そんな俺が、村の長になれるとは思えない。
それに、種族の違いがある。
別に俺は種族が違うからと言って彼らを差別するつもりはない。
だが、違う種族のよそ者がまとめ役をしていたらたいがいのやつは面白くない。だからこそ、俺はたんなるアドバイザー役だ。
「ユキノ。役目をきちんとはたすんだぞ」
「かしこまりました! 父上」
ユキノは父の言葉に力いっぱいうなずく。
俺たちは、彼らからきちんとした防具を用意してもらっている。
向かうのは、俺にライラにユキノだ。
女性二人に男性一人と、これだけ見るとハーレムに感じるかもしれない。
だが、実際のところはそんな色っぽい印象は感じさせない。
そう思いながら、俺はライラの案内で森じゃない場所へと向かう。
なんでも、ライラは森の外を知っていた。とはいえ、森の外へと向かったことはないらしい。いわく、変な場所だからだそうだ。
まあ、ライラは世間知らずなので考える。それに森の外側沿いに歩いていれば、また別の場所へと向かうのが見つかるかもしれない。
「目的としては、人材確保だな。
あるいは資源だな」
と、俺は言う。
文明技術を上げたいし、食料だ。
まだまだ、食料が未熟なのだ。
魚介類といった海の幸が食べたいし、文明技術が高い場所があるならそちらへの通路を見つけたい。そういった本音がある。
俺はそう思いながら、森の中を進んでいくと、
「おお」
俺は驚嘆の声を上げた。
「な。奇妙な地だろう」
と、ユキノが言う。
確かにユキノたちから見たら奇妙かもしれない。
なぜならそこは、
「森を抜けたらそこは……近未来だった。と、いったところかな」
トンネルを抜けるとそこは雪国だった。と、いう有名な一文がある。
何が本当で、何がウソかは知らないがわりと有名な一文だ。
そんな文章を引用してしまうほど、高い技術力がある。と、判断できる街並みがあった。
「不気味な光景だろう」
「それほど、不気味には俺は感じないな」
ユキノの言葉に言う。
「異なる世界だ。そりゃ、理解できないし不快に感じるものがあるだろう。
だが、俺たちが知っているのとは違う世界もあるんだよ。
異質やら未知を不気味と感じてはいけないと思うぞ」
と、俺は言う。
まあ、おそらく彼らにとっては視たことのない光景だ。
常識の中にない高層ビルの群れは不気味と言われても、文句は言えないだろう。
そう俺は思いながら、その先を歩く。
コンクリートではなく鉄で作られた地面。
「変な感じ」
と、ライラが飛び跳ねるように言う。
まあ、土で作られた大地しかしらないライラ達から見たら違和感が強いだろう。
「地面を補強しているんだよ。
ただし、こけないように気をつけろよ。
地面よりこけると痛いぞ」
と、俺は注意する。
地面は柔らかいので、こけると激痛がひどい。
幸いなのは、土が傷口に入らないので消毒はまだましなのかもしれないが……。
そう思いながら、俺は道すがらに歩いていく。
補強されている未知なので、歩きやすい。
「歩きやすいな」
と、ユキノが言う。
「まあな。歩きやすさを重視している道なんだよ。
それに、雑草が生えたりしないから大丈夫。
あとは、徒歩意外の交通手段もよいんだよ」
と、俺は言う。
「徒歩以外?」
と、ライラが首をかしげる。
「自動車や馬車、バイクとかだな。
まあ、あと馬もよいかもしれないな」
と、俺は言う。
「自動車! 知っている。
ぶーぶーって音が出てびゅんびゅん! と、進む」
と、ライラが言う。
テレビを見せたことから、車を見たことがある。
「まあ、あれは運転をする必要があるけれどな。
とはいえ、俺はそれを運転はできないけれどな」
と、俺は肩をすくめる。
あいにくと、俺は運転免許を持っていない。車の運転なんぞせいぜいが、真っ赤な帽子をかぶったひげ面のおっさんが走るレースゲームをしただけだ。
だが、それで本当に車を運転できるわけないのだ。
「ふーん。つまんない。
乗ってみたかったのに」
と、ほおを膨らませるライラ。
「危険なものなのか?」
「まあ、やり方しだいでは危険だな」
と、俺は言う。
車は便利だが、それと同時に凶器でもある。
現代日本では、車は当り前の乗り物だった。だが、それと同時に車による自動車事故もたくさんあった。
死亡事故もあったし、悲惨な事故があったしな。
と、俺はため息をつきながら歩き続ける。
車は当然ながら走っていない。
やがてビル街にたどり着く。
当然ながら人通りはない。だが、服なども置いてある。
「おー。たくさん、あるな。
食料も缶詰なら大丈夫だろうな」
と、俺はお店を見ながら言う。
本屋さんはあきらめるが、それでも調べる価値はあるだろうな。
と、俺は思いながら店を見る。
「ここ、お店?」
と、ライラが言う。
「そうだ」
「ライラ。お店を知っている。
お店はお金っていうのを使って、物をもらう。
ライラ、お金ない」
「威張るなよ。
まあ、厳密にはそうなんだろうが……。
ここは、お店だったところだ」
と、俺は言う。
「これは、落ちているんだよ。
使えるのは拾った方がよいんだよ」
と、俺はため息交じりに言う。
「ふーん」
「とりあえず、缶詰。
こういうのを集めてくれ。俺は缶切りを探しておくから」
と、俺は言う。缶切りがない缶詰なんぞ重しにしかならない。
俺はそういいながら、缶詰をあさるのだった。
最近の缶詰はいろいろと便利なものが多い。
「うむ。なかなかに、おいしいが……味が濃くないか?」
と、魚のオイル煮を食べながらユキノが言う。
「うん。味が強い」
と、ライラが言う。
「保存食だからな。
保存がきくように味が濃くなるんだよ」
と、俺もうなずく。
缶詰というのはどうしても、味が強めになる。
だから、下味などの調味料になったりする。
「けれど、おいしい」
「まあ、缶詰ばかりだと健康に悪いけれどな」
と、俺は肩をすくめる。
最近の缶詰はメジャーな桃の缶詰やシーチキンの缶詰やカニ缶だけではない。カレーやシチューといった料理の缶詰などもある。
まあ、火にくべればそれなりにおいしくも食べることができる。
「まあ、便利なのもあるしな。
それに、いろいろとある。
缶詰だけじゃなく植物の種もあるし」
と、俺はほかのお店を見る。
中には植物の種もある。
「これをきちんと、育てればかなりの収穫になると思うな」
と、俺は言う。
「まあ、出来ればジャガイモの種イモとかが欲しいんだけれどな」
「ジャガイモ?」
と、俺の言葉にライラが首をかしげる。
「とても、便利な食べ物だ。
どんな場所でも育って、栄養もあるしお腹にもたまる。
料理方法も豊富だし、保存もきく」
まあ、栄養を吸収するので何度も同じ場所で育てるわけにはいかない。しかも、保存の仕方を間違えれば毒になる。
だが、保存の仕方を気をつければ保存がきく。
コロッケにも蒸し芋に焼き芋に、ゆで芋にも出来る。
「ハーブの種もあるな。だが、胡椒の種はないのかな?」
とはいえ、胡椒は俺も育てたことはない。ハーブとかなら、育てたことがあるしトマトやナスにきゅうりというのも、祖父の家で育てられたことがある。
だが、胡椒はないのだ。
そもそも、胡椒はたしか種から育てるのは難しかったはずだ。
「農業のプロも欲しいな。あと、畜産」
と、俺はつぶやいたのだった。
「農業と畜産とはなんだ?」
と、俺のつぶやきにユキノが反応する。
「まあ、そうだな。自給自足のために必要なのは三つの手段がある。
まず一つは採取だな。動物を殺して肉や毛皮を手に入れる。あるいは、魚を捕まえて食べる。はたまた、自然に生えている木の実などを集めることだ」
「うむ。そうしなければ、生きていけないだろう」
俺の言葉にうなずくユキノ。
「ライラも同感。
当たり前」
と、ライラもうなずく。だが、
「それ以外で食べ物や毛皮などを手に入れる方法がある。
狩りよりもはるかに安定性がある方法だ」
と、いう俺の言葉に二人は驚く。
「一つ目は農業。
植物は種から育っていく。つまり、食べるものを最初から自分たちで育てて食べるんだ。
時間はかかるし道具も必要だ。天候にも左右されるが、うまくやれば大量の食料が手に入るというわけだ」
「なるほど」
俺の言葉に納得するユキノ。
「で、次の畜産。これは、動物を育てることだ。
子どものうちから育てて、大きく育ててから食べる。全部を食べるわけじゃなくて、子供を産ませていけば一定の時期になれば、肉が食べれる。
魚なら、稚魚のうちから安全な場所で育てる。外敵に触れないように食べるから、大きく育つから大丈夫だ。問題点は、えさを与える必要があることだ。
利点は食べる以外にも使える。動物の中には毛を刈り取ってもまた毛が生えてくる動物がいる。そういった毛を使って服にすることもできる」
と、俺は言う。
「動物を刈り取っての生活だと、どうやっても一定の文明発達は不可能なんだよ。
自然の恵みを何もせずに要求するだけだと、どうやっても一定の数を超えると生きていくことは不可能だ」
まあ、異世界なので何か非常識な事でも起きそうだが……。
狩りだけでは不安があるのは事実だ。
「だが、あの図書館とやらがあるんだろう」
「限界があるんだよ。
本で読んだだけの知識じゃダメなんだよ。
やっぱり、経験者が語るやつだ。土の感じ方や天候や湿度。
そこからわかる長年の経験というのは本で読んで手に入るもんじゃない。
狩りだって知識だけじゃできないだろ」
「「なるほど」」
俺の言葉にユキノとライラは納得する。
「まあ、簡単な初心者向けを集めてみるか。けれど、道具も必要なんだよな。
車も欲しいんだよなぁ。運転手も欲しいんだけれどな」
と、俺はため息をつく。
「まあ、出来れば種族に偏見を持たないやつがいいな」
「へんけん?」
俺の言葉にライラが首をかしげる。
「思い込んで相手を嫌う。あるいは、相手に対して思い込みをもって判断している。と、いう考え方のことだ。
俺の世界だと、相手の肌が黒いということで、育ちが悪い人間。と、判断をしている人間がいたんだ。あとは、女は弱い。あるいは、男は強い。
男が女より強い。そういう考え方のことだな」
と、俺は説明する。
「でだ。たとえば、俺の世界じゃユキノたちのような人間以外の知性の高い生き物は少ないんだよ。自分以外の種族を否定する考えを持っているやつがいるかもしれない」
と、俺は説明をする。
たとえば、ユキノはその可能性が高い。
ユキノは知性が高いし、俺は会話が可能だ。
だからこそ、彼らをちゃんと異種族だけれどヒトとして判断をして行動を共にできる。だが、言葉が通じなければリザードマンとなれば魔物として、判断をして敵対行動をする可能性がある。
まあ、日本人オタクならば獣人で基本人間で耳や尻尾が生えている獣人は、もろ手を挙げて仲良くしそうな気がするけれど……。
そんな中だった。
突如として、ばっ! と、ライラが顔を上げて走り出した。
「ライラ!?」
「誰かいる」
その言葉を聞いた途端に、ユキノも走り出した。
ライラはだてに、一人であのジャングルの中で暮らしていたわけではない。おそらく気配や危機感に関しての感知能力というのは、非常に高い。
俺は、平凡な高校生なので最も鈍感だ。
ライラがいるというなら、いるのだろう。
そう思いながら俺は追いかけていくと、たしかに走っている人影が見えた。
「第三種接近遭遇……いや、それは宇宙人か」
と、俺はつぶやいた。
まあ、すでに第三種接近遭遇しているような気もする。
そんなことを思いながら、向かえばそこにいたのは、
「捕まえた」
「捕まえたのはいいが、加えるのはやめなさい」
と、俺はツッコミを入れながらそのライラが加えている二の腕ほどの大きさをした小人を見たのだった。