衝撃の一言
色々混乱がありましてだいぶ遅くなってしまいましたorz
「一体、何があったの……」
私の目の前に広がっていた光景は帰る前に見ていた殴り合いではなく、追いかけっこであった。しかもナカケンさんと拓磨ではなく、ナカケンさんと謎のロボットの、である。
意味がわからない。どういう経緯でこうなったの? 私が叫ぼうとした時、上から声が降りかかる。
「アイツに声をかけるのはやめておけ」
その声の先には電灯の上でどっかの英雄王のように立っていた拓磨がいた。
「あんたそこにいたのね……」
「ああ、アイツに声をかけられたせいで仲間だと認識されたからな。こうでもしないと俺もあのレースに参加しなければならない」
「ならナカケンさんもあっちの電灯にでも登ればいいのに」
「俺がそれを許すと思うか?」
あんたは鬼か。
「じゃあ、あの追いかけっこなんで始まったの? 一見、そこら辺の警備ロボットだけど……、もしかしてナカケンさんも勝てないほどのすごいロボットだったり!?」
「アイツがあんなちっぽけなロボットに負けるわけがないだろう」
「まぁそうだよね。じゃあなんでナカケンさんは追いかけられてんの?」
「そりゃあ、アイツと俺が組手してた時にいつの間にか落ちていたアイツの財布を自分で後ろに蹴り飛ばして隣の民家に入ったんだよ。それで俺の制止も聞かずに『大丈夫大丈夫』とか言って不法侵入して、それがそこの家の警備ロボットに見つかってこうなったんだよ。まぁ俺らを殺しに来たわけじゃないし、人の私物だから壊すわけにもいかないのだろう」
なるほど、要するにナカケンさんはバカと言うことですね。でも現代を生きる人間ならば不法侵入したら警備ロボットがやってくるなんてこと小学生でも分かるのに……。ナカケンさんはいつ生まれなのだろうか……。
それにしてもナカケンさんはいつまで走り続けるつもりなのだろうか? さっきから私の前を走っては無視して通り過ぎ、それを何周も繰り返していた。
知らないけど競馬見てる時ってこんな感じなのかなぁ? まぁ競馬はこんなに長々走ってはいないと思うけど。
私達はしばらくそれを眺めているとナカケンさんは困ったように一言呟いた。
「なかなかタフなロボットだなぁ。いつ切れるんだろう?」
まさかこの人……、電池切れを狙っているんじゃなかろうな!? あんたは一体、何年前に生まれたんだ!?
「ナカケンさん、ここ三十年以内のロボットなら絶対に二日はフル活動出来ますよ! それに電気を自動生成する種類も出てきたから電池切れを狙うのは無理ですよ!」
するとロボットは突然動きを止めた。頭上にいた拓磨は頭を抱えている。
そして、私もそれでやっと察する。拓磨にやめろと言われていたのも忘れて思わず声をかけてしまった。つまり今、私もおそらく敵だと判断されたのだろう。
「あらら、お嬢ちゃんやっちゃったねぇ」
ナカケンさんがそう言った。その瞬間、ロボットはこちらに向かって走り出す。
ナカケンさんもそれに合わせるよう一気に駆け出してきた。
「追いかけっこのあとは競争か」
そう言うとナカケンさんはトップスピードかけて私の前にやってきた。そして私の両足を掬うようにして持ち上げ、腰に手を当て、お姫様抱っこをした。そして彼は大きく屈む。
「そんじゃお嬢ちゃん、行くよ!」
「まさかまた──!」
ナカケンさんは一気に跳び上がる。
私の体はどんどん地面から離れ、晴天の空を突き抜けた。だが、二度目だ。昔から物覚えがよく、適応力に優れているという評価を受けている私は早くも余裕が生まれてしまった。高層ビルが立ち並ぶコンクリートジャングルを見て、素直に感想を述べてしまった。
「夜は夜景が綺麗だったけどこれはこれで面白い」
「そうだろう?」
なぜだかこう他人よりもずっと上にいるとすごい優越感に浸れる。忙しく下を滑る車、窓の奥で働く人々。そのどれもが愚かしく見える。
だが、そんなものも一瞬であった。
突然、今まで感じていた下からの圧力が無くなる。
この瞬間、私はまたも察した。
……あ、落ちる。
私が心で呟いた時、下からの風を感じ、あの日の夜のことを思い出す。
『ナカケンさん。私達、落ちてません?』
『ああ、落ちてるな』
この会話をしたあとのことも私は覚えている。大人っぽい下着だと言われたことも覚えている!
私は前回の反省を踏まえ、スカートを両手で抑えた。抑えたのだが、その時に今まで何故か忘れていた物が目に飛び込んでくる。
……お弁当!!
私は片手を外し、袋の取っ手を手繰り、ゆっくりと引き寄せた。
が、一難去ってまた一難。一息ついて下を見ると地面がすぐそこまで迫っていた。そんな恐怖の瞬間ではあるが、何故か私はくだらない小ネタを思いついてしまった。
「……ナカケンさん」
「ん?」
「着地任せた!」
するとナカケンさんは目をキラキラ輝かせ、私を上へ大きく放る。そして着地すると同時に地面を蹴って、距離を離し跳び上がると、今度は前傾姿勢になって方向転換し、空を蹴ってすごい勢いでこちらに突っ込んできた。
ナカケンさんは地面スレスレで私を受け止めるとワンバウンドして着地する。
「名シーンの再現みたいで楽しかったね!」
ナカケンさんは嬉嬉としてそう言うも私は気が気では無かった。
そのまま放って前のようにすぐに受け止めると思ったけどそんな私の予想通りのことあの人がするわけないじゃないか。常に予想外で奇想天外。それがナカケンさんだ、ということをすっかり忘れていた。
「楽しくなんてないですよ! 死ぬかと思った……」
もうあんなこと言わない。あとナカケンさんに会うときはスカートも履かない。
そうしてやっと私はこの場所がどこなのか確認する。
近くにはなかなかに大きな川が流れ、川辺である私たちの立っている場所は整備された綺麗なサイクリングロードだ。ここら辺でサイクリングロードがあるような所は一箇所しかない。
弓川である。
だけどここは結構人がいる。というか知られている。誰かに見られていたらどうする気なんだ……。
「ナカケンさん。今は夜でない上にそこら中に監視カメラが睨みを利かせているんですよ? そういうことをもう少し考慮して行動を……」
私がせっかく現代での生き方というのを説明しているというのにナカケンさんは完全に無視してぼーっとどっかを見つめている。
「ナカケンさん! 私の話聞いているんですか!? これからに関わってくることですよ?」
それでもナカケンさんは私を無視し続ける。
「ちょっと拓磨から何か言って……」
私は拓磨の方を振り返るがその拓磨も同じようにどこかを見つめていた。
ちっ、どいつも使えない!
「お嬢ちゃん」
「何ですか? やっと聞く気になりましたか? それとも謝罪でもするつもりですか?」
「なんか近づいて来ているよ」
「はい?」
私はナカケンさんの視線を追った。
すると彼の視線の先には先程言っていたように何かが近づいて来ていた。
私達は何なのか視認できるまで、それをじっと見つめていた。
「……ナカケンさん」
「ええ……」
「おい、もしかしてあれは……」
「「「幼女か?」」」
我々三人は同時に同じ結論にたどり着いた。
だがそれにしては随分と速い。50メートル8秒くらいじゃないか?
しかし、近づけば近づくほど良くわかる。
……幼女だ。
しかも満面の笑みだ。
そしてそのまま突っ込んでくる。そして私たちの前で止まると彼女はこう言い放った。
「ねぇ──」
そしてまた、ここから波乱の展開が始まる。
「オジサンはえいゆうさんだよね?」