ひとつとふたつ
「ここで死ね」
彼がそう告げた途端、閃光が走る。
「おっとっと」
その瞬間、さっきまで座っていたベンチは焼け焦げた。
「そういえば君の能力は発電だったね」
そう、湯上蒼の能力は全貌はコントロールではない。彼の能力は電気を発生させる能力だ。だから雷撃を落とすのなんてお手のもの。だが、それだけではなくて電流の操作もできる。故に心身の操作も脳の電気信号に割り込み、操っていたという訳だ。更に電気信号を読み取り、人の考えを受信することも出来る。
だが、そのどれも僕の強化の前で阻まれる。だから彼は、僕には勝てない。
「大人しく人間を操作してればいいのに」
「あれは人間社会になるべく影響を与えないようにしているだけで本来、俺はああいうの嫌いなんですよ。細かくコントロールするの大変だし、イライラしてくる。だから、こう言うのが性に合ってんですよっ!」
またも閃光が降り注ぐ。
「当たったって僕には効き目ないよ?」
「いや、効くさ」
何を言っているのかわからない。彼はやけにでもなっているのだろうか? それとも自殺願望でもあるのだろうか?
「じゃあ、当たってやろう」
──強化
その瞬間、俺の頭上から雷撃が降り注ぐ。
「ほら、効かない」
「いや、効く。効かなければならない」
なんでそんな戯言がいえる? そもそも彼自身、前に僕には能力が通用しないと言っていたじゃないか。
彼は、阿呆の一つ覚えにそう言って、これまた繰り返し雷撃を放つ。
「だから、効かねぇって」
「また──」
俺が間合いを詰めた時、彼は耳元で言った。
「また諦めるか、英雄!」
「……っ!」
その時、彼の身体から特大の電撃が周囲に放たれた。
地面は抉れ、焼け焦げ、俺には確実に効いていた。俺は思わず飛び退いた。
「なぜ、あんたは繰り返す! それほどの力を持っていながら! 終わった後で八つ当たりしかできないのか!」
「餓鬼が知ったような口をきくなっ!」
公園から出た蒼はそのまま道路を走る。
──強化!
これですぐに追いつけるはず。
だがしかし……、あいつ速い!
強化かけててこんなに距離が縮まらないなんてことあるのか?
人の速さじゃない時速100キロは出てるぞ。
──だが!
俺はさらに加速する。
すると蒼はそれに気づくと同時に近くの標識に手をかける。
それを軸に方向を90度変えると高く跳び上がった。そして懐から拳銃を取り出す。
「先行ってるぞ」
刹那、弾丸が俺に飛んできた。それを手で払うと、そこに蒼はいなかった。
「なるほど、そういうことか」
なら、俺ももうちょっと本気出して走ろう。音速くらいなら間に合うだろ。
するとその先にはコンクリートに埋まる彼がいた。
「イッテテテ、慣れないことはしない方がいいな」
「やっぱりそうだな。そういえば君達には強化をかけたままだったな」
「ええ、でなきゃこんなリスクしかないようなことしませんよ」
「考えたじゃないか。僕の強化を利用して足への電気信号を強めて走りを加速、さらに直線になったらあらかじめ亜蓮からパクっておいた拳銃を君の電力で加速させてレールガンの要領で僕に向かって放つ。その反動で君はここまで移動する」
「ええ、その通りです」
「けどもう強化は解いた。君はレールガンはおろか、単純にその亜蓮の拳銃を放つことすらできないはずだ。勝ち目はないよ?」
「いや、俺の勝ちだ」
「何を……」
「いや、正確には俺達の信じる貴方が今の貴方に勝てるか、その可能性を開くための一撃を当てられたってだけか」
何を言っているんだ。こいつは……。
「ナカケンさん、ここはどこかわかります?」
……ここ?
俺は辺りを見回した。小高い丘の上、手前には曲がりくねった道があり、その先には線路が横に走り、さらに先には鳥居が立っていた。
「坂織宮……」
「そう、そしてここは長寿園だ」
目の前には夏の梅の木が風に煽られていた。
「あんた、約束したんだろ。ここで三月に花見するって。幸奈から聞いたぞ。
今年中には人類救わないと叶わない約束だな。けどあんたなら叶えられる。恐らく、なんならもっと早く出来るはずだ」
そういえば、そんな約束をとりつけた。とても遠いほんの少し前の話。
「そうだな。物分かりいいのはまだちょっと早いな。
……ありがとな。お前が言ってくれなかったらまた俺は──」
その時、俺の耳に空を切る音と衝撃が襲った。
「──は?」
俺の目の前には胴に大きな穴の開いた蒼がいた。
待て、待て、待て待て待て待て待て──!
もう人を失うわけにはいかない! 決意したばっかりだぞ! 失わないって、取り戻すって!
目の前にはある人すらも護れないで何が英雄だ!
──その時、俺の鼓動が大きく跳ねる。
一つだけじゃない。二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ。
廻る、廻る、廻る。血が身体を駆け巡る。
──全開!
蒼の大きな穴は徐々に塞がり、高摩山の山頂で衝撃音と共に木々の倒れる音が聞こえた。
するとドローンが一つ、ゆらりと飛んできた。
「──オジサン、やっと全部出したね」
少し前まで聞いていた、懐かしい声。
「アダム! テメェだけはぜってぇに許さねぇ! 絶対ぶっ潰す!」
「オジサン、怖いよ?」
聞き慣れた甲高い声、憎むにも憎めない可愛い声。今は違うと理解していても。
「もう喋んな、ガラクタ……」
俺はドローンを壊した。
──ひとつの過去の思い出が亡霊のように俺の足を引き、ふたつの過去の思い出が優しく僕の背中を押した。




