そして、かつての英雄は世界と戦う。
ここから視点が幸奈からナカケンさんに変わります
もしも世界を敵に回しても──
そんな文句をよく聞くがそんなの世界を敵に回したことがないから言える言葉だ。本当に世界を敵に回したら、そう言って愛してくれた人でさえ敵となる。
だから、僕は孤独を愛したはずなのに──。
× × ×
「お嬢ちゃん?」
その時、僕は何故か後ろを振り向いた。
何かを、何かを感じたんだ。あの日の夜の最悪を思い起こさせた。
……戻るか?
僕は一瞬その考えが過ぎる。しかし、戻ってはこのロボットの群れを連れて行くことになる。それにあそこには瀬尾さんもいるし、大丈夫だろう。あの人は信用できないが人類だ。それにお嬢ちゃんと兄ちゃんには興味を示していた。彼は興味の対象には危害は加えない。
「まぁ、何にせよこれを片付けないとな」
僕は構える。
──強化
基本は過電圧か重力強化で潰せば倒せるから問題ない。
かたもついたしそろそろ戻るか。──この嫌な予感、当たっているか否か確かめるために。
私は高速で空を駆ける。足下の空気抵抗のみを強化して空に地面を作り、それをこれまた強化した肉体で蹴る。
まだそれほどロボットの動きは活発化してないな。そして、静けさからしてロボットに襲われた人間もまだいなさそうだ。
眼下に広がる坂織宮の町並みを見渡すと野梅公園を何やら見慣れない箱のような物体が占拠していた。
……なんだありゃ?
はっきり言って怪しい、怪しすぎる。僕が普段いる場所だ。敵も僕が目をつけることは分かっているはず。ロボットの罠か?
だが、それにしては露骨すぎる。もし、僕の裏をかいてロボットの製造機とかだったなら早めに対処しておかないといけないな。
僕は足下の強化を解き、そのまままっすぐ落下する。
――ぼぉんっ!
地面に穴が開かないように勢いを殺して降り立ったとき、僕の巻き上げた粉塵の中から影が忍び寄る。
「わおっ」
横からナイフを握った女性が僕の首を斬りつける。
僕はのけ反り躱すも驚いていつもより反応が遅れてしまっていた。
すると、今度は背後からスーツを着た男性が足下を掬うように屈み、ナイフで斬りつける。
――いや、やはりこの人たち速い! 並の人間が出せるスピードじゃない!
僕は足を蹴り上げると空中に寝そべり、滑るようにその場を離れる。
「ふう、僕が重力無視できてなかったら危なかった」
彼らは無言で僕を睨む。その動きは非常に機械的で連携がとれていた。しかし、彼らはアンドロイドではない。アンドロイドのような匂いがない。この匂いは明らかに人から感じられる体臭だ。鼓動の音も聞こえる。なんだこいつら? 暗殺者や傭兵にしては随分と手はきれいだし、それに何より事情を知っていようと知らなかろうと突然、空から降ってきた僕にいきなり斬りかかろうとは思うまい。
それに彼らはなぜか水浸しだ。これが何もないわけない。
「君らその被ってる水はDCダウナーかい?」
彼らは返答せずに再び斬りかかる。
「沈黙はDCDって認めたとみなすよ?」
躱しながら問いただすもやはり沈黙。なんとも張り合いがない。
「会話っていうのはキャッチボールしてこそ意味があるんだよ? 会話による意思疎通は弱い人類がここまでの発展を遂げた所以。大事な武器なんだから。ちゃんと会話しよう! 最近の若者はネットばっかに頼ってダメだよ。ちゃんと口に出して言わないと!」
「……」
うむ、話しかけてもここまで無視されるとは。流石のオジサンもちょっと涙がちょちょぎれる。
「仕方ない」
正直もっと完璧に無力化したいところだ。この時代、意思だけでできることが多いからな。だが、殺すわけにもいかないだろう。蒼くんみたいに意思を操るなんてことできないしな。
「強化」
対象は服。鉄のように硬くなれ。関節部を覆う服を硬くすれば動きは封じられる。重くある必要はない。何より硬くなれ!
僕が強く思うと、心臓がドクンと一拍だけ強く跳ねた。
すると、彼らの動きは止まる。
「わーい! やったー! さすが僕! やっぱり最強の父さんの子にして元英雄! もう頭いいんだから〜!」
僕が声高に自画自賛して鼻を高くすると、眼前を弾丸が通り過ぎる。
「あり?」
なんで普通に動いてんの?
これにはルパン三世もびっくりである。
能力の機能不全? でもさっきまで普通に使えてたし……。
するといつの間にか左右に回り込んだ二人。その手に握る得物を拳銃に変えた彼らは再び僕に弾丸を放つ。
「強化!」
僕は空中へ飛んで避ける。
改めて使うとなんともない。じゃあ、多分そういうことだろうなぁ。
おそらく、予想にしか過ぎないが、これはDCDの影響だろう。今までDCD浴びてきた奴を相手になんてしてこなかったからわからなかったけどこれが僕の能力の影響が低下しているとしか思えない。これは確かに有効かもしれないな。宮城の米川とかには近づかないようにしよう。
DCDは基本的に二つの効力を持つ。一つはDCの力を弱める。二つ目はDCPの能力を弱めるだ。つまり能力をかけたものと能力者の両方を弱体化させるのだ。これは僕らDCPと呼ばれる超能力者に対抗する唯一の物質と言える。
──さて、どうしようか。こうなったら二つ目の能力を使って……。
すると、見上げている彼らは突如、頭を下げて正面を向くとふらりと歩き出し、公園を出て行った。
「ん?」
そして、バラバラに分かれてどこかへ消えていった。何かに引っ張られるように、夢遊病のように。
なんだったんだ、彼らは。
僕は追いはしなかった。
その直後、東の空から日が昇る。
「もう、朝か」
蒸した空気を払うように一陣の風が吹く。
「まぁなんにせよ、とりあえず危機は去──」
「おはようおじさん、オードブルは楽しめた?」
突如、聞こえたのは彼女の声、あの小さな甲高い声。そして、機械の王の言葉であった。
まわりにある全てのスピーカーから聞こえた。
「アダム……」
「いつもみたいに『おチビちゃん』って呼んで欲しいのになぁ」
ふざけるようにそう言って笑った。面白くない。
「用件はなんだ」
「……、まぁいいや。僕らの仇敵である君に、一言言っておこうと思って」
彼は彼として話だした。もうそこに、かつてのおチビちゃんの面影は無い。
「人類は僕が支配した。世界中のありとあらゆる人間を全て掌握した。無論、この坂織宮に住む人間、君のお友達、そしておねぇちゃんも」
「──全部。」




