同族嫌悪?
「へ?」
瀬尾教授を父と呼ぶ彼はこの人数に驚いていた。
「父さん、これはどういうこと?」
「父さんの知り合い。みんなに挨拶しなさいっ!」
「はいはい、……瀬尾卓郎です。えーっと父がお世話になってます……」
「ということで私の息子です! これからお世話になります」
……そのとき卓郎くんはすぐに瀬尾教授を呼び寄せた。
「父上、お世話になりますってなに? またなんか勝手に決めたの?」
「ああ、お前は彼らについていってロボット倒してこい」
「は?」
ひどく眉をしかめて横暴な父を責める。
「いいでしょ?」
「やだよ」
まぁ、そりゃそうだろうね。急にロボット倒してこいなんて言われてもね。納得なんていかないよね。
すると、先崎が卓郎くんをにらみつける。
「おい」
「はぁ!?」
彼は先崎の声に反応すると目を丸くして引いていた。
その途端、二人の間に火花が散って、ピンと空気が張り詰める。
「……何でお前もここに居るんだよ」
「表へ出ろオタク。ぶっ殺す」
「調子に乗るなよ、不良」
えぇ……。何なのこいつら……。
すると先崎は突然窓を開け、卓郎くんの胸ぐらを掴むと彼を窓へ背負い投げの要領で持ち上げる。
ドアから表へ出ようとした卓郎くんは不意を突かれ、対応できない。不本意にも窓から表へ出てしまう。
しかし、彼もただでは転ばない。否、投げられない。彼は窓の外へ出されたことがわかると、胸ぐらの先崎の手を返し、窓枠で関節を決めた。
その途端、先崎は肘関節が砕けることを察し、自ら外へ飛び込む。
彼らはそのまま下の駐車場に落ちた。
しかし、そのままコンクリートの地面にしゅたっと立ち、何事もなかったかのように取っ組み合う。
「あいつら今でも仲悪いのか」
そう愚痴るマスターと警視長さんは同じ窓から降り、追いかける。
「琢磨二人の攻防をよく見ておけ。これからお前が身につけないといけないのはこういう戦い方だ」
そう言って竜崎さんは琢磨を引っ張りながら飛び降りた。
……こんなことしてる場合じゃないのに、男ってホント馬鹿!
「じゃあ、我々はおとなしく階段から行くとしよう、幸奈くん」
「……はい」
× × ×
私と瀬尾教授が下に降りると中庭で二人は罵倒し、殴り合っていた。しかも、先崎はトンファーを握っている。本気である。
「ふざけるのも大概にしろ、このパチモンオタクが」
先崎が連撃を続けるも卓郎くんはそれを躱しながら後退する。そして彼は眼鏡を上げながらほくそ笑む。
「自慢のトンファー使ってこの程度とか逆に自分がパチモンであることを認めているのと同義なんだが? 早く自分がクソザコナメクジと認めた方が身のためでござるよ?」
その時、先崎のトンファーが卓郎くんの顎にヒットする。
卓郎くんはグラッと頭が揺れ、そのまま地面に倒れ込んだ、先崎の胸ぐらを掴みながら。
そして彼は臀部に足をかけ、やられながらきれいな巴投げを決める。
しかし、先崎もトンファーを前回りで受け身をとり、すぐに立ち上がる。
一歩も引かない両者。この戦いの終結が見えない。
……というか、そもそも何でこの二人は戦っているのだろうか。
すると、両側から声が聞こえた。
「「それは――」」
さすが、心を読めるマスターと瀬尾教授……。
お互いそう言った途端、目で譲り合っていた。なんだろうか私からするとすごい気持ち悪い。
だが、何やら決まったようで瀬尾教授が話し出した。
「いいかい幸奈くん。よく聞き給え。うちの倅の使っている戦闘術は代々オタクが自分の身を自分で守れるように開発された力を必要としない護身術。オタク脱力護身術というものなんだよ」
随分とふざけた名前の護身術だな。
「そして、先崎くんの使っている戦闘術は認められた不良にしか教えられない伝説の戦闘術。零式喧嘩殺法だ」
なんだその厨二病くさい名前は……。
すると今度はマスターが話し出す。
「この二つは技が非常に似ていて異なる点を探す方が難しいほど酷似している。その上、この戦闘術の目的が対極に位置していることから互いが互いをパクったんじゃないかともめているという訳だ。しかも、オタク脱力護身術は戦前が非常に平和だったことと先の戦争の影響でほとんど受け継がれず、零式喧嘩殺法は元々認められた不良のみの一子相伝であるためお互い後継者はこの二人のみ。それ故、お互いの誇りをさらに増長させ、ここまで折りが合わないんだ」
……どうでもよくね?
何この不毛な戦い。これやって何の意味があるの? 関係ないなら関係ないでいいじゃん。『関係ないね、ハハッ!』で済ませればいいじゃん。この二人しかしてないんだから簡単な話じゃない。
「やれやれ、幸奈くんはわかってないな」
「ホントにわかってないな」
なぜ私が批判されているだろうか。わざわざ暴力で決着つけようとしなくても……。痛いし。
しかし、一進一退の攻防はまだまだ続く。
「零式喧嘩殺法第一の法『海嘯』」
「それはオタク脱力護身術の『ローリング・ブレイク』だ!」
両方名前は無駄にかっこいいな。
「オタク脱力護身術『ドゥルーリング』!」
顔面に唾を吐きかけただけじゃないか……。英語の意味そのままだし、なにより汚い。
「てめぇ、それは零式喧嘩殺法第三の外法『唾盲』だ!」
あ、こっちにもあるのね。
そんなこんなでいつまでも終わらないこの二人の戦い。
正直、全員飽きていた。
恐らく非常に高度で、恐らく非常に拮抗した、手に汗握る戦いなのだろう。しかし、かれこれ3時間もやられていては流石に飽きる。
とは言え、私にこの戦いを止められるわけもなく、ただ眺めるしかできなかった。他の人もほとんど睡魔に負けて夢うつつ。
駄目だ、こりゃ。
そう思い私も睡魔に屈しようとしたその時、乱撃の真ん中に現れ、二人の頭をつかみ、ピタリと誰かか止めた。
「……長い」
ごもっともなことを言って彼らを止めたのはマスターであった。
この人、対人戦じゃ最強なんじゃないだろうか? まぁロボットと戦う時はこの力は使い物にならないけど。
「めんどくさいからこいつら洗脳して仲良くするか」
怖っ!
「まぁともかく、こいつらは俺が連れていくので残る2人は頼んます」
マスターがそう言って寝ぼけ眼を擦る三人と夢遊病のように不気味に歩く二人を連れてその場を去っていく。そして、去り際に常識人らしく頭を下げると、瀬尾教授は軽く手を挙げて「あいよ」と適当に返事をした。




