強力な協力者
綺麗な発光とそれを霞める煤煙が私を飲み込む。
それは非常に息苦しく、辛いとしか言えない。目も染みるし。死んだ後って楽になるんだろうけど、死ぬ前はめっちゃ辛い。
やがて、煙が晴れ、月明かりが見える。
「痛っ!」
上体を起こそうとすると手に何がくい込んだ。
涙で歪んだ視界には私のもち肌と言うに相応しい柔らかい手に少し赤く凹んだ箇所が見える。
「……生き……てる」
腕で涙を拭って起き上がる。
目の前には拓磨の鋭くも幼い瞳があった。息も感じられる近さで私達は思わず見つめあってしまった。
「──っ! よかった。生きてたか」
辺りを見ると凄まじい光景が広がっていた。地面は私達を中心に凹み、更地となっていた。
「……マジでなんで生きてんの、私」
私が呟くと先崎が答える。
「そらぁ、ナカケンさんのおかげだろ。この場で唯一消し飛んでないのは俺達とその武器だけだ。服は全く破けてない。俺のトンファーは元々ナカケンさんの能力がかかっていたがその他の今の装備や俺達の肉体にもかけていたんだろ。保険として」
「……っ」
結局、あの人のおかげ。なんともくだらないオチだ。私達は笑うしかなかった。戦えもせず、身を守ることも出来ない己が無力さを。
× × ×
我々は仕方なくあの人工クレーターから離れる。もうバレているだろうがなるべく邪魔されないように人工知能を避けて、獣道を進む。そして無駄に遠回りしながら、ついに坂織宮大学へと着いた。
ここの学生でありながら約3ヶ月ぶりの登校である。
……今更ながら私は大丈夫だろうか? この今年で大人になるというこの時期に、学校に行かず、1人でおっさんの家に居候。3ヶ月前まで会っていた友達は私が大学辞めたのではないかと誤解していないだろうか? ちなみに反語である。
「今更だが、なぜ俺らはここに来たんだ?」
琢磨が立ち止まり不思議そうに問うた。
「「瀬尾教授に会うためでしょ」」
全員で一斉に同じタイミングで答える。
「それは竜崎さんに聞いたりしていたから瀬尾教授が目的なのは予想がつくが、教授は頭は良くても戦闘が出来るわけじゃないし、何が理由なのか分からない」
「あの人は戦えるぞ」
「へ?」
竜崎さんの言葉に思わず私が反応してしまった。
「あの人は大抵の事はトップレベルで出来る。あの人が出来ないことを見つける方が難しい」
えぇ……、あの自信過剰おじさん、文武両道だったの……。
我々は相変わらず縦に1列に並んで進む。
すると、先頭の竜崎さんが徐ろに空薬莢を一つ空に投げるとすかさずライフルでそれを弾く。今度はそれを前から二番目の警視長さんが巨大な弾丸でまたもや弾く。さらにその後ろにいる一華さんは懐から拳銃を取り出し、またも弾く。
「そこはスナイパーライフルで弾けよ。何のための得物だよ」
「敵を討つためよ! あんたたちの遊びに付き合っただけでも感謝しなさい」
そんなことをいっている間に先崎がトンファーでさらに弾き、琢磨も高周波を止めた剣で弾く。
次は私の番だがどうすりゃいいの? 私は得物を持ってなんかいないし、持っていたとしてもこんな高度な遊びに参加なんかできない。
おどおどしていると、マスターが私の横から肩を抱き寄せる。
「無理に参加しなくていい」
彼は空薬莢を指で弾くとまっすぐ飛んでいった。なんか既視感。
「そんなことよりおまえは瀬尾教授がどこにいるのかわかって歩いているのか?」
口悪くマスターは竜崎さんに尋ねると、彼は飛んでくる空薬莢を掴み、どや顔で一言。
「知らん」
「ええ!?」
思わず叫んだ。
方角的にわかっていたのかと思った……。この人、切れ者みたいな雰囲気出して馬鹿なのか?
「わからないからこうやって音出して瀬尾さんに気づいてもらおうかとこうやって遊んでいるんじゃないか」
「アホか。ここにこの学校で瀬尾教授の教示を受けている学生がいるだろう」
そういってマスターは私を前へ強く押し出す。
「あ、そういえばそんなこと琢磨に聞いたな。じゃあ、案内してもらおうか」
そう言った時、ひょっこりと白衣をなびかせ、いつもの不敵な笑みを浮かべながらその男は現れた。
「やあやあ、こんな年寄りになんかご用かい?」
私はあんぐりと口を開けて呆気にとられていた。
「……来た」
× × ×
「まぁ、適当に腰掛けてくれ。あぶれた人は立っててくれ」
彼は冗談めかして自分の研究室に我々を押し込む。
ここへも久しぶりに訪れた。瀬尾教授は電子工学の先生であるがその研究室は電子工学に関わるものばかりではない。生物の標本やあらゆる薬品、人体模型、歴史書に医学書、心理学の論文に至るまでありとあらゆるものがこの大学で最も広いはずこの研究室をどこよりも狭くしている。
「久しぶりだね、幸奈くん」
「はい、お久しぶりです」
あのスーパーで会った時以来か……。
「君らとはもっと久しぶりだね」
瀬尾教授は私と琢磨以外の五人を目で指しながら話した。
「そして君ははじめまして、だ」
話しかけられた琢磨は訝しむように睨む。
それも当然だ。この人は人畜無害みたいな笑顔を作っているが、それがむしろ不気味で怖い。だが、私がこの人の下にいたのはその実績だけでなく、この不気味さが不思議と魅力に感じたというのもあるだろう。
「それで、今回は一体何の用だい?」
そういえば何でここにやってきたのか、私もよく知らないな。まぁここに来ればなんとかしてくれるって不思議と安心感あるけどね。
「――ロボットの情報でも聞きに来たのかな? それとも対抗手段とかわかると思ったのかい?」
この人は相も変わらず知っている。本当にあなたは何でも知っている。見てきたかのように。
「……話が早くて助かります。正直、その両方について聞きたいです」
「おや、意外とずうずうしいねぇ、警視長様は」
「はい、ずっと前から知っているでしょう?」
「まぁね」
そう言ってなんだか腹の探り合いのような終着点のみえない会話が続く。
この人がいるといつもそうなんだよな。油断も隙もならないというか、どうも怪しく感じる。
「……いつまでもこうしているのは中高年には楽しくても君らはイライラするだろうから早めに切り上げてあげよう」
そう言うと我々は、ほっと肩をなで下ろす。しかし、教授はそれを見てまた、にやつくのであった。
「さて、まずはロボットの情報だね。ロボットは現在は約二万。今も絶賛生産中。そのうち約三分の一は大型。早めに片付けないとどんどんめんどくさくなるだろうね」
どこでその情報入手してんだよ。
「その生産しているところはどこですか!?」
「この南西にある機械工場」
南西に機械工場なんてあったか?
「なるほど、次にこのロボットを効率的に倒したいですけどどうすれば……」
こんな単刀直入に聞いて答えてくれるのか?
「あ、それも用意してあるよ」
そう言うと背後から何やら拳銃のような武器を取り出した。
「それは……?」
「これはそこの不良くんが腕に仕込んでいるのと同じ電磁パルス発生装置。それを何十倍にも強力に、かつ射程を伸ばしたものだよ。君らが扱い慣れてる拳銃を模して作ってみた。射程は一キロ程度で対策されなければ大きさ問わずに電子機器やロボットを一撃で使用不可、行動不可にできる」
瀬尾教授はそれを配ると、みんなはおもちゃを買ってもらった子供のようにまじまじとその新たな武器をみつめる。
「その大きな得物持った君もそれならかさばらないし使いやすいだろ?」
そう言っておじさんはウインクを投げると一華さんはため息で一蹴した。
「あとこれも持って行きな」
そう言って彼は手榴弾のようなものも取り出した。
「これは?」
「使い方普通の手榴弾と同じでピンを抜いてから約五秒後に電磁パルスを全方位に10メートル一瞬放射する」
おかしい。この人、ここまで親切な対応とらない。もしや、ロボット!? ……いや、ならこんな自分に不利なことなんてしないか。
脳内通話で密かに問う。
『何の心変わりですか?』
『何がだい?』
『こんな親切に情報と武器を素直に渡すなんて』
『私だって無論、みんなを応援しているからね。この程度のことは無償でするさ』
まあそれもそうか。自分が死ぬ可能性だってあるんだし。
すると、竜崎さんが突然立ち上がった。
「瀬尾さん、折り入って頼みがございます」
「ん? 結構今も聞いてあげたと思うんだけど?」
「それは……」
竜崎さんは苦い顔をしてうつむく。それを見てた瀬尾教授は口を開けてさらに笑った。
「うそうそ! 聞くよ、聞くとも、聞かせてほしい!」
「その幸奈さんとうちの琢磨を預かって頂けないでしょうか?」
「ん? 幸奈くんはわかるが何で君の後輩くんも?」
「ここからいくところはこんな新米のいくところじゃありません。それにこいつにはもっと戦闘について学ばせなければなりません」
「それで僕のところにか」
「はい」
そう言われて琢磨も黙ってはいない。
「竜崎さん、俺はできます! 連れてってください!」
「駄目だ。わかってない。ここへ来るときもここにいる皆に散々言われただろう!」
そういえばボロクソにいわれてたなぁ。
「わかった。では二人は私が預かろうその代わり――」
すると研究室のドアが開く。
向こうにはいかにもオタクな小太りでジーパンにチェックのシャツの眼鏡男子が立っていた。
「父さん、コーヒーのブラックなかったから武藤の紅茶を――」
「――こいつを連れて行け」
「へ?」




