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兵士の目

 ナカケンさんが消えたあと、我々は遠足のように一列で歩きながら坂道を下る。なんで徒歩なのかと言うと、車だと囲まれたときに身動き取れ無くなるからだ。

 けど、この光景はなかなか摩訶不思議だ。前から自衛官二人、不良生徒会長、警視長、女子大生、超能力者、そして女スナイパー。なんというか……多種多様過ぎやしませんかね?

 そして、非常に頼もしい。


「正直、ナカケンさんよりこのメンツの方が頼もしい」


 私はポロリと心の声を零した。

 すると、前を歩く警視長さんが高笑いする。


「そんなこと言ってもらえるなんてお世辞でも光栄だね」


「いや、真面目にあのヘラヘラしてるオッサンより何倍も頼もしいです」


「ヘラヘラしてるオッサンか。ナカケンさんに向かってそんなこと言えるのは世界で正さんくらいのものだよ」


 いや、ナカケンさんが凄いのは知っているし、体感してるけどやっぱりあの人はヘラヘラしてるオッサンだ。


「それに頼もしく思えるのは数がいるからさ。僕らとナカケンさんじゃどうやっても勝てない。全員で寝込みを襲っても弾丸ひとつ掠るかどうか。しかも、彼にはほとんどの武器が通用しないからね。勝てる要素が欠けらも無いよ」


 おお、言い切った。この警視長さんって人は随分とナカケンさんに陶酔しているように思う。まぁ基本的には腰の低い人だけど相手がナカケンさんになるとそれがさらに低くなる。常に腰の角度が斜め45度だ。


「それにしても正さんは凄いですね」


 私は不意に警視長さんからかけられた言葉に驚いた。


「えっ、凄い?」


「ええ、凄いです。今回の心葉さんの正体やナカケンさんの御業、アンドロイドの存在を知っても動じず、さらにあの殺人現場を目の当たりにしても直ぐに動けていたなんて。一般人なら理解が及ばないし、殺人現場なんて見たら卒倒しててもおかしくない」


 まぁ、でもナカケンさんのことも心葉ちゃんのことも事実に論破されたから納得せざるをえなかったし、それに鮮血は私の最古の記憶だ。

 その時、前を見ていなかった私は警視長の想像以上に大きい背中にぶつかった。


「っん!」


 私が前を見ると前に立つ全員の雰囲気が変わっていた。そして、拓磨の呟きが聞こえる。


「……来たっ!」


 すると、頭上から轟音と共に降ってくる何かを前の三人が飛び上がり躱す。

 飛び散るコンクリート片の後に見えたのは丸い胴から伸びる四つの腕に三本爪。そう、前に拓磨が敗北し、ナカケンさんに瞬殺されたあれと同じ型のロボットである。


「竜崎さん、ここは俺にさせてください」


「うーん、実戦少ないお前には早い気がしなくもないけどまぁやるだけやってみろ」


 拓真は背負っていた重々しいバックからあの高周波ブレードを取り出し、ズボンとシャツの裾をたくし上げると白銀の鎧が覗く。


「……っ!」


 拓磨が目を見開くと巨大な爪に向かって飛び込んだ。

 高周波ブレードで太い腕を切りつけながら進んでいく。

 

 ギィィィィ!!


 剣とロボットの擦れる音が鼓膜を引っ掻く。

 斬りつけながら拓磨が飛び上がると別のアームが拓磨を壁に抑え込む。

 そして、胴が割れ、ガトリング砲が覗く。

 その時だ。拓磨はいつの間にかロケットランチャーを手にして、肩に担ぎ構えていた。


「ぶっ飛べ!」


 ロケット弾はロボットの丸い胴に直撃し、爆発した。そして、それに誘発されてガトリング砲も爆発し、アームは拓磨から離れた。

 ロボットは倒れ、その場で停止する。

 拓磨は歩み寄り、ロボットを見下していた。

 すると突然、ロボット四本のアームが拓真に向かって這いずり伸びる。

 しかし刹那。


「──遅い」


 彼はロボットを斬り捨てた。ロボットの胴を割くように真っ二つに斬り捨てた。

 ロボットのアームより遥か速く。それはかつて空想した剣豪達を彷彿とさせる。

 拓磨もあの時、ナカケンさんに言われた言葉を痛感したようだ。そこに余裕はあれど油断はないように見えた。


 凄い。


 私は声には出さないが勇ましい彼に称賛を贈った。

 だが、周りからはそのような声はない。むしろ、酷評が聞こえる。


「竜崎さん。あんたはこいつに何教えてたんだ。自衛隊支給のスーツと高周波ブレードなんて使ってんのにロケラン使わないと倒せないなんて。自衛隊の底が知れる」


「まぁそうね。ここにいるのなら一撃で仕留められて当たり前」


「はは、まぁ全力で確実に倒すように言ってるからな。気にすんな。良くやったよ。あとは任せてそこで見てろ」


 竜崎さんが慰めるように声をかけた時、先程の何倍にもなる轟音が辺りを包む。


「マジかよ……」


 警視長さんが呟く。

 それもそうだ。なんせ目の前には先程倒した四足のロボットとドローン型のロボットがそれぞれ十数体確認できた。


「竜崎さん、待ってください。まだ出来ます!」


「上官命令だ」


 彼は目を鋭くして、拓磨を黙らせる。


「それにお前じゃあの暴れ馬に合わせられない」


 暴れ馬?

 誰のことだろうか。私が辺りを見回すと一人消えていた。


「──ぶっ壊す」


 マジかよ……、あなたとは思わなかったよ……、警視長さん。


 彼はそれまでの大人しさとは打って変わって、ロボットの群れに猪突猛進していき、ロボットの目の前で飛び上がる。

 しかし、彼は三方をロボットに囲まれ、ガトリング砲が狙いを定めていた。

 すると、彼は懐から二丁の拳銃を取り出した。

 異様に銃口の広い拳銃から放たれた弾丸は左右で構えるロボットを一撃で沈める。

 けど前の敵はまだ構えたままだ。

 そのガトリングガンが回り出した時、一筋の光が警視長さんの頬を掠め、ロボットを貫いた。


「ホント、誠真さんと同じもの求めないで」


 一華さんは愚痴りながら敵を撃つ。


「先崎くんと拓磨はそのまま正さんを守って。敵は今戦ってる二人と俺で何とかします。湯上さんは俺らになんかあったら頼みます」


「はいよ」


 マスターは人の心を操れても今回の敵はロボットだし、なんも出来ないんじゃ……。


「さて、そろそろか」


 そう言うと竜崎さんも飛び出す。


「亜蓮、そろそろ弾切れだろ。後退しろ」


「チィ!」


 警視長は人が変わったように悔しがり、3秒竜崎さんに前を預け、装填する。

 

「それにしても警視長人変わりすぎだろ……」


「そりゃ、あの人達は全員戦闘狂だよ」


 マスターはそう語った。


「ナカケンさんは英雄だが、それはDCPであるが故の英雄だ。もしもDCPが存在していなかったら英雄は彼らだったはずだ」


 ナカケンさんが世界最強ならあの3人は人類最強ということか。


「自ら戦地に真っ先に辿り着き、誰よりも武功をあげた3人。俗に言う三傑だ。まぁ使ってる得物も使う技も人の業じゃない」


「三傑?」


「ああ、やつら。相川亜蓮、竜崎絋、五十嵐誠真の3人は日本支部所属の最強の三人。通称三傑だ。まぁ見とけば素人でも凄さが分かる」


 と、言われたが……。


「あの……、もう見るものないんですけど……」


 そこにはロボットの骸の上でつまんなそうに座る警視長さんと黙々と武器を片付ける竜崎さんと近くの自販機で珈琲を買う一華さんがいた。

 

「雑魚い」


「バリエーションも少なくて飽きるしな」


「まぁ戦闘ってより作業って感じだったわね」


 この3人……、思った以上に心強いが思った以上に目に生気がない!

 そう常に死を見つめているようなそんな目を、彼らはしていた。

 そして、その目は一斉に一点に集まっていった。

 前から何かが見える。

 その影は小さくて、恐ろしくて、強大であった。


「今度は逃げないでね、お姉ちゃん」



 

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