表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/51

縮んだ車で走り出す

「「あぢぃ……」」


 私とナカケンさんはぐでーっと溶けて、そんなことを呟く。

 今は正に夏である。ここ最近は酷暑が続き、私もナカケンさんも夏バテ気味だ。

 この家、エアコンないとかありえない……。

 だが一人、そんなのものともしない風の子が私達の体を左右に揺さぶる。


「ねぇ、おねえちゃんあそぼうよー!」


「お姉ちゃんは今死にそうだからそういうことは隣のおじさんに頼んで」


「あ、酷いぞお嬢ちゃん! 僕だって夏バテしてるんだからな!」


 すると、会話を聞いていた心葉ちゃんがプクーと小さな頬を膨らませて体をじたばたさせる。かわいい。


「つまんない! このはあそびたい! おじさんあそんでよ!」


 かわいい。


「ヤダヤダヤダー! おじさん暑くて元気ないー!」


 超絶かわいくない。むしろキモイ。


「じゃあどっかに涼みに行きません? 例えば図書館とか」


 すると、二人が変な顔をする。


「このは、としょかんしずかだからきらい。あそべない」


「こういう時、図書館出てくるあたりがお嬢ちゃんって感じだよね」


 えー、そんなに図書館ダメかな? マンガでもアニメでも夏の炎天下に涼みに行く時は図書館って相場が決まってるのに。

 

「でも、涼みにどっか行くのは賛成だな。どこか行こうか」


「じゃあ、またショッピングモール行きます?」


「いや、あそこはもういい。借金と砕けたアイカちゃんを思い出す……」


 あー、この暗い表情。相当ショックだったんだな。借金はなんだかんだ言って返せたのにそれでも行きたくないのね。


「このは、プールがいい!」


「プールか、いいね!」


「いや、ダメです」


 私が即時否定するとナカケンさんはムッと食い気味に問い詰める。


「なんでだい!? いいじゃん水の中は涼しいし、遊べるよ!」


「いや、それはいいんですけどこの時期のプールなんてのはどこへ行っても混んでいて暑っ苦しいんですよ。やめておいた方がいいです」


 ちなみにソースはアニメやマンガのプール回。私がリアルでプールなんて行ったことあるわけないじゃん。


「それもそうだな。アニメやマンガのプール回もだいたい混んでるし」


 あんたも私と同じ口か。


「じゃあ海行くか!」


「うみー!」


「いや、それも待ってください! 遠すぎます!」


「それなら僕が抱えて──」


「ジャンプで行くのはなしです!」


 すると、ナカケンさんは少し悩むも直ぐに掌に拳を乗せ、「そうだ!」とか言い出した。


「何か代案思い浮かんだんですか?」


「ああ、車で行こう!」


 と、言うことで半信半疑ながらもその言葉を信じ、我々は支度をしてから外を出て庭へ回った。


「それでナカケンさん」


「ん?」


「ナカケンさん、車どこですか?」


「ちょっと待ってくれよ。今、来るから」


 私はその言葉に確信を持った。疑問ではない。確信だ。


「ナカケンさん、まさか警視長さん辺りに頼んで乗せていってもらう気じゃないですよね!? ナカケンさんは好き勝手やってますけどあれは市民を守るためにある警察官の足であって、ナカケンさんが乗り回していいものじゃないんですからね!」


「何言ってんだい、お嬢ちゃん?」


 ナカケンさんはとっても不思議そうに疑問を投げかける。私はその反応が不思議であった。

 ポカーンとした二人が向き合う。

 ナカケンさんの嘘がこんなにうまいわけないしな。もしやこの反応は真実か?


「……じゃあ、何する気だったんですか?」


「こうするつもりだった」


 ナカケンさんは徐に指下から上に持ち上げると地面がむくむくと盛り上がる。

 すると、土を落としながら汚れた銀色の箱が現れる。


 ……車の出し方のクセがすごぃ!


「なんで車を地面になんか埋めてるんですか!?」


 というか今まで車踏みながら暮らしてたの……?


「僕流、収納術!」


 ……もう、好きにしてくれ。


「じゃあ、行きますよ」


「じゃあ、洗車しよう!」


「は?」


「このままじゃ汚いじゃん」


 何言ってんだこの人は? あんなゴミ屋敷1歩手前みたいな家に住んでたのによくも車の見た目なんて気になるな。


「バカ言わないでください。そんな暇ないですよ。40秒で支度しな」


 と、私が決めているとナカケンさんは敬礼した。


「りょ!」


 は?


「驚いてるなお嬢ちゃん。チカラってのはこういう時に使うんだよ!」


 ふふんとやたらと偉そうに鼻を鳴らすとナカケンさんは汚れた車の上に手を乗せ、軽く押す。すると、それに合わせるように車は見る見るうちに縮み、最後には手で覆えるほどの大きさになった。

 それを庭の蛇口で洗うとタオルとマイクロファイバーの布巾で念入りに水を拭き取る。そして、それを再び地面に置くと車はあっという間に元の大きさに戻った。


「よし、それじゃ行こうか!」


 …………。


「ちょっと待ってナカケンさん! 今何した!?」


「小さくして洗って戻した」


 そんな乾物みたいに言われても……。

 私が何度も経験した驚きが故の呆れの表情を浮かべていると彼は「あー、そうか!」となんか勝手に納得するとサラッと私に告げる。


「これももちろん僕の能力だよ」


「それは分かっています。そうじゃなくてそれはなんて能力なんですか?」


「それは教えられないなー。答えは前みたいにお嬢ちゃん自身で解き明かしてみなよ」


 ニヤニヤしながら彼はそう言う。

 じゃあとりあえず当てずっぽうでも言ってみるか。


「『縮小』ですか?」


「いや、違う。まぁ間違ってないちゃないんだが、それだけじゃあ説明出来ないこともあるからね」


 ナカケンさんの能力について話す時はいつもこんな感じだ。だが、今回はいくつかあるという能力の中の一つについて触れたつもりだったんだけど、それでもこんな答えなのか……。強化の能力といいナカケンさんの能力というのは存外に対象となる範囲の広いものなのかもしれない。

 私が考え込んでいた時、不意に私のフレアスカートが引っ張られる。


「おねぇちゃん。はやくうみにいこ?」


「そうだねぇ〜。早く行こうね〜。ナカケンさん、早く車出してください」


「お嬢ちゃん、テンションの差が激しい! 分かったから早く車に乗ってよ」


 私は心葉ちゃんを車に乗せると反対へ回り、自分も乗り込む。

 この車、なんかベルトみたいなのが垂れ下がってるんだけど。これって俗に言うシートベルト? やっぱりナカケンさんの車はマイクロチップ感知しないカメラで認識したもののみに反応するタイプか。

 現在、車には2種類の探知方法で人や車などとの衝突を回避している。ひとつは内蔵されている人工知能がカメラの映像やセンサーから人や物を感知して回避する方法。だが、これは補助的な機能に過ぎない。メインとなるシステムは人や車に内蔵されているマイクロチップの信号に反応して回避する方法だ。これならば人の位置、行動を把握するとともに、思考まで読み、次の行動、ぶつかる可能性を判断する。

 メインとなるマイクロチップの信号を感知しない上に搭載されてないから感知もされない。つまり、車検には通るが安全性がかなり下がるという事だ。

 まぁナカケンさんといりゃこの程度のことよくあるし、仕方ないか。


「おねぇちゃんおやつたべよ!」


 早い! 心葉ちゃん早いよそれ! まだお昼ご飯も食べてないじゃん!

 そう思えど彼女からすれば、というかこの歳の子からすれば遠出するイコールおやつなのだ。

 すると、前に座るナカケンさんが突然振り返る。


「センセー! バナナはおやつに入りますか?」


「はいそこ! わざわざ振り向いてまでお決まりのセリフを言うんじゃない! あとナカケンさんはあたりめ以外おやつと認めません!」


「なんで!?」


 当たり前だろ。あんたみたいな常に「口が寂しい」とかいっておやつ食ってる大食漢はあたりめ以外与えると食費がかさむのだ。

 噛んで空腹を紛らわせなさい!

 ナカケンさんは納得いかないようでプリプリ怒りながらエンジンをふかした。

 なんかこの車やたらとエンジン音がうるさいな。壊れてないだろうな?


「ナカケンさん、この車大丈夫ですよね?」


「大丈夫! この車は僕の能力で強化してあるから故障することなんてありえないよ」


 随分と便利な能力だな。でもまぁ、それなら大丈夫か。

 と、思ったものの一抹の不安が拭えぬまま、車は走り出した。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ