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不良の王

「僕はこんな一年坊主と話に来たわけじゃない。高みの見物してないでとっとと降りてこいよ、三年坊主。再教育してやる」


 すると、勝手に働く聴覚自動調整機能が三階の突き破られた窓ガラスの近くにいるであろう、その三年坊主の声を捉えた。


「ちっ、誰だ触らぬ神に祟りなしとか言い出したやつは。触れなくても祟られたじゃねぇか」


 面倒くさそうに彼は呟く。だが、その声は何故か少し嬉しそうな、好奇を孕んでいるように感じた。

 それをおそらく聞いていたであろうナカケンさんは珍しく目をギラつかせてサッカーボールを蹴りこんだ三階を睨むと突然、飛び上がる。


「遅せぇ。とっとと降りてこい」


 三階に着地したナカケンさんは挑発するようなやたらと怒気を感じさせる声音で話す。なんでナカケンさんあんなに怒っているんだ?

 

「俺らも追いましょう!」


 そう警視長さんが言うと我々は一斉に走り出した。私も心葉ちゃんの手を引きながら後を追いかける。

 校舎をぐるりと反対側まで周り、玄関から入ると横の階段を駆け上がる。

 会った時も思ったけど心葉ちゃん10歳のくせにやたらと足速い! 今や心葉ちゃんに私が手を引かれている始末。前を走る体育会系男子共に負けるのは分かるんだが10歳にも負けるなんて私どんだけ運動音痴なんだ……。高校の時はそんなこと無かったと思ったんだけどなぁ。

 これじゃあむしろ心葉ちゃんが転びそうだ。私は自分の不甲斐なさを悔やみつつ、仕方なく心葉ちゃんの手を離した。


「ハァハァハァ」


 階段ダッシュなんて体育会系の男子高校生だけがやればいい……。なんで花の女子大生がやらなきゃいけないのか。

 私は随分遅れて三階に辿り着くと最後の力を振り絞ってナカケンさん達がいるであろう部屋に急行した。

 そこにはなんだか緊迫した雰囲気が広がっていた。


「だから、何度説明すればいいんですかね? 確かにあんた達のテリトリーをそいつらは荒らしたんだろうが別に俺には関係ない話だし、責任求めるのも疑いかけるのもおかしな話でしょ?」


「だから、僕らも何度も説明してるだろう。お前はあいつらの王なんだからお前が責任取るのは普通だし、それにお前が指示してあそこで暴れさせたかもしれない」


 すると、痺れを切らしたのか、単に気が短いのか。どちらかは判別がつかないが拓磨がこめかみに青筋を立てて前に出る。


「こいつらみたいな不良に何言っても無駄だ。実力を見せつけないと言うことなんて聞かねぇよ」


 そう言って指をボキボキ鳴らしながら不良のリーダーの胸ぐらを掴む。


「へぇ、お前が俺に喧嘩売るの? もっと強いやついるだろ?」


「てめぇくらいなら俺で十分だ」


「へぇー……」


 その途端、拓磨を見る目が変わった。明らかに敵意だ。だが、その視線を向けられている拓磨も敵意の視線を向けているためおあいこだ。これが俗に言うガンを飛ばすと言うやつか……。

 そして、彼はため息をつくと驚くほど自然に、なんの前触れもなく、拓磨に拳を突き出す。

 それに反応した拓磨は持っていた胸ぐらの手を緩めた。すると不意打ちでその手の肘めがけて掌の腱鞘を下から上に逆間接が決まるように突き上げる。


「ッ!?」


 流石の拓磨もそれにはたまらず手を解き、逆に拓磨が逃げる。


「なんなんですか、あの人!? 油断していたとはいえ自衛隊員の拓磨を格闘で優勢を取るなんて」


 すると、警視長さんが相変わらずの丁寧な口調で丁寧に説明してくれた。


「あの生徒はこの坂織宮高校の三将の一人にして実質のトップに立っている男。先崎せんざき龍聖りゅうせい君だ」


「ん? なんですか三将って?」


「ああ、三将って言うのはこの高校の伝統でね。各学年に三人の有力な指導者となる生徒を置く風習のことだよ。そして、その中から実質的なリーダーが選ばれるんだ。まぁあくまで生徒間でやってる伝統だから強制力はないんだが、生徒会長もその中から選ばれることが多い。教師も理解してる。かれこれ100年、いやそれ以上続いてる伝統だから理解せざるを得ないんだけどね」


「ってことはまさかあの人も……?」


「ああ、今の生徒会長。そして、ここは部活棟の生徒会室さ」


「でも不良なんですよね?」


「ああ。だが、成績も優秀、カリスマ性もあって喧嘩もかなり強い。言わばこの坂織宮高校のリーダーとしての素質を全て備えている人間だ。かなり博識で知恵があるから選ばれて当然だよ。おかげで僕も宮高生検挙するのが大変なんだ」


 警視長さんは笑いながら教えてくれた。けど、あんた方としては笑い事じゃないだろ。不良の行動も高度になってきたってことだぞ。

 一方、拓磨はそんな不良のリーダー先崎龍聖に攻撃をことごとくいなされている。

 軽やかに相手の裏に入り込むように躱している。彼のその動きは軽く達人の域だ。


「はぁ……」


 先崎はつまんなそうなため息を吐きながら拓磨の手を払い、大して早くもないアッパーパンチを放つと拓磨はやたらと大袈裟に仰け反って避けた。

 それからは攻守逆転だ。拓磨が一方的に攻められて、どんどん後ろに下がっていく。そして、ガラスの破られた窓まで追い詰められる。


「終わりだ」


 先崎がそう言った時、その手の竜崎さんが受け止め、背後からマスターが頭を掴む。


「あんた達、邪魔すんのかよ」


「当たり前だ」


「それ以上されたら部下が殺されちまうからね」


 見れば仰け反った拓磨があと少し深く後ろに倒れたら窓から落ちていてもおかしくないような体勢だった。

 なんなんだこの先崎龍聖と言う男は……。相手は自衛官だぞ? 格闘術やらは習っているはず。こんな不良なんかに負けちゃダメなはずだ。

 すると、先崎はマスターに操られ、窓から離れると不敵な笑みを浮かべながら拓磨に言い放つ。


「お前、ろくに戦ったことないくせによくもまぁ喧嘩で全て決める世界に身を置いてる俺に喧嘩売れたな?」


「戦闘訓練なら数多と積んできた──」


「そうじゃない。そんな死んでる戦いはある程度行ったら無意味だ。実践で何をしてくるか。それはルールのない戦闘においては予測できないことだ。自分の戦い方を定めつつも臨機応変に対応しなければ勝てない。ここにいるお前の上司や警視長様、そしてバケモノ二人はそれができる、俺以上にな。だが、お前はそれができない」


 臨機応変。それは今の拓磨の最大の課題だったのだろう。彼は先崎を直視するのをやめた。


「要するに実戦経験が圧倒的に少ない雑魚だと言っている」


 その瞬間、彼の歪む顔がみえた。

 そして、静寂が生まれる。かろうじて動いている時計の針がカチカチと虚無な時を刻む。


「……シラケたな」


 先崎はそう言うと自分の椅子へ戻った。


「じゃあわかった。その二人ってのは俺が後でシバいときますよ。後で謝罪と一緒に迷惑料も払わせに行かせます。今回はこれで手打ちってことでいいですかね、ナカケンさん?」


「ああ、それでいい。よろしく頼む」


「まぁ、あんたに目をつけられたら流石に俺も命が無いので」


 彼はそう言いつつ、また笑っていた。



       ×  ×  ×



 その後、拓磨やマスター達と別れ、心葉ちゃんを挟み、三人でナカケンさんの家まで帰る。

 ナカケンさんはさっきまでやたら怒っていたのにも関わらず、今は心葉ちゃんのほっぺたを指でつつきながらニヤニヤと笑っていた。


「それにしてもナカケンさんがあの程度のことで怒りすぎなんじゃありませんか? 先崎って人は不良のトップなんでしょうけど別にあの人自身が何をしたってわけじゃないんですから」


「あー、だよねー。あれは自分でもオーバーリアクションだったかなーって思うよ」


 ナカケンさんは少し反省するように頷いた。


「……ん? ちょっと待ってください。リアクションってどういうことですか?」


「え? お嬢ちゃん、気付いてなかったの? あれは演技だよ?」


「ふぇ?」


 なぜ? なんのために? 何を思ってやったの?


「あれは兄ちゃんをやる気にさせるための演技。最近の兄ちゃんは自分じゃ気づいてないようだったけど僕や竜崎あいつが相手だと負けるのが当たり前だと思うのか諦めが早くなっちゃってたんだ。要するに負け慣れちゃってたんだよね。だからなんか理由つけて兄ちゃんより強くて立場が下のやつを闘わせて悔しがってもらおうって策略したんだよ。そこで白羽の矢が立ったのが先崎だったってこと」


 まて、ナカケンさんがそんな頭いい考え出来るの? そんな他人の分析なんて出来るのか!?


「だから、あの不良も先崎も仕掛け人だから問題ないんだよ。まぁ、お嬢ちゃんをダシに使ったんだからどっちにせよ兄ちゃんに怒られそうだけどね」


 他人事みたいに……。

 だけど、演技でよかった。こんなことしてたらまた、変な人に喧嘩売られてアニメ戦闘をリアルで繰り広げられるところだったぜ

 ──って思ってしまった。これはフラグだろうか?


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