フェイマスなラビリンスのトュルー
「それじゃあお嬢ちゃん、おチビちゃん。次はどこ行こうか?」
「おねぇちゃん、どこいく?」
oh......驚くくらい二人とも興奮してるよ……。いつの間にやら風船もらってるし……。
「私はなんでもいいですよ。それより二人は何に乗りたいんですか?」
「僕も何に乗ってもいいよ。おチビちゃんの意見を優先しよう」
「じゃーねー、『脱出不可能!?フェイマスラビリンス』」
なんだフェイマスラビリンスって。大抵迷宮は有名なものだし、無理やりフェイマスを名前に入れるな。
私は遊園地という楽しむべき場所で文句を並べていた。もちろん口には出さない。空気の読めない奴にはなりたくないので。
だから、二人はそんな私の心情など知る由もなく早速目的地へ向け、歩き出した。
私も駆け足で追いかけた。
するとナカケンさんが少し歩速を緩めて横に並ぶと私に耳打ちをしてきた。
「お嬢ちゃん、フェイマスラビリンスってどんなところだい?」
「私もよく知っているわけじゃないですけどさっき乗った『フェイマスマウンテン』と並びこのテーマパークの中でも一二を争う人気アトラクションだとか。なんでも迷宮に難易度があって最高難易度は大人でも解くのが大変なほど難解な迷路だそうですよ」
「ほへー、そりゃ楽しみだ」
そう言って歩いているとナカケンさんは歩きながら視界の端に映ったピエロを目で追う。そして、首まで動かしながら追い出した。
「どうかしたんですか?」
私が尋ねても返答がない。ホントにどうしたんだ?
「……ん、いや、なんでもない。」
× × ×
やがて我々はパークの東エリアにある例のフェイマスラビリンスに着いた。
フェイマスラビリンスは石造りの簡素なまさにダンジョンの入口のような好奇心そそられる入口だった。我々はランタンを渡されると列に並ぶ。
「そう言えばおチビちゃんは前に遊園地とか来たことあるかい?」
「パパとママときたことある」
「じゃあオジサンより遊園地に詳しいかもしれないね」
そんな会話を聞きつつ、私は一人また一人とダンジョンの闇に消えていく人を眺めていた。
すると20分程度経った。心葉ちゃんとナカケンさんが待つのに飽きて小さな文句を言い始めた時、ついに私たちの順番がやってきた。
「お待たせしました。フェイマスラビリンスへようこそ! ここはとっても不思議な迷宮。ここに入ったが最後。ここから抜け出すことが出来るのは極わずかな選ばれし勇者のみと言われています。あなたはここから脱出する自信がありますか?」
まさに遊園地、みたいな説明を受け、共に場を盛り上げる謎の問いかけが飛んできた。
我々は各々の答えを同時に口にする。
「もちろん!」
「うん!」
「まぁ並んでやらない訳にはいかないからね」
こんな全く揃わない返答でも案内のお姉さんは笑顔で話を続けた。
「では難易度を選びましょう! EASY、NORMAL、HARDの3種類から選べます。あなたは堅実に行きますか? それともより厳しく激しい大冒険を選びますか?」
まぁここは初めて来るし心葉ちゃんもいるから無難にノーマルを──
「ハード!」
「ハードでお願いします!」
そう言ったのは興奮気味の幼女とオッサンだった。
「HARDはかなり難しいですよ? それでも挑みますか?」
「「はい!」」
間髪入れずに二人は元気に返事する。
言い出すことも出来なかった……。
「では勇気ある方々、この最難の迷宮から無事脱出出来ることを祈ります。いってらっしゃ~い!」
そう言って笑顔の圧力で私達を迷宮の奥へ追いやる。
ここの最強の敵はこの人なのではないだろうか?
私達はランタンの光を頼りに真っ暗な迷宮を進む。
私達の目にはランタンの照らす数メートル先の様子しか見えず、暗闇の恐怖というものを感じずにはいられなかった。まぁやろうと思えば暗視モードに切り替えてもう少し遠くを見ることが出来るのだが、そんな野暮なことはしない。
道は右へ曲がり、左へ曲がり、幾つもの分かれ道が現れる。
そして、四度目の時だろうか。事件は起きた。
ガタン。
地を擦るような音と共に重々しくぶつかる音がした。
なんだこのダンジョンの隠し扉のボタン押した時のような音は?
だが、答えはその逆だったようだ。
私が振り向くとあったはずの道が石造りの壁となっていた。
……そういうことか。
今まで最難と言われている割に随分と簡単だと思っていたが、このモードだと道ごと変えるのか!
……というかちょっと待て。
この事実も大切だが振り向いた時に一番後ろにいるはずのナカケンさんがいない。
まさかあのオッサン、またショッピングモールの時みたいに興奮してどっか別の道行ったんじゃないだろうな!?
すると心葉ちゃんが私の袖を引く。
「おねぇちゃん。オジサンいない」
うん、お姉ちゃんも今気づいた……。
ただでさえ恐怖に耐えながら気張って前を進んでいたというのにこんなことがあっては流石に平生を保っていられない。
最近、夜中にショッキングなことが多すぎて暗闇恐怖症になりかけているんだよ。さっきから歩いてるところはどこも同じに見えるし。だけどまぁこれは今までのような戦闘じゃないし、ナカケンさんも一人で出口を見つけるだろう。そもそも本当に出られなかったら壁突き破って出てくればいいんだし。
そう自分に言い聞かせて再び歩みを進める。
それから20分。
私と心葉ちゃんは未だにゴール出来ていない。右往左往、行ったり来たりを繰り返し、何度も模索するもののゴールできない。
この迷路、ちゃんとゴール出来るんだろうか?
そんな疑問が頭をよぎる。まぁゴールしている人がほとんどなんだからいずれはゴールできるんだろうけど、心葉ちゃんがちょっと飽きてきているしそろそろ出たいところだ。
そう思った時、どこからか隕石でも落ちたかのような轟音が響いた。
まさかホントにナカケンさんがウザったらしくなって壁でもぶち抜いたんじゃないだろうな?
損害賠償は決して私は払いませんし、そのせいで借金しても貸しませんから!
そんなことを思ってる内に私は一つ疑問が生まれた。
……壁……壁……壁。
壁といえば、あの壁が動いた時、あれから何度もあったが本来なら感じるはずの地面の振動。あれが今まで全くなかったように思う。それになんだかどこの壁も傷つき方に変化がないようにも思える。どこか平凡で凡百でまるでコピーアンドペーストを繰り返したような贋物的な印象がある。
でも、もしかしたら揺れが小さいように精密な設計がされたのかもしれないし、印象なんてものは一個人の感覚でしかない。そもそもこの壁はより本物らしく造られたアミューズメントパークの石壁なのだから、型どられたものなのだから、贋物的であるべきものだ。
だが、確かめなければ気が済まないのが科学者の性。「科学者は常識を疑え」でしたよね、瀬尾教授!
私は壁に手を押し当てた。
うん、押してる感覚もざらついた感触もある。
私は一旦やめると次に飽き飽きしている心葉ちゃんに話しかけた。
「心葉ちゃん、ちょっとだけこの風船借りてもいいかな?」
「うん、いいよー」
そう言って心葉ちゃんの承諾を得ると私は風船を掴み、石壁へ押し当てた。すると、風船は石壁に埋まっていった。
その光景に心葉ちゃんは意外にも楽しそうな表情を見せる。
てっきり風船が壊れたと思って泣くか怒ると思っていたのだが。
「ありがと」
私は風船を返す。すると心葉ちゃんも私の真似をして壁に風船を押し当てて遊んでいる。
よし、これで根拠は出来た。あとは実行に移すのみだ。
私は脳内からインターネットに接続。ここのローカルネットワークに接続をはかる。
……思ったよりここのセキュリティはザルだな。フェイマスと言うことしか能がないの?
そうして侵入すると管理者権限も奪い、案の定かかっていたMR機能を私と心葉ちゃんの二人だけオフにした。
すると、世界が一変する。
石の壁は消え、真っ白な世界が広がる。そして、その中を数多の人間がキョロキョロしながらぶつかりもせず歩いていた。
こんなに人がいたの……。
驚愕である。まるで操られているように何も無い白い部屋を徘徊する人々。何よりその中の一人だったということが怖い。
私は人とぶつからないように隙間を縫って進む。心葉ちゃんの手を引きながら小走りで白い壁に四方を囲まれた中で一つ空いた出口を目指した。
そして、太陽の光を再び目にした時、共に私は一人のピエロを目にした。
「Congratulations!」




