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彼の瞳に映るもの

 煌々と輝く街を見下ろしてオッサンと美少女は空を舞う。

 そして、二人と対峙するは無数の飛行ロボット。それらはミサイルをこちらに向けて待ち構えている。

 ナカケンさんはニヤリと笑うと真っ直ぐ見定め、空中で前傾姿勢を取った。

 すると前方のロボットが一機、ミサイルをこちらへ向けて発射してくる。

 その瞬間、すごい風と轟音が私の正面からやってきた。

 後方で爆発音がする。

 振り向くとミサイルとロボットがそれぞれ一つずつ爆発していた。


「よっしゃ、一機撃破!」


 横のナカケンさんはゲームでもしているかのように無邪気に喜ぶ。

 一体何があったの!?

 私が戸惑っているとナカケンさんはこちらに笑顔を振り撒きながら言った。


「お嬢ちゃん、どうだった? 超音速の世界は」


 は? 確かに速かったけど今のって超音速だったの!? それなら確実に私死んでるじゃん! ……いや、よくよく考えてみればその前から雲の上へ行ったと思ったら突然地上に戻ってきたり、また戻ってきたり、こんなことしてたらもう死んでてもおかしくない。

 ……もしかして、ここまで何ともないのはナカケンさんの能力の影響? 今まで勝手な先入観でナカケンさんの能力はヒロアカのオールマイトみたいな自分にのみ効力のある能力かと思っていたけれど他人にも分け与えられるのか? でもそれならわざわざ私を上へ放ったり、ゆっくり降りる必要は無い。それに単純な肉体強化だけでは空中で方向転換したり、物体を粉微塵にするなんてことはできない。

 一体なんなんだこの人の能力は?


 疑問に疑問を重ねているとナカケンさんが不思議そうな顔でこちらを見つめる。


「どうしたんだい、お嬢ちゃん? そんな難しそうな顔をして」


「いえ、何でもないです!」


「もしかして速すぎて驚いちゃった?」


 まぁそうなんだけどたぶんナカケンさんの言っている驚くと私のそれとは意味が多少違うと思う。


「でも驚いてるのはお嬢ちゃんだけじゃなくて敵さんも同じようだねぇ」


 ナカケンさんがそう言うとようやくロボット達は散開しつつ、銃口をこちらへ向けた。


「君らも僕がお嬢ちゃんと一緒にいるからって動くとは思わなかったのかな?」


 当たり前だが戦闘用のロボットだ。答えはしない。理解しているのかすらわからない。しかし、ナカケンさんは言葉を続ける。


「──甘いんだよ。自分達は色々してくるくせに随分と常識に縛られているんだなぁ。あらゆる常識を疑わなければいけないよ。科学の粋を集めて生まれたものとは思えないな」


 ナカケンさんはまるであの人のようなことを言う。少しだけ冷たい声で彼は言い放った。

 しかし、ロボット達は動かない。こちらに銃口を向けたまましばらく止まっていた。


「……送信でもしてるのか」


 どこへだろうか? 警視庁さん? 警察署? あるいはそれ以外のどこかかもしれない。送信先は定かではないが情報社会のこの時代、状況が不利になったのは確かだ。


「送信だけならそんなに時間かからないと思うのに何やら時間かかってるね。蒼のおかげかな? まぁ何にせよ今のうちにトンズラするか」


「なんでマス──!」


 私が尋ねる間もなくナカケンさんはロボットの群れの中を横一直線に突き抜ける。先程のような超音速ではないがかなりのスピードで飛んでいた。

 すると後方からロボット達が追いかけてくる。

 

「ナカケンさん来てます! 今度は一発二発じゃ済まないかもしれないですよ!?」


「そんなこと分かってるよ。今度は一斉射撃だろうなぁ」


「ならもっと速く!」


「いやー、俺にもいろいろ事情があってね。そういう訳にはいかないんだよ」


「なんですかそれ! どうするんですか!?」


「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。いいから見てな」


 そう言い終えた時、ついにロボット全機はミサイルを発射した。

 その瞬間、ナカケンさんは一瞬だけ加速するが、すぐにクルクルと旋回した。

 すると、手前のミサイルがナカケンさんの急な旋回に対応出来なかったのか少し曲がるもその後は真っ直ぐに飛んでいき、対象を見失ったそれは爆発した。


「見たかお嬢ちゃん! これが戦闘機ゲームで身につけたミサイル回避術だ!」


 知識の根源そこなのね。歴戦の経験則じゃないのね。

 ナカケンさんは同じ要領で次々に超音速で飛んでくるミサイルを躱し続ける。

 しかし、ロボット達もそれを見過ごしてはくれない。彼らは武装を機関銃に切り替えるとナカケンさんの進行方向を予測して撃ち込んできた。


「おっとっと! なら下に降りるしかないな」


 そうして私達は再び急降下する。

 この人さっきから上に行ったり下に行ったり激しすぎるよ! 平衡感覚調節があるおかげで酔うことはないがそれでもやめて欲しい。

 するとあっという間に下には街が広がる。この人、私が『思いっきり』とか言ったもんだからもう配慮とか忘れて全力で取り組んじゃってるよ……。


「でもナカケンさん、下には街の人達が!」


「大丈夫だよ。俺の予想が正しければ街に一般人は誰もいない」


 何を根拠に言っているんだか分からないがナカケンさんは断言した。

 見る見るうちに地面は近づいてくる。だが、その地面にはナカケンさんの言った通り一般人は誰もいない。その代わり百を超える警察官が待ち構えていた。


「ナカケンさん、警官が!」


「はいよ!」


 ナカケンさんは突っ込むと地面スレスレで直角に曲がり、滑るように通り過ぎる。警官達はナカケンさんの起こす風圧に押されてよろけると思わず握っていた銃を下ろす。

 ロボットは私達の通った後を追うようにして弾痕を残していく。

 しつこいがこれならば相手が後手に回る。当てられることはないだろう。

 と、思っていたのだがロボットも甘くない。私たちの後方へつけると地面と平行に撃ち込んできた。


「ナカケンさん!」


「ちっ!」


 するとナカケンさんは近くの駐停車禁止の道路標識の鉄柱を掴むとそのまま引っこ抜いた。

 マイクロチップが教えてくれるからもうほとんど見てる人なんていないだろうけど道路標識引っこ抜くなよ……。

 ナカケンさんはその鉄柱の中央を握ると片手で高速回転させ始めた。それはことごとく弾丸を弾く。

 これ、アニメやマンガでよく見る技だけどほんとに出来るんだ……。


「バカスカ撃ってきやがって。考え無しに打つと弾切れ起こすぞ?」


 ナカケンさんはそう言うが本当に考え無しなのだろうか? 確かに物凄い量の弾丸がこちらに撃たれているがそれは魚鱗の陣の如く構えているロボットの軍団の先頭の5機ほどで他は撃っている様子はない。

 それにそもそもこの道路という限られた範囲を全部の機体が通ってきているのだろうか? 広がれる範囲が狭まっているため隙間が見られない。そのため減ったという感覚はないが全機が撃てもしないのに後ろを付いて来ているとは考えにくい。

 ならば、他はどこへ行ったのだろうか? 先程のやたらと数撃ってくることと合わせて考えると──シンプルに奇襲のために私達の背後に来るのではないか?

 私は振り向いた。


「ナカケンさん、後ろです!」


 合わせるように奇襲隊も撃ってくる。

 ナカケンさんは真横へ避けるとそのままビルの外壁を駆け上がる。

 ビルのガラスが割れ、私とナカケンさん、そしてロボット達の姿が無数に反射する。そのガラス片の1つをナカケンさんは鉄柱で上空へ向けて弾く。

 ナカケンさんはビルの頂上まで登ると屋上に足を掛け、跳び上がった。


「そこにいるのはわかってるよ!」


 そう言うと握っていた鉄柱を槍のごとく放った。するとロボット一機を貫く。

 屋上に待ち構えていたのは8機。残り7機だ。ナカケンさんは屋上を走り抜けると大きく跳び上がり、足を前に突き出す。そして、ライダーキックのごとくロボットを蹴り倒すと落ちかけている鉄柱の端を掴む。そのままロボット3機を巻き込みながら横に振り払った。


「3機残したか」


 ナカケンさんは再び鉄柱を回し、弾丸を弾きながら下を確認する。


「げっ、警察いるじゃねぇか!」


 警官達もナカケンさんの背後目掛けて撃ってきた。


「どいつもこいつもどんだけ俺を殺したいんだ!」


 ナカケンさんは空を蹴り、左右に振りながら躱して地面に降りる。そして、空に投擲し、連なるロボット3機をいっぺんに仕留めた。

 だが、油断もしていられない。今度は前から発砲音が聞こえる。


「亜蓮、恨むなよ!」


 ナカケンさんはそう言うと大きく踏み込み地面を蹴り、一気に警官隊との間合いを詰めた。

 その瞬間、あまりのスピードに警官達は仰け反る。その空いた顎を右手で突き上げ、私をお姫様抱っこに持ち直すと警官達の小手を目掛けて連続で蹴り、銃を次々と落とす。

 そして、また私を左腕に乗せると空から落ちてくる鉄柱を握ると棒高跳びの要領で跳び上がった。その間にも警官達は拳銃でこちらを撃ってくる。ナカケンさんはそれを足で受け止め、鉄柱が地面から離れると今度はそれに当てて躱した。警官隊の後ろを取り、手前二人の後頭部を道路標識の鉄板の部分で殴る。すると、今度は上空からロボット達が追いついてきた。


「もう来たか!」


 ナカケンさんは背中を向け、駆け出すとビルの隙間を縫うように進んだ。

 後ろからは弾丸が変わらず飛んでくる。それをナカケンさんは時折、鉄柱に当てて躱す。

 弾丸が私達に追いつくほどだ。私には速く見えるとはいえナカケンさんからすればそう速くないスピードで敵を誘い込んだ。


「ナカケンさん、一体どこへ行っているんです?」


「見てれば分かるよ」


 彼がそう言うと通りに出る。そこを右へ曲がると目の前にはトンネルがあった。

 私達はそこへ入る。中は薄暗く、淡いオレンジの光のおかげで何とか見えている程度だ。でもまぁ、そのうち視覚調節機能が勝手に見えるように合わせてくれるだろうけれど。

 そして、トンネルの奥へ進むとナカケンさんは歩道に私を降ろした。

 

「お嬢ちゃんはここで待っててくれ。すぐに片付ける」


 そう言うとロボット達もトンネルの中に入ってきた。

 それを見定めると彼は射線を外すように横へずれて壁を走り、あっという間にロボット達に近づいた。トンネルの上まで駆け上がると壁から飛び降り、二体のロボットの胴を貫きながら鉄柱を地面に突き立てた。だが、四方から弾丸が襲う。

 その瞬間、彼は叫んだ。


「潰れろ!」


 すると、周囲の物体はロボットも弾丸も全て、その場で地面に落ちる。メキメキと音をさせながら壊れていく。目に見えないなにかに潰されていく。

 その時、私は辿り着いた。今までのナカケンさんの能力による現象に共通する一つの言葉に。

 でも、マンガじゃアニメじゃあるまいし、一つの能力が全て一つの言葉に起因するなんてことあるのか? それにこの言葉に集約されているとはいえ、物理学的な話をすれば全く違う観点なわけだし……。

 私が考え込んでいるとナカケンさんがこちらを睨む。それはあの公園で最初にロボットとの戦いを見た時のような鋭く殺気立った視線だった。

 私はそれを見た時、背中に寒気が走り、心臓を握られたような感覚に襲われた。思わず、死を覚悟した。

 すると突然、ナカケンさんはこちらに向かって鉄柱を横に回転させながら投げ飛ばしてきた。

 反射的に頭を伏せると後ろから爆発音が聞こえる。


「え?」


 振り向くと鉄柱が何体ものロボットを巻き込みながら飛んでいった。

 ナカケンさんは鉄柱を追うように走ると私に歩み寄る。


「悪い、怪我はなかったか?」


 相変わらずの鋭い瞳のままで敵を見定めながら言った。


「……大丈夫です」


「そうか。なら良かった」


 ナカケンさんはそう言うと残った敵を倒すべく跳び上がる。

 彼の戦闘は完璧だった。

 流石というべきか、当たり前というべきか、現代科学の武力にもたった一人で立ち向かい。何者も寄せ付けない。

 英雄の名を冠するに相応しい戦いぶりだ。

 しかし、しかしである。

 一人で戦っている時のナカケンさんは一人の世界にいるかのような感覚を受ける。

 先程も私に声をかけてきたものの、その視線の先には自らの敵しかおらず、それしか見えていない。

 そこに僅かな危うさと私と彼との距離を感じる。


 気づくといつの間にかロボットだけでなく警察官も追いつき、戦闘に参加していた。

 だが、ナカケンさんは器用に全ての弾丸を躱しつつ、ロボットを一体、また一体と倒していく。

 そして、残り数体となった。

 ナカケンさんは空中でさらに跳び上がると一体のロボットの上に乗る。

 間髪入れずに警察官が下から彼の乗っているロボットを撃ち落とした。

 ナカケンさんはその瞬間に他に向かって飛びかかる。

 しかしその時、彼の眼前を弾丸が通り過ぎた。どこからだろうか。少なくともここ周辺にいる人間の仕業ではない。

 そのせいでナカケンさんは背中を少し反った。すると、またしてもナカケンさんの顔と胸元をを弾丸が掠める。

 続いて足をすくうようにふくらはぎに向かって弾丸は飛んできた。

 この四発の弾丸のせいで彼はバランスを崩す。

 さらに上から残ったロボットが弾丸を撃ち込む。それを全弾喰らいながら地面へ落ちていった。


「クソッ──!」


 ナカケンさんが起き上がろうとした時、銃口がそれを阻止した。

 地上で待ち構えていた警察官に取り囲まれたのだ。

 流石にこれはナカケンさんもやばいんじゃ!?


「ナカケンさん──!?」


 声をかけたものの返事はない。

 だが、代わりに一つの呟きが聞こえた。騒がしい中にいるにも関わらずハッキリと彼の声だけ聞こえた。


「──仕方ないな」


 呟いた途端、その場に静寂が広がった。

 誰一人話さない。誰一人動かない。

 ロボットはその場で爆発した。

 その奇妙な世界でナカケンさんはムクリと起き上がった。

 彼にはロボットの鉄片と火の粉が降り注ぐ。


「こんな感じでいいか」


 そう言うと警察官は突然動き出す。しかし、同時に倒れ込んだ。その場で足を抱えて絶句していた。

 そして、ナカケンさんはこちらを振り向く。


「それじゃあ帰ろうか、お嬢ちゃん」


 その時の笑顔はいつもの笑顔だった。




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