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英雄の風にあてられて

「おチビちゃん、あれはね──ロボットって言うんだよ」


 ナカケンさんはそう言うと前方から何やら白い煙と共に火花が見えた。

 

「ウソだろ!? いくら上空だからってこんな街の真上でミサイル撃ってくるか!? しかも距離なんてほとんどないのに!」


 気づけば彼は私達の他にもうひとつ何やら小脇に抱えていた。


「ナカケンさん、それって……」


「ああ、さっきのミサイル。でも大丈夫だよ。爆発しないから」


 現代の科学ではミサイルの小型化もかなり進み、基本的に全てが超音速だ。それでなくとも亜音速には絶対にたどり着く。そして、我々から飛行機までは長く見積もっても1km。どう考えても1秒も満たないスピードで飛んできているはずだ。だが、目の前にいる英雄は爆発もさせずに持っている。相変わらず常識の通用しない人だ。


 するとナカケンさんはそのミサイルを飛行機の方へ向け、片手で構えると、人差し指でミサイルのおしりを押した。

 それを視認した途端、前方から爆発音が聞こえる。


「よし、一機撃破!」


 もしかして、さっきのミサイルが飛行機に当たったの? というかそれしか考えられない。

 あー物騒だ。何が物騒って私が視認できない高速戦闘が行われている事実が物騒だ。

 というかこれって警察署がナカケンさん追跡するために飛ばしている飛行機だよね? 過激すぎない? 本気すぎない? てかそもそも警察がこんな物騒なもの使用できるの?

 私を新たな疑問が襲っているとナカケンさんが一言言った。


「二人ともちょっと下に降りるよ」


 すると、私達が了承の言葉を言う前に一気に視界が白くなった。そう思うとまたしても黒一色に戻る。

 これって急降下してるってこと?

 足の裏から風を感じる。完全なる垂直落下であった。

 ちょっと待ってこれも初体験! こんな突発的に始めないで! 心の準備をさせて!

 そして、下を見るとすぐにビル群が視界一面にビル群が広がっている。

 まさかこのスピードでこのコンクリートジャングルに突っ込むの!? それに今の肩に乗ってる状態じゃいつもみたいに上に放りあげられないじゃん! 私は何回こんな日常生活じゃありえない状況を体験して、何回死を覚悟すればいいの!?

 そして、とあるビルの屋上に向かってまっさかさまに落ちてdesire(デザイア)。ちなみに私の欲望は「生きて帰りたい」です。

 そんなとある特攻隊員の口癖みたいなことを思っていると地面はすぐそこだ。

 私が身構えた時、速度は緩やかに落ちていき、やがて落下は止まった。


「さて、ついたよ」


 ナカケンさんがそう言うと心葉ちゃんは黙ってナカケンさんの体から降りた。


「あ、心葉ちゃんどっか行っちゃわない!」


「まぁ子供なんてあんなものだよ。お嬢ちゃんならGPSで場所も分かるんだろう?」


「でも夜に子供一人で居させるなんて危険ですよ! 変な人がいるかもしれないし」


「大丈夫だよ。あの子は」


 何やら不思議な哀愁のようなものを漂わせてナカケンさんはそう言った。

 まぁ無理もない。ナカケンさんにとって心葉ちゃんは戦友の忘れ形見。そこになにか思うのは自然なことだ。

 私はナカケンさんがそう言う普段と違う態度を取るとむず痒く感じる。だからあえて話題を変えた。


「そんな無責任な……。というかナカケンさんゆっくり降りられたんですか!?」


 するとナカケンさんはコロッと表情を変えて言った。


「できるよ。でもこれやると疲れるんだよ。だから、お嬢ちゃん一人の時はしたくないんだよね」


 なんだその怠慢は。許さない!


「今後はこの降り方を徹底してください!」


「いやでも──」


「徹底してください!!」


「……はい」


 最近、ナカケンさんは私が二回言っただけで頷くようになった。成長したね、ナカケンさん。


「というかお嬢ちゃんもそろそろ降りてくれよ。僕もいい加減に重──!」


 私はナカケンさんの喉仏に親指を突き立てる。


「重くないですね?」


「……重くないです」


 恐る恐るナカケンさんの肩から降りていく。とは言えこの高さでもちょっとだけ怖い。結構高いし。だから私はナカケンさんにしがみつくようにしてズルズルと降りた。

 我ながら哀れだ。心葉ちゃんはシュタッとか音鳴らしながら飛び降りていったのに。

 私が下を見ながらゆっくりと足をつけているとナカケンさんはモジモジしながら躊躇い混じりに言った。


「お嬢ちゃん……。む、胸が当たってるんだけど……」


 なんだ、そんなことか。


「そんなことわかってますよ。すいませんね、心葉ちゃんみたいに降りられなくって。それともナカケンさん、照れてるんですか?」


 まぁ答えは知っているんだがあえて意地悪くそんな問いかけをしてみる。


「そんなことないし!」


「でもナカケンさん、拍動がすごい速いですよ?」


「そんなに聞こえる!?」


 わかりやすいな、当てずっぽうで言ったのに。

 その時だ。ナカケンさんは上空を睨みつけると私を再び抱きかかえ、大きく後方へ飛び退く。

 すると、発砲音の連続とともに私たちがいた場所に無数の弾痕が出来ていた。

 そう思うと今度はそこからこちらへ弾痕が向かってくる。

 

「ダメだな、こりゃ。お嬢ちゃんはもう少しだけ地に足をつけるのはお預けだ」


 そう言うと、またしてもナカケンさんは私をお姫様抱っこして一気に飛び上がった。

 おかしな話だけどやっぱりこれなら落ち着く。

 するとナカケンさんは突然、突拍子もない発言をしてきた。


「……お嬢ちゃんはギルクラは知っているかい?」


 なんだいきなり。このタイミングでアニメの雑談を始めようというのか?


「ええ、知ってますよ」


 だが、決して話を切らずに合わせてあげるのが正幸奈のいいところである。というかナカケンさんは話を切るといじけて話してくれなくなるからね。


「じゃあ集くんといのりちゃんみたいな感じで俺の左腕に座ってくれない?」


「へ?」



 まさかこの人はこの高さこのスピードで私に動けと言っているの?


「いや、僕も集くんみたいに抱き抱えられれば格好もつくってもんだけど現実にアレやるとお嬢ちゃんの脇が上がって相当辛いと思うから座ってほしいなぁと」


「そういう事じゃなくていつもみたいな感じじゃダメですか?」


「ああ、そういう事ね。今のままだと両手が塞がっているからこの数を相手するにはきついんだよ。だけど片手が開けばどうにかなる」


「このままだとどうなるんですか?」


「このままだと僕は大丈夫だけどお嬢ちゃんの身は保障しかねる」


 くっ、流石に命を引き合いに出されては断れない……。


「……わかりましたやりますよ!」


 私はビクビクしながら動き出す。

 怖い怖い怖い怖い!


「あのー、お嬢ちゃん?」


「なんですか!? 今はナカケンさんのくだらない話に付き合っているひまはないんですよ!」


「うぅ……。くだらないと思われていたのか」


 ナカケンさんをいじけさせてしまったが今はそれどころではない。

 私は左腕に乗ろうとまずは手だけ乗せた。


「いや、それよりお嬢ちゃん!」


「だからなんですか!?」


「そうやるよりも首に手を回して僕に寄りかかった方がいいと思うよ?」


 確かにそうだ。テンパってて全く思いつかなかった。

 私は言われるがまま首に手を回す。

 ……ちょっと待って。目の前にナカケンさんの顔があるんですけど。

 すると、ナカケンさんがこちらへ目をやってきた。

 私達は目が合う。

 そして、数秒見つめ合った。

 ……なんで私はオッサンと見つめ合わねばならんのじゃ。

 だが、ここで目を逸らしては負けたような気がするのでそのまま睨んでいると、ナカケンさんは目を逸らして伏せた。耳が赤い。また照れてるのか? このオッサンはよく紳士的な発言するくせにこういう時は本当に女性に弱いのな。なんと言うか女性に慣れていないのではない。形式ばったエスコートやらには照れはないのだが、不意の出来事に弱いと言った感じだ。面倒臭い性格だな。

 すると、スっと肩の力が抜ける。なんだかナカケンさんを見てると落ち着いてきた。私はナカケンさんに体重をかけながらお尻を彼の左腕の上にずらし、乗っかる。


「動きましたよ、ナカケンさん」


 私はあえてナカケンさんの耳元でそう呟く。


「……っ! そ、そうかい!」


 そうやって戸惑うナカケンさんになんだか安心を覚える。

 例えどんな逆境でも、例えどんな絶望の中でも彼は変わらない。どこまでも能天気で自由で気ままなナカケンさんだ。

 こうやって英雄は英雄たり得たのだろう。

 ならば後先考えず思うがまま、気の向くまま、歩み続ければきっと活路は拓けるはずだ。

 その時、ナカケンさんの吹かせる風にあてられたのか珍しく私は楽観的になった。


「それじゃあナカケンさん、思いっきり戦ってください」


「了解! それじゃ、反撃だ」

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