その日の夜空は殺伐と
琢磨は寝ていた。
まるで魂を抜かれたように、どっかの眠りの小五郎の如く、微動だにせず寝ていた。
その光景に呆気にとられていると琢磨と膝を突き合わせていた警察官がこちらへ振り向いた。
すると刹那、マスターさんが私達の前に躍り出て、今度は口を開くのすら許さずに頭を掴み、あっという間にその場を制圧した。
便利な力だ……。まぁギアスの方が使い易そうだけど。
……っと、そんなことを言っている場合ではない。
「兄ちゃん、大丈夫かい?」
ナカケンさんは真っ先に琢磨の方へ駆け寄り、起こそうと頬を叩く。
「起きろ、兄ちゃん!」
……心配するのはいいんだがさっきから叩きすぎではないだろうか? 連続で響くビンタの音が痛々しいんだけど……。琢磨の頬も赤くなってるし!
「ナカケンさん、無駄ですよ。おそらくそのままじゃあ一時間は起きません」
一時間も!?
「じゃあどうすれば!?」
私が必死に尋ねると鬱陶しそうに私から視線を外す。
「心配すんな。一時間ってのは放置した場合だ。強制的に眠らせた本人が解除すれば今すぐに元に戻る。……というかナカケンさんはここまで見越して俺をここに寄越したんじゃないんですか?」
「ん? ヤダなぁ~。僕がそんな頭が切れるタイプに見えるのかい?」
「どうなんだか」
何やら腹の探り合いみたいな会話を繰り広げているけれど、私は一言言いたかった。
とりあえず、起こそ?
× × ×
マスターさんが先程支配した琢磨の取り調べをしていた警察官を操り、解除させると数十秒で目を覚ました。
そして、私達はことの成り行きを大雑把に説明する。
「──つまり、あんたは幸奈と一緒に俺達を助けるためにここまで来たと」
「ああ、そういう事になるな」
なんだか少し似たような性格をしている二人が睨み合いながら対面している……。
だが、なんというかその様子を見ていると二人の違いが顕著に現れる。
琢磨は敵意丸出しで全力の威嚇の睨みなのだが、マスターさんの場合は何やら敵を嘲笑うような、睨みつけると言うより見下したような視線だった。
こう見るとマスターさんの性格えげつないな。普段から人間の心を読んでしまうとこうなっちゃうのかな?
するとマスターさんがこちらを見て微笑んだ。
やばい、読まれてる。笑顔が怖いよ……。
しばらくすると彼は私から視線を外す。
「さて、あとはこいつ操ってさっき取られたデータとこいつらの操られている間の記憶を削除してお終いだ」
はぁ、やっとおしまいか。いつまでもこんな犯罪紛いのことしているなんて心臓に悪い。早く御暇せねば。あとサラッと記憶消すとか怖いこと言うな。
「さてと、それじゃあ始めるか」
マスターさんは琢磨の取り調べをしていた警察官を睨むと彼は何やら瞑想を始めた。
「よし、これでデータの削除は完了。デジタルタトゥーってやつがあるから調べようとすればおそらくバレるだろうが誰も知らなければそんなことしようとするやつもいないし大丈夫だろう」
その後、彼はそれぞれの警察官を元の場所に戻すと去り際にそれぞれの頭を再び鷲掴みにして帰った。
睡眠状態にしたからおそらくこれもバレることはないだろうし、バレたとしても誰だかわからないだろうがそれでも少々不安である。罪悪感がどうしても拭えない。実に後ろめたい。
そして、マスターさん一の見せ場である能力を行使しているシーンがとっても絵にならない。悲しい気を起こさせるほど地味だ……。
とは言え、物事は万事上手くいっている。
私達は無事に玄関の扉を抜け、暗がりの空の下に戻ってきた。
気づけばもう八時。この時期でも流石に暗いか。
「それじゃあ、ここら辺で解散するか」
その時である。
私達の周囲からガチャと銃を構える音がした。ココ最近、何度も聞いた音だ。ここまで来ればそうそう間違えない。
私は横目で周囲を見る。すると案の定、左右背後から警察官が取り囲み、拳銃を構えていた。
「なんかバレちゃったみたいだし」