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超能力者の大胆潜入!

「彼の起こす説明のつかない現象。その理由は彼が超能力者だからだ」


 マスターさんはそう言った。

 真面目な顔で私にそう告げた。


「そして、彼だけでなく俺自身も同じ超能力者だ。まぁ、同じと言っても出来ることは違うけどな」


 ……何言ってんだこの人。そんなことありえるわけが無い。いくら何でもそれは無い。

 私は本能的に告げられた事実を否定する。

 そんな突拍子もない──……ことも無いな……。確かに今までの疑問と合致することはする。というかそのくらいぶっ飛んでて、不明瞭な答えでない限り説明が付かない。

 ……考えれば考えるほどその言葉しか選択肢がなくなってくる。今まで、数多くのナカケンさんの神業、普通ではありえない現象を目の当たりにしてきた。しかし、その度に「英雄だから」と考えもせず納得してきていた。いや、あえて考えることをしてこなかった。

 だが今、こう一つの答えを与えられてしまった。

 するとどうだろう。今までの疑問が全てこの一つの答えに集約されてくる。

 なぜ、四方から飛ぶ弾丸を触れもせず落とせたのか?

 なぜ、強靭なロボットのアームを蹴りで切り落とせたのか?

 なぜ、弾丸を容易に掴めたのか?

 なぜ、パワードスーツを着た拓磨に勝てたのか?

 なぜ、高周波ブレードに触れられたのか?

 なぜ、盾を一瞬で粉々に出来たのか?

 なぜ、ナカケンさんは英雄と呼ばれるほど活躍したのか?

 なぜ、世界から名前が公表されなかったのか?

 なぜ、その素性を隠すのか?


 ──超能力者だから。


 全てがこの一つの答えに帰結する。

 英雄だから出来たのではなく、出来たから英雄なのだ。人智を超えた事が出来たから英雄になり得たのだ。

 信じられない。しかし、最も納得のいく答えだった。


 マスターさんはチラと外を見る。すると車は止まり、ドアが勝手に開いた。

 どうやら警察署へ着いたようだ。

 マスターさんは先に降りると私に手を差し伸べる。


「それじゃあ行こうか」


 私はその手を取ると続いて車から降りた。


「それでどこから入るつもりですか?」


 流石にこれから容疑者を助けようとする人間が正面玄関から侵入する訳にはいかない。裏口やら秘密の経路やらがあるはずだ。

 すると、彼は指差した。


「ここだよ」


 私達の目の前にある正面玄関を指差した。そして、そそくさと入っていく。


「ちょっ!」


 ホントにここから入る気なの!? 自分のことも超能力者って言ってたからおそらくその力でどうにかするんだろうけど……。まさか実力行使で「死にたくなかったら場所を教えろ」とかやる気じゃないよね!?


 私は駆け足でその背中を追った。

 正面玄関の自動ドアを抜けると『受付』と書かれたところに彼はいた。そして何かを待っているようだった。

 ……もしかしてこの人もナカケンさんと同じく脳内マイクロチップ未使用者なのかな? そうだとしたらここで受付をすることは出来ない。


 最近の機械はほとんど脳内マイクロチップの使用を前提として作られているからな。今、使ってないという人がいるなら、体を傷つけたくないという人か、脳内マイクロチップの代金が惜しくて付けなかった超貧乏か、あるいは無戸籍で存在することを隠された人くらいのものだろう。

 このシステムが開発されてからというもの、大抵がこれに対応するようになり、使わざるを得ない状況となった。操作も直感的操作であるため、年齢を問わず扱えるし、再度手術をしなければいけないということもほとんどない。その上、いまじゃ10万円代のものが主流となっているため手が届かない代物ではない。

 そのため付けていないという人は99%居らず、製品の多くも未使用ということは想定していない。店にもおまけ程度に現金投入口があったり、係員呼び出しボタンがあったりするけれどそれを使用しているのを見たことがあるのはナカケンさんとショッピング行った時くらいのものだ。


「……マスターさん、まさかこの呼び出しボタン押しました?」


 すると、彼は横目で私を見るとニヤリと笑って答えた。


「押したけど?」


 やっぱりこの人もナカケンさんと同じだ! マイクロチップ未使用者だ! まぁ、世界から身を隠さなければならない超能力者という人種なんだから仕方ないといえば仕方ないけれど……。でもよくそんなんでカフェの店長できるな……。

 すると受付の奥から一人の女性がやってきた。


「……どういたしましたか?」


 慣れていないのか、少し戸惑い気味に彼女は尋ねてきた。

 マスターさんは笑顔で近づいてくる。イケメンが笑うとまぁ当たり前だが女性は喜ぶ、というかときめく。胸踊る。彼女も少し顔を綻ばせ、歩み寄る。

 しかし、その時だ。マスターさんは彼女の顔面を鷲掴みにした。

 ……う、嘘でしょ……。ひどいよこれは! お前は紳士のくせにレディーの扱い方というものを知らんのか!? いくらワイルド系イケメンドS紳士だからって……。

 ……長いな。言ってて息切れする。もう略して『ワイドS』とかでいいかな? ちょうど喫茶店だし。


 そして、例のワイドSは受付の女性から手を離す。


「あとはよろしく」


 そう言うと彼女の肩からは力が抜け、ガクリと俯いた。そして、前を向くと淡々と答える。


「はい」


 その声に覇気はなく、その目には何も映っていないかのようだった。

 彼女は踵を返すと歩き出した。



      ×  ×  ×


 

 その後、看守役の警察官に受け渡された。しかし、看守ももちろん抵抗してきた。だが、マスターさんは再び頭を掴み、看守を大人しくさせた。

 その時、当たり前だが『どうなっているんだ?』という疑問が浮かんだが今はそんなことを言っている暇は無かった。

 そして、私たちが通されたところは明らかに一般人が通されるようなところではなかった。鍵のかかった白塗りの内装の細い廊下を歩く。


「ワイドS……もとい、マスターさん。どこへ向かっているんですか?」


「ホントによくそんなあだ名思いつくね」


 バレてるし……。


「これから向かうのはもちろんあの人がいるところだよ」


 直接行くのか……。監視カメラやら警備ロボットやらもいるんだから多少警戒した方がいいと思うんだけど……。


「ああ、監視カメラは警備ロボットと連動している。つまり、警備ロボットは監視カメラから連絡を受けたメインコンピュータから連絡を受けて動くんだけど業務員が不審者の近くに認知しているのに連絡も送らず、そばに置いている場合は不審者ではなく来客扱いになるらしい。だから心配しなくていい」


「やたら詳しいですね」


「そりゃあ、ここの警視長様から聞いた話だからな」


 やっぱりあの人が情報源か。

 てかこの人、また私が口に出す前に答えなかったか? 知らぬ間に口に出してたのかな?

 そんなことを考えていると、突然案内してくれていた警察官が立ち止まる。


「こちらです」


 そう言って彼は扉を開けた。そして、その扉の先へ私も視線を向けるとそこには殺風景な何も無い部屋の中で何やらしょぼくれて今にも泣き出しそうなナカケンさんが座っていた。向かいには警察官が居り、何やら困ったような顔をして頭を掻いている。

 何やってんだこのおっさん達は……。

 すると、マスターさんは注目してくれと言わんばかりにトントンと開いている扉を叩いた。その音に反応してナカケンさんと取り調べをしていた警察官がこちらを振り向く。

 そして、「よっ」と小声で言いつつ小さく手を挙げ、言葉に対応する素振りを見せた。

 その途端、ナカケンさんには希望の笑みが浮かび、警察官のこめかみには青筋が浮かんだ。

 警察官は部屋を出てくるとドンドンと床を踏み鳴らしながら近づく。


「なんだ君らは!? 何をやっている? そもそも一体どうやってここへ来た? 誰の許可を持ってしてここへ来たんだ?」


 すると、又してもマスターさんは頭を鷲掴みにする。


「落ち着けオッサン。そんなにいっぺんに質問されても困る。それにあんたが知る必要は無い」


 しばらくすると、警察官は徐々に大人しくなり、やがてマスターさんが手を離してもその場で魂を抜かれたようにぼーっと突っ立っていた。


「マスターさんは一体何をしたんですか? さっきからそうでしたけどマスターさんが頭を掴んだ途端にみんなおとなしくなりますよね?」


「ああ、そう言えば言ってなかったな。これが俺の超能力者としての力だ。能力は相手の心を読み、相手の心を操る力だ。まぁ要するにマインドスキャンとマインドコントロールってことだな」


 なるほど、だから私が言わなくてもマスターさんは勝手に理解していたのか。『心を読んだように』ではなく、『心を読んだ』のか。


「なかなか怖い能力ですね……」


「ああ、確かにそうだな。他人の秘密もだいたい分かるし、他人を思いのままに操れる。記憶も改竄かいざんできる。やろうと思えば君に何だってさせられるよ」


「お願いですからホントにやめてくださいね!?」


「大丈夫だ、お嬢ちゃん。そんときゃ僕がこいつを殴ってやるよ」


「でもナカケンさんも操られちゃったら……」


 私が危惧していると笑いながら馬鹿にするようにマスターさんは言った。


「それは心配無用だ。俺の能力はこの人に通用しないからな」


 超能力者によるマインドコントロールなんだから普通通用するんじゃないか?

 すると、ナカケンさんも少し笑いながら話しかけてくる。


「お嬢ちゃん。考えても見ろ。俺の能力は──……」


 するとここでナカケンさんの話は止まる。そして、『は』の口は徐々に広がり、見る見るうちに驚きの表情に変わった。


「なんでお嬢ちゃんが能力のこと知ってるの!?」


 今頃そんなこと気づいたのか。


「だって俺が言いましたから」


 その言葉を聞くとナカケンさんは数歩後退りして、倒れ込むように四つん這いになると世界の終わりでも告げられたかのような表情を浮かべていた。


「なん……だと……!?」


 相変わらず、この人の表情はコロコロ変わる。


「なんで言っちゃったんだい!? それは僕が言う予定だったのに! 君のことだ。言うことは知っていたんだろう? 酷いじゃないか! 鬼畜!外道!ドS系イケメン!」


 ナカケンさん。最後のは悪口じゃないです。


「まぁ、確かにいいところは持っていきましたけど肝心のナカケンさんの能力は言ってませんから安心してください」


「そうか! ならいい!」


 ならいいんだ……。


「というかそもそも俺だってナカケンさんの能力よく知らないし」


「え? そうなんですか? でもさっきマスターさんの技は通用しないとか言ってたじゃないですか」


「別に通用しないとは言ったけど何故かなんて言ってないだろう? 試したからわかる。それだけの事だ」


 試したことあるんだ……。

 私は勝手な先入観を持ってたけれど、よくよく考えてみれば同じ超能力者で味方であるからと言って能力を知らないなんてことは別にあってもおかしくない。

 私みたいな凡人にならペラペラ話して弱点を見つけられたとしても弱点を突かれるということはほとんど無いだろうが、同じ超能力者ならばその弱点を突ける可能性がある。

 だから、教えていなかったとしてもおかしくはない。


「それで、能力は何なんですか?」


 マスターさんが単刀直入に尋ねるとナカケンさんは苦笑いで言葉を渋った。


「いやー、これがなんというか……。説明が難しいんだよ。これ言うと質問責めにされそうだし。まぁ落ち着いて話せる時にでもゆっくり話すよ」


 今回の物言いは決して誤魔化しではない……はずである。

 そして、ナカケンさんは言葉を続ける。


「それより今は兄ちゃんの救出に行かねば!」


 そう言えばそうである。捕えられていたのはナカケンさんだけじゃない。琢磨も捕まっていた。ほかの警察官に本格的にバレる前に連れ戻さねばいけない。


「ナカケンさんは居場所を知っているんですか?」


「だって取調室って横に並んでいるんだよ?」


 「だよ?」って言われても警察署にお世話になったことないからわからないんだけど……。

 けどそうなのならば、琢磨もこの廊下沿いの部屋のどこかにいるはずだ。


「そんでもって僕たちの味方には心が読める奴がいる。つまり廊下からでもその思念さえ感じ取ることが出来れば場所が分かるというわけだ」


「それじゃあ、俺が探せばいいんだな」


 私達は部屋を出ると廊下で探索を開始した。

 マスターさんは目をそっと閉じ、感覚を研ぎ澄ませて私達には理解すらできない他人の思念を探す。

 しかし、それは一瞬で終わりを告げた。


「……いた」


「おおっ! 早いな」


「だって隣だからな」


 わかりやすいにも程があるな。

 むしろなんで今までマスターさんは気づかなかったのか不思議に思うくらいだ。

 ものすごく順調に進んでいるというのに喜ぶ私とナカケンさんをよそにマスターさんだけ顔が浮かない。

 元々、クールで基本仏頂面であるマスターさんだがこの反応は少しおかしい。仏頂面ではなく、顔が明らかに曇っているのだ。

 どうかしたのだろうか?

 私がこう尋ねようとした時、マスターさんも同時に口を開いた。


「だが、その意識が何やら変だ」


「変?」


「ああ、俺も初めての感覚でなんて例えればいいのかわからないのだが……、なんか不明瞭なんだ。いつもはこの程度の距離ならもうちょっとはっきりと感じ取れるんだが……」


 すると、ナカケンさんがただでさえバカでかい声をさらに大きく「あ!」と叫んだ。

 それで鼓膜破れたら慰謝料請求するからな?


「うるさいですよ、静かにしてください! それでどうしたんですか、ナカケンさん?」


「そう言えば普通のマイクロチップ使用者ならすぐに脳内の記憶をスキャンして調べるって言ってたから……」


 つまりは今、マスターさんが朧気に見える理由はそのスキャンが行われているからってことか!?


「じゃあ、早くどうにかしないと!」


「ああ、そうだな早くしないと厄介ではあるな」


 そう言うとマスターさんは再び看守役の警察官を操り、部屋を出て、隣の部屋の扉の鍵を開けさせた。

 そこはナカケンさんが捕えられていた取調室と間取りも机の配置も全く変わらない部屋。唯一違う点を挙げるとすれば容疑者が寝ていたところだろう。


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