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師匠と弟子と

遊べるキャラが欲しくて、なんとなく書き始めました。

特になんにも定まっておりません。


突然更新が終わり、そのまま……なんてことになるのが、目下有力ですが、よろしくお願いします。

 わたしの師匠であるヤン・ユーファン様はとっても有名なお方です。


 かの、五大陸間で五百年続いた〝五香戦争ごこうせんそう〟を終わらせた〝四紅翁しこうおう〟のひとりですから。


 勿論教科書にも載っていますが、それだけじゃない。

 精霊使いとしても御高名で、高等な魔法書には、索引の欄に〝ヤン・ユーファン〟の名を見つけないものはありません。

 わたしが目下執筆中の論文も、師匠の理論を礎にしております。

 大学での講義は大人気で、単位取得試験の難しさにもかかわらず、受講希望者は毎年殺到し、講堂はいつもぎゅうぎゅう詰めです。


 そんな師匠ですから……


「ああ、どうして朝は来るのだろうな……」


 などと呟いて、下着姿で布団の上で、呆然と窓から外を眺めるこの女性などとは、全く異なる……そう、ニンゲンとして一線を画す、凜とした、しっかりした、立派なお方であることは、想像に難くはないと思いますが……


 そんな、我が敬愛する師匠ヤン・ユーファン様が、


「……スイよ、毎朝、こうして起きて、仕事へと赴く……これ以上の苦しみが、この世にあるのか?」


 などという、わけの分からないことを、世界の終わりのような表情でおっしゃるはずがございません。

 だって、五百年続いた戦争を終わらせた方ですよ?

 わたしは、


「大人は皆あんやっていますよ。さあさ、さっさと服を着て、大学へ行きますよ」


 と申して、お召し物を、この女性へ渡します。

 するとこの女性は、


「着せてくれ、頼む」


 と、真顔で言いやがりました。


 わたしは、確かに〝妖魔〟で、子供でありますが、一応、男でありますから、その前で女性がこうして素肌を晒すこと自体、どうかと思うのですが……


「嫌です。自分で着てください。大人なんですから。朝ご飯できてますから、ほら、頑張って!」


「うー、弟子が冷たい……」


 と、この女性がわたしをねめつけます。


 ……そろそろ現実を見ましょうか。


 そうです。


 この、わたしの目の前で、猫背で布団にくるまり、だらしなく、しょぼしょぼの目をこすり、隙あらば寝転がろうとする女性こそが、わたしの師匠であり、


〝百八の精霊を操る規格外〟


〝神さえ恐れる千年生きた不死身の鳳凰〟


〝五大陸最大の精霊使い〟


〝天地を新たに創造せしめる天帝〟


〝これぞ真なる知将〟


 などなど(それらがどれほど事実に即しているかは弟子のわたしでも分かりかねますが)大層に渾名され、五大陸にその名を轟かせている、偉大なるヤン・ユーファン様なのです! 残念ながら!


「我が弟子よ。どうせなら、一限の講義ぶっちぎって寝過ごしてやろうじゃないか。なんなら一緒に寝てやっても良いぞ」


「師匠……」


「……分かった。分かったから、そんな悲しそうな目をするな。わたしが悪かった。ちゃんと起きるから。な?」


 と言って、師匠は枕元の眼鏡を取って、掛けます。

 わたしは師匠が立ち上がったのを見て、さすがにもう平気だろうと思い、


「おいしいご飯作っておきましたから、早く来てくださいね」


 と、部屋を出ようとしました。

 すると師匠は、


「〝ミネルフォス〟、頼む」


 と言って、宙に紅差指で文字を描きました。

 どこからか霧が立ちこめ、もくもくとあちこちに白い塊ができ、にょきにょき細長い腕が伸びました。


「あ、コラ!」


 と言うわたしの制止も効力はありません。

 何本もの細長い腕が、師匠を支え、甲斐甲斐しく師匠の細く長い白い腕にお召し物を通します。

 帯も、その白い手に、つまりは精霊〝ミネルフォス〟に締めてもらっております。


 ああ……。

 ダメです。

 精霊は人間を堕落させます。いつか帯の締め方さえも忘れてしまうのでしょうか……。


「……弟子よ、お願いだからそんな悲しい目をしないでくれ。今度からちゃんと自分でやるから」


「……昔は、お料理もご自分でなさっておりましたよね」


「……えーっと」


「いいんです、いいんです……。わたしも分かっております。師匠は、本当は何でも出来るお方だと。ただ、やらないだけだと……」


「あーあー、まったく、そんなかわいげのないこと言って。昔は生意気な子じゃなかったのに。そんな風に育てた憶えはないぞ」


「残念ながら、わたしは、師匠に拾われて以来そんな風に育てられた憶えしかございません」


「確かに。それでこそ我が弟子だ」


 師匠は、にっと笑いました。こうして、きちんとお召し物を整えると、流石は大精霊使いです。

 しゃんと背筋を伸ばし、凜と佇むその姿は目を見張ります。わたしも何だか嬉しくなります。誇らしく思います。


「さ、朝食食べて、行きますか」


 師匠がそう言うと突然、枕許にあった教鞭が、ぴょこぴょこと飛び跳ねました。

 師匠は、


「置いていきゃしないって」


 と言って、その教鞭を手に取り部屋を出ました。

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