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蒼月の交響曲  作者: 由希
第二章 いざ北方の地へ
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第八十一話 玉の鉱山

 僕らは集落に住んでいるドワーフ達の案内で、ジュエルイーターが出るという鉱山へと向かった。ドワーフの大人は皆背が低くアロアの目元くらいの背丈で、それでいて筋肉は盛り上がっているというずっしりとした体型の人達ばかりだった。


「旅人さん達、くれぐれも無理はしなさんなよ。命あっての物種だ。勝てなさそうだと思ったら、すぐに逃げてきな。お前さん達が駄目だったとしても、儂ら皆あんたらを恨みゃしないよ」


 鉱山に向かいながら、案内役のドワーフさん達はそう言って僕らを心配してくれた。ドワーフというのは、どうやら気が良くて優しい種族のようだ。

 やがて山肌にぽっかりと空いた、鉱山の入口が見えてくる。暗い内部に続くレールの上にはトロッコが放置され、辺りにはツルハシやスコップなど採掘用具が散らばっている。


「さて、儂らが案内出来るのはここまでだ。魔物はこの玉の鉱山の奥にいる。何度も言うが、くれぐれも命は粗末にするなよ」

「はい。ありがとうございます」


 ドワーフさん達にお礼を言って別れると、僕らはいつも通りカンテラに火を点けたサークさんを先頭に鉱山内へ足を踏み入れた。広さは大人三人が並んで歩ける程で、ドワーフ達の背丈に合わせているからかサークさんの頭と天井との隙間が拳一つ分くらいしかない高さだ。

 いつジュエルイーターと鉢合わせてもいいようにクラウスは魔法、ランドは風がいつでも使えるよう身構えている。魔法が使えない僕とエルナータは、出番が来るまで後方で待機する事になっている。


「玉の鉱山って初めて見たけど……普通の鉱山と比べて岩盤の削り方が変わってんな」


 警戒ついでに坑道を見回しているランドが、ぽつりと呟く。確かに辺りの岩壁は岩を丸く削り取ったような跡が多く、妙にでこぼこしている。


「玉は少しでも欠けたら使い物にならなくなるから採掘は細心の注意を払って、採掘許可も冒険者ギルドとは別に存在する採掘師ギルドという世界中にある組織が認可した採掘師にしか出されないそうだ。それ以外の普通の鉱石なら、採掘師でない冒険者が掘り出しても問題ないが」

「採掘師ギルド……そんなものまであるんですね」

「知らない奴も結構多いけどな。ちなみに許可なく勝手に玉を掘った場合は例外なく牢屋行きだから気を付けろよ……ランド?」

「な、何でいきなり俺に話を振るんすか! ど、どさくさに紛れて一個ぐらい持って帰って売ってもいいかなー、なんて思ってないっすよ! マジで!」


 鉱山について説明をしてくれていたサークさんに急に話を振られ、挙動不審になりながらランドが言う。……こういう自分に正直なところは、ランドの長所であり短所だなあと思う。


「しっ。……どうやらお喋りはここまでだ。目的の相手は近いようだぞ」


 クラウスが発した警告に、話すのを止めて耳を澄ませる。すると二股に分かれた道の左の方から、ガリ……ガリ……と何か固いものを砕くような音が微かに聞こえてきた。

 小さく息を飲み、足音を立てないよう気を付けながら分かれ道を左に進んでいく。微かだった音はだんだん狭い坑道内に反響して大きくなり、それに伴い道幅もより広く高くなっていく。


「……!」


 そして僕らの目の前に、その化け物は姿を現した。今まで見た魔物とは明らかに異質な姿に、僕は思わず目を奪われる。

 体長は、およそ四メートルほど。体毛や鱗はなく、岩肌を思わせるヒビのような模様の入った肌のあちこちには宝石のような赤や青の瘤が浮き出てカンテラの光を反射している。全体的なフォルムは蜥蜴に似ていて、本来目があるべき部分に目がないのと大きな口の中に並ぶ細かく鋭い牙、物を掴めるほど長い爪が印象的だ。

 そいつ――ジュエルイーターは僕らには気付かず、手にした丸い宝石が付いた岩に一心不乱にかじりついていた。あれがきっと、この鉱山で取れる玉なのだろう。


「……クラウス。改めてあいつの特徴を」

「ああ。ジュエルイーターは地中を主な生息地とし、その影響で目は見えないが代わりに発達した嗅覚と聴覚で敵の居所を察知し攻撃を仕掛けてくる。皮膚の固さは食事量にもよるが、鋼鉄製の武器を用いたとしてもまず攻撃は通らないと思っていい。倒すには魔法を使って皮膚を剥がし、剥き出しになった肉に攻撃を仕掛ける。これが常套手段と言われている」


 サークさんに促され、クラウスが小声でジュエルイーターの生態を伝える。つまり、サークさん達があいつの皮膚を何とかしてからが僕とエルナータの出番という訳だ。


「うー、ただ待ってるの辛いぞ! エルナータも早く戦いたい!」

「駄目よ、エルナータ。大事なのは、皆怪我なく魔物を倒せる事なんだから。いくらエルナータが頑丈でも、闇雲に突進してばっかりじゃいつか怪我しちゃうわ。サークさんにも沢山注意されたでしょう?」

「む……確かに、真っ直ぐ向かうだけじゃ魔法も使うサークに勝てなかった……」


 この一ヶ月の特訓内容を思い返しているのか、アロアの注意を聞いたエルナータが一気に大人しくなる。確かに直接的な戦闘能力だけならエルナータは既にサークさんに並んでいるのだが、魔法を絡めた間接的な攻めには弱いようで結局今日まで一本を取るには至っていない。


「それじゃあ、クラウスはくれぐれも熱くなりすぎて坑道を破壊しないように。ランドは今までの特訓通りにやれば大丈夫だ、落ち着いていけ。……行くぞ!」

「解っている!」

「は、はい!」


 そしてサークさんの号令の元、サークさん、クラウス、ランドの三人がジュエルイーターへと向かっていった。

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