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蒼月の交響曲  作者: 由希
第二章 いざ北方の地へ
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第五十三話 ランドの故郷

 その後、無事風上に開けた場所を見つけて、僕らはそこで野営する事になった。新たな獣も、幸い現れる事はなかった。

 初めて体験する野営は、何だか皆でキャンプにでも来たみたいでちょっとだけワクワクした。けれどもこの先これが当たり前になるのだという事を思うと、今のうちに少しでも慣れておかないととすぐに気を引き締め直した。


「そういえば、ランドは野営の経験あるの?」


 ランドと共に薪を拾う役を任された僕は、何気ない気持ちでそうランドに問い掛けてみた。僕のその問いに、ランドは薪を拾う手を止めないまま答える。


「ああ。つってもこんな本格的なのじゃないけどな。とっつぁんとこにに世話になるまでは、いつも街の外で野宿してたんだ」

「……お金が、なかったから?」

「ご名答。そんな俺を見かねた先輩冒険者の一人が、こういう宿があるってとっつぁんとこを紹介してくれてさ。それからとっつぁんとこで働く事になったって訳さ」


 軽い感じでランドは言うけど、その時の苦労はきっと簡単には言葉に出来ないものだったんだろうと僕は感じた。見知らぬ街で、たった一人で、満足な生活も出来ず……最初からアロアが側にいて、すぐに住処を見つけられた自分はとても幸運だったのだと改めて思った。


「……この腕輪を外す事が出来れば、ランドにあげられたのに」


 思わずそう言った僕に、ランドの手がぴたりと止まった。そして少し怒ったような顔で、僕の事をキッと睨み付けてくる。


「お前な、あんまり人を馬鹿にすんなよ。確かにお前の腕輪は凄えよ、売ればきっと大金が手に入る。けどダチの大事なもんを売った金で金持ちになったって、そんなもん幸せになんかなれる訳ねえだろ。俺は俺の力で大金を稼いで、そんで家族を楽にする。そうでなきゃ、俺を信じて待ってくれてる家族の皆にも申し訳が立たねえよ」


 その真っ直ぐな言葉に、心を打たれる。……ああ、ランドのこういうところが僕は好きで、友達になりたいと思ったのだ。


「ごめん、ランド」


 素直に謝ると、ランドの顔に笑みが戻った。再び薪を拾う手を動かし始めながら、ランドが口を開く。


「ま、お前のそういう優しいとこはいいとこだけどさ。気を付けろよ。世の中俺らみたいな、いい奴ばっかじゃないからさ。油断してると騙されて、痛い目見るぜ」

「うん、解った」

「どうかなあ。お前もアロアちゃんも、揃って素直すぎるからなあ。エルナータは……素直ってよりはただの世間知らずか、ありゃ」

「もう、酷いよ、ランド」


 ランドの言葉に、思わず笑いが漏れる。こんないい友達を持てた僕は、本当に幸せだと心から思った。

 それから両手一杯に薪を集めた僕らは、皆の待つ野営地へと戻ったのだった。



 アロアとエルナータが作ってくれた干し肉を使ったスープでお腹を満たし、クラウスとサークさんが建ててくれた簡易テントの中で眠る。途中男だけで火を絶やさないように交代で見張り番をしながら、その日の夜は更けていった。

 女の子達二人も見張り番をしたいと申し出てくれたけど、サークさんがそれを止めた。アロアは聖魔法は使えるけど直接戦う力はないし、エルナータは戦闘力はともかく中身が幼すぎて常に周囲に注意を払わなければならない見張り番には向かないだろうという判断からだった。

 そうして無事に朝を迎えた僕らは、一路カルナバ村へと向けて歩を進めた――。



 カルナバ村を目指し、歩き始めて半日と少し。そろそろ日も暮れ始めてきた頃、坂を下った所に小さな村があるのが見えた。


「カルナバ村だ! おーい、皆ー! 帰ってきたぞー!」


 村を見たランドが急に元気になり、坂を駆け下りる。それを競争の始まりだと受け取ったのか、エルナータがすぐにその後を追う。


「かけっこか! よし、負けないぞ!」

「待って二人とも! 坂道でそんなにスピードを出したら転んじゃう!」


 それを慌ててアロアが追いかけて、僕とクラウス、サークさんがその場に残される。クラウスは前方の三人を呆れたように見つめ、サークさんも苦笑しながら僕とクラウスの方に振り返った。


「やれやれ、皆元気だな。俺達も行こうか、クラウス、リト」

「はい、サークさん」


 僕もまた笑いながら、ゆっくりと坂を下り始める。一瞥しただけで解るその穏やかな雰囲気は、今は懐かしいタンザ村の姿を脳裏に思い起こさせた。

 村の中に入ると、先に行った三人がすっかり村の人達に囲まれていた。明るく、はしゃぐような声が遠くからでも聞こえてくる。


「よく帰ってきたなあランド!」

「その栗色の髪の子は、街で見つけた彼女さんかい?」

「綺麗な銀髪だねえ。街の子ってのは、皆こうなのかい?」

「だーっ、いっぺんに喋らないでくれよ! 聞こえねえっつーの!」


 口々に言葉を投げかける村の人達に、困ったようなランドの悲鳴が響く。僕は手前にいる村の人の中の一人に、話しかけてみる事にした。


「あのー、すみません。そこのランド君の家って、どこにありますか?」

「おや、坊や達もランドのお友達かい?」

「はい。リトって言います」

「ランドの家なら村の一番奥にある大きい家……あら! そっちの男前はもしかしてエルフかい!? あれまあ! 生きてるうちにエルフにお目にかかれるなんて思わなかったよ!」

「は、はは……それじゃランドの家の場所も解ったし行こうか、二人とも」

「ちょ、待ってくれよサークさん! 俺も! 俺らも行くから!」


 目ざとくサークさんの耳に気付いた村の人に、サークさんが自分も囲まれる事を恐れて足早にその場を離れようとする。そんなサークさんに慌てて、ランドがアロアとエルナータの手を引き何とか人込みから抜け出してくる。


「っはー……置いてこうとするなんて酷いっすよ、サークさん」

「すまんすまん。それじゃあ改めて、ランドの家に行こうか」

「はい! んじゃ皆、積もる話はまた後でな!」


 まだ喋り足りなそうな村の人達を後にして、僕らはランドの家を目指して歩き出した。

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