第四十七話 崩壊の足音
それから皆で村の焼け跡を隈無く調べたけれど、特に変わったところは見当たらなかった。ただ、唯一残った建物である教会の中だけが、まるで必死で何かを探し回ったかのように酷く荒らされていた。
「君達、村を出る前から教会の中はこんな感じだったか?」
リーダーの問いに、僕らはかぶりを振る。あの時はとにかくこれからどうするか考えるので頭が一杯だったから少し自信はなかったけど、まさか逃げるのに夢中だからって神父様がこれをやったとは思えなかった。
「ふむ……しかし奇妙だな。あれだけ残さず村を焼き尽くしたにもかかわらず、他の建物から離れた場所にあったとは言えここだけは焦げ跡すらなく、綺麗に残されている」
「おいおいベルジオさん、まさか魔物がどこを焼くか選んだとでも言うのかい?」
「そこまでは言わんが……ふむ……」
「とにかく、調べられる所はどうやらこれで全部ね。フェンデルに戻って、ギルドに今回の件を報告しましょ」
皆が頷き合い、引き上げの準備を始める。それに従いながら僕は、これまでの事について考えていた。
……急にレムリア各地に現れるようになった魔物。その魔物の現れる前後に目撃された、フードの人物。
その人物の落とした、何かの紋章が刻まれた懐中時計。そして何かを探すように荒らされた教会……。
それぞれの繋がり方はしっかりしたものもあればあやふやなものもあって、上手く頭の中で形にならない。博識なクラウスやサークさんなら、もっと上手い答えを導き出せるんだろうか。
「それでは戻るぞ、皆。ラドの町到着は恐らく深夜になるだろうが、あと一頑張りだ。気を抜かないようにな」
「うへえ、あの道を下りとは言えまた歩くのか……」
「ならあなただけ残ってもいいのよ、ジョシュア?」
「げっ、そいつは勘弁!」
「私達も行きましょ、リト。……少しだけ、名残惜しいけど」
「……うん」
そうして僕らは、軽く後ろ髪を引かれながら皆と共に山道を下っていったのだった。
「ああ、リトにアロアではないか」
フェンデルのギルドに戻ると、丁度自分のチームと共にギルドに訪れていたクラウスとサークさんに遭遇した。二人もフェンデルに戻ってきたばかりなのか、表情には若干の疲労の色が見える。
「貴様達も今戻ってきたのか」
「うん、そっちは何かあった?」
「いや、残念ながらこっちの収穫はゼロだ。リト君達はどうだった?」
「こっちは色々大変でした。……あ、そうだ。アロア、二人にあれを見せてみない?」
「これ?」
僕の言葉に、アロアがあの銀色の懐中時計を取り出す。二人の視線が、同時に懐中時計へと注がれた。
「僕らが遭遇したフードの人物が、落としていったものなんです。二人は僕らより色んな事を知ってるから、何か解るんじゃないかって」
「成る程、そこで僕を頼るとはいい心がけ……」
そう言いかけたクラウスの声が、途中で止まった。見ればサークさんの表情も、酷く厳しいものに変わっている。
「ふ、二人ともどうしたの……?」
急な二人の変化に戸惑うように、アロアが問い掛ける。特にクラウスの方は、懐中時計を見つめたまま微動だにしない。
「……リト君、アロアちゃん。この紋章は……」
「サーク! ……それは、僕から言う」
何かを言いかけたサークさんを、クラウスが制する。そして、その重い口を開いた。
「……これは、このレムリアの隣国の王家の紋章だ。王家の紋章が刻印された道具を持ち歩くという事は、即ち、その人物が王家の勅命を受けて動いているという証明でもある……」
予想もしなかった話に、僕らは息を飲む。王家の勅命を受けた人物が魔物が現れた現場にいたなんて、それじゃまるで……。
「この紋章を持つ国の名は、グランドラ。最近になって王が代替わりして以来、近隣の小国を飲み込み勢力を広げ続けている国にして……」
そしてクラウスは告げる。苦々しげに、その一言を。
「僕の……故郷だ」
ギルドにタンザ村で起こった事を報告した後、チームは解散となった。皆はまた機会があれば、僕らと一緒に仕事がしたいと言ってくれた。
あの懐中時計は、ギルドが預かる事になった。ちらりと聞こえた話ではフードの人物は他でも目撃されたらしく、全員が同じ懐中時計を持っていたのかまでは解らなかったけど僕の心には暗い影が落ちた。
魔物を呼び寄せた疑惑のある人物が、隣の国の王家の紋章を持っていた。本当に魔物を自在に呼び寄せる事が出来るのかはともかく、それならば目的は、レムリアを混乱させるかあわよくば滅ぼす事じゃないのか。
クラウスは言っていた、隣国のグランドラは周囲の小国を飲み込み力を付けていると。その毒牙が、遂にこのレムリアに向いたんだとしたら。
ゆっくりと日常が崩壊していくような、そんな足音を響かせながら穏やかに時は流れ……遂に、アロアの誕生日当日を迎えた――。




