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蒼月の交響曲  作者: 由希
第一章 総ての始まり
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第四十五話 廃村に潜む影

 出発は、明日の明朝に用意された馬車で各チーム一斉に、という事に決まった。僕ら冒険者はギルドから解散すると、それぞれに旅の支度を始めた。

 アロアとは出身が同じという事もあってか今回も一緒のチームだったけど、残念ながらランドとは別々のチームになってしまった。ランドはまあ仕方ないさ、と軽く笑って、すぐに自分の出発先には何が物入りかを確認し始めた。僕とアロアもそれに倣い、必要なものは何かを二人で相談し合った。

 僕らが三人とも朝からいなくなるとなって、一人残されるエルナータは酷く不満そうにしていた。何度もついていきたいと駄々を捏ねたけど、マッサーさんが一緒に説得してくれた甲斐もあり、必ずお土産を買ってくるという事で何とか納得して貰えた。

 そして不安で眠れない夜を過ごし、やがて、出発の朝を迎えた――。



 一度見た事のある景色を、その時とは逆方向に馬車は走る。僕らを入れて五人ほどの人数を乗せた馬車は、一路、フェンデルとタンザ村との中継地点であるラドの町へと向かっていた。


「まだあれから一ヶ月しか経ってないのに、まるで、何年も帰ってなかったみたい」


 幌の外を見ながら、感慨深げにアロアがそう口にする。フェンデルで過ごした一ヶ月間はあっという間だった筈なのに、何故か同じ事を思ってしまう自分が不思議でならなかった。

 途中、見覚えのある林が目に入り僕はイーリャの事を思い出す。イーリャの村も今回の調査対象に入っていて、僕らとは違うチームが調査に当たる事になっている。

 あの時サークさんは、壊れた慰霊碑を見て何かを考えていた。もしあの時既に、誰かの手によって慰霊碑が壊されたのではないかと疑っていたとしたら。

 だとしたら、僕は慰霊碑を壊したその人物を許せないと思う。例えどんな理由があったとしても安らかに眠っていたイーリャ達の目を無理矢理覚まし、村を訪れた人に襲いかかるゴーストにしてしまうなんて。

 そして、その人物がもしかしたらタンザ村にも魔物を放ったかもしれないなんて……。まだ確証のない想像でしかないけど、もし本当にそうだとしたら絶対に許せない!


「そろそろラドの町に着く。書面でも説明があったがここの山の山道は整備がされておらず、小型の馬車でないと通れない為ラドの町からは歩きとなる。今夜はラドの町でよく休み、明日に備えるように!」

「はい!」


 今回のチームリーダーの中年の冒険者の号令に返事をする僕らの目に、徐々に懐かしいラドの町の姿が映し出されてきた。



「まあ、リトちゃんにアロアちゃん! まあまあ、久しぶりだねえ! 王都から冒険者達がやってくるとは聞いてたけど、あんた達だったんだねえ!」


 宿に到着した僕ら一行を出迎えてくれたのは、ダナンさんの奥さんだった。奥さんは顔を綻ばせながら僕とアロアの顔を順番に見、強く手を握ってきた。


「元気でやってたかい? ずっと心配してたんだよ、うちの人も何かというと『アロアちゃんとリト坊は今頃どうしてるかなあ』って……」

「おいお前、他にもお客さんがいるんだからよさねえか」


 宿の奥から、更にダナンさんが顔を出す。二人との思わぬ再会に、僕は何だか嬉しくなった。


「お二人ともここの宿で働いてるんですね」

「ああ、この町にせがれがいる奴らと違って俺達は行く宛がねえ。それで、そういう奴はこの町の店に住み込みで働く事になったんだ。何しろこの歳まで畑仕事一筋でやってきたから苦労も多いが、何とか生活してるよ」

「良かった。皆元気でやってるのね……」

「何だい、あんたも話が長いじゃないか! それにしても、リトちゃんにアロアちゃんがいるんじゃ今日はとびきり美味しい料理を作らないとね!」

「おっといけねえ。皆さん、ご予約の部屋はこっちになります。ごゆっくりと、旅の疲れを癒して下せえ」


 そう言って、ダナンさんが僕らを部屋に案内してくれる。僕らはそれに続き、宿の中に足を踏み入れた。



 ダナンさんの奥さんの宣言通り、その日の夕食はとても美味しくて僕を含め皆が何杯もおかわりした。その後はダナンさん夫妻とお互いの近況を語り合い、楽しい夜は更けていった。

 そして翌朝。僕らはダナンさん夫妻に見送られ、久しぶりの山道を登る事になったのだった。



 登っても登ってもあまり代わり映えしない景色の中、ひたすら足を動かす。村を焼かれ山を下る時は不安で、盗賊のアジトに行く時は必死でそれぞれ気付かなかったけど、山を歩くという事は肉体的にも精神的にも大変な事なんだなと僕は改めて実感した。


「君達はタンザ村の出身なんだろう? 村はまだ遠いのか?」


 先頭を歩いていたリーダーが、振り返り僕とアロアに問い掛けてくる。僕らは少し、自信なさげに答えた。


「……多分、あと少しだと思います」

「ならいいんだが。流石にこの暑さで長時間の山歩きはきついからな」


 その言葉に、ちょっとだけ申し訳なくなる。この道を歩いたのは山を下ってラドの町を目指した時と盗賊のアジトを探しに向かった時だけなので、村までの距離感と言われても正直よく解らないのが本音だった。


「全く、ギルドももっと小さい馬車を用意してくれりゃ良かったのに」

「それじゃこの人数乗れないから、仕方ないわよ」

「お前達、無駄口を叩くな。後輩達に笑われるぞ」


 リーダーとは元々の仕事仲間らしい残りの二人がこぼす愚痴を、リーダーが諫める。それからは口数も少なめに、僕らはひたすら山を登り続けた。


「あっ、あれがそうじゃない?」


 そうしてどのくらいの時間が過ぎたのか。女性の冒険者の方が、そう言って前方を指差した。

 見えたのは、真っ黒に焼けて崩れ落ちた家屋の数々。――間違いない。タンザ村だ。


「ねえ君達、あれがタンザ村で間違いない?」

「……はい」

「こりゃ酷えや……無事な家なんて残ってねえじゃねえか……」


 僕ら以外の三人が、露になった村の様子に息を飲む。僕らは悲しい気持ちになりながら、暮らしていた頃の面影のまるでない村を見つめた。

 改めて、今ここが廃墟なのだという事を思い知る。僕は目覚めてから一ヶ月の間だけど、アロアにとっては産まれてからずっと暮らしてきた村……。


「……?」


 その時、瓦礫の向こうで何かが蠢いた気がして僕は咄嗟に身構えた。皆もそれに気付いたのか、それぞれに警戒態勢を取る。

 あちこちの瓦礫の陰から、大きな黒い影が次々と姿を現す。黒い体毛に人間の大人よりも大きい体躯。見間違える筈もないその姿。


「あれは……まさか!?」


 それは村を、そして村の男の人達を焼いた、あの犬の魔物の群れだった。

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