第二十七話 最初の依頼
ギルドの内部はまず正面に受付、その両側に大きな掲示板が一つずつ。それから掲示板の手前に休憩する用だろうか、長椅子が幾つか備え付けてあった。
「右は個人的な依頼、左は国家からの依頼が貼ってあるんだ。俺の目当ての遺跡の調査依頼なんかは大体左だな」
言われてみれば、左の掲示板は右の掲示板に比べて貼り紙の数が極端に少ない。きっと稼げる依頼はそれだけ目を付けられるのも早いという事だろう。
「新しい遺跡の調査依頼はないみたいだなー。お前らが登録して依頼選び終わるまで、俺は椅子にでも座って待ってるよ」
ランドはそう言って、ぶらぶらと椅子の方に歩いて行ってしまった。僕らはとりあえず、今は事務員さん一人しかいない受付に向かう。
「あの……すみません」
「はい、どうされました?」
書類を整理していた、事務員さんが顔を上げる。歳は二十代半ばといった感じだろうか。茶色の髪をアップにしてお団子にした女性で、切れ長の青い瞳が知的な印象を与える。
「……あの、冒険者登録をしたいんですが」
「新規の冒険者登録ですね。少々お待ち下さい」
事務員さんが後ろの棚を探り、真新しい書類を一枚ずつ取り出す。それを僕とアロアの前に置くと、羽根ペンをそれぞれに差し出した。
「こちらの書類にご記入をお願いします。書き損じたらすぐにお申し付け下さい、新しい書類を用意しますので」
「解りました。丁寧にありがとうございます」
お礼を言い、書類に目を通す。名前、性別、年齢、出身……書類には基本的な個人情報の記入欄が並んでいた。
年齢と出身で少し悩んだけれど、年齢は確かアロアが今年十五になると神父様が言っていたので僕も十五と書く事にした。出身は、いつか帰る場所という意味を込めてタンザ村と書いた。
書類の項目を総て書き終わると、事務員さんが書類を手に取り目を通す。そして書類の上部に、ぽんと判子を押した。
それが終わると今度は、掌サイズの銀色のメダリオンを手渡してくる。何かの紋章が描かれたメダリオンのその下部には、小さく四桁の数字が刻まれていた。
「以上で登録は完了です。こちらはギルド証となり、ギルド加盟国ならばこれでどこでも身分が証明出来ます。けして無くされませんよう」
「解りました」
「冒険者として実りある体験が出来ますよう、心からお祈りしております」
最後にそう言って頭を下げると、事務員さんは再び黙々と書類整理を始めた。僕とアロアは、まじまじと今貰ったメダリオンを見つめる。
「これで僕らは、冒険者になったんだね……何だか実感が湧かないや」
「うん。何だか不思議な気持ち」
暫くそうしてメダリオンを見つめていたけど、いつの間にか後ろに鎧姿の人が並んでいるのに気付いて僕らは慌てて受付の前を離れた。鎧姿の人は僕らがいなくなるとすぐに、事務員さんと何かの話を始める。
「ああ、びっくりした……そろそろ依頼を選んでみようか」
「そうね。どんな依頼があるのかしら?」
改めて、右の掲示板に近付く。貼ってある依頼書を一枚一枚見ていくと、森での薬草採りや鉱山で鉱石の採掘のような素材の採集から庭の草むしりや子供の世話のような日常のお手伝いまで、多岐に渡る内容の依頼がずらりと並んでいた。
「凄いね、一杯ある。どれにしようか……」
ランドには簡単なのがいい、と言われたけど、簡単すぎるものはやっぱり提示されている報酬も雀の涙といったところだった。どうすればいいか、僕が悩んでいると。
「ねえ、これとかどうかしら?」
アロアがそう言って、一枚の依頼書を指差す。それはどうやら、畑の害獣駆除の依頼のようだった。
「畑の場所もここから近いみたいなの。報酬もお手頃だと思うし……」
「うーん……」
依頼書を眺めながら、腕組みして考える。確かに、最初はこのぐらいが丁度いいのかもしれない。
「じゃあ、これを受けてみようか」
「決まりね。頑張ろうね、リト!」
僕は決心すると、害獣駆除の依頼書を留めていたピンを外した。




