第二十六話 冒険者ギルドへ
翌朝、宿での朝の仕事を終えた僕らは、ランドの案内でまずは冒険者ギルドに行く事になった。冒険者としてお金を稼ぐには、まずはギルドに名前を登録するところから始めないといけないらしい。
「つってもこの平和なご時世じゃ、たまに出る盗賊を退治するくらいしか纏まった金が手に入る依頼はないけどな。大抵は素材探しとかの地味ーな依頼だよ」
「ランドも盗賊退治に出たりするの?」
「俺? 俺はやんねえよ、弱いもん。言ったろ、俺は遺跡発掘が中心だって」
「遺跡発掘って何するの?」
「各地で発見された遺跡に出向いて、かつての文明の跡や魔導遺物なんかがないか調べるんだ。もし魔導遺物が掘り出せれば、あっという間に大金持ちさ!」
僕は以前クラウスが、高い魔導遺物なら国一つ買えると言っていた事を思い出す。成る程、一攫千金を求めてランドのように遺跡発掘に精を出す冒険者が出るのも道理なのだろう。
「リトはなくした記憶の手掛かりを探す為に冒険者になりたいんだろ? 正直宛とかあんの?」
「特には、何も。……けどこうやって世界を巡れば、いつかは見つかるんじゃないかって思うんだ」
「そっか……ま、気長にやろうぜ! 俺も応援すっからよ!」
そう言って、ランドが背中を思い切りばしんと叩く。その勢いに軽くよろめきながら、僕は、ランドの気の良さに好感を抱き始めていた。
「……ところで……」
と、急にランドが声をすぼめる。その目はちらちらと、後ろを歩いているアロアに向けられている。
「お前とアロアちゃんってさ、どういう関係? ……やっぱ恋人?」
「ぶほっ!?」
予想外の質問に、思わず唾をむせる。アロアはそんな僕らを、不思議そうな目で見つめている。
「な、何を言って……」
「だってさ、いくら焼け出されたっつったって産まれた村を捨ててお前についていくなんてなかなか出来ないぜ? お前の気持ちはともかく、向こうは絶対お前の事好きだって!」
「そ、そんな事ないよ! アロアは困ってる人を見過ごせないだけだって!」
「えー? じゃあお前はどうなん? アロアちゃんの事どう思ってんの?」
「そ、それは……」
言葉に詰まる。他より少し特別な存在……とは感じているけど、それが恩人としてなのか、友達としてなのか、それとも一人の女の子としてなのか……は、正直僕自身にも解らなかった。
「解らない……かな」
仕方なく正直にそう答えると、ランドは大袈裟に首を横に振った。そして呆れたような声で言う。
「お前なぁ……そんなんじゃアロアちゃん誰かに取られちゃうぞ。俺とか」
「ねえ、二人とも随分楽しそうだけど何の話?」
その時、アロアが興味津々といった様子で身を乗り出してきた。反応に困る僕を余所に、ランドがにやりと笑みを浮かべる。
「いやいや、アロアちゃんは可愛いなって話をな?」
「えっ!? そ、そんな事言って、何か変な事でも話してたんじゃない?」
「ぼ、僕は別に……」
つい顔を赤らめる僕に、アロアが「怪しい……」とじとっとした視線を向ける。僕は何とか場を誤魔化すべく、わざと大声を上げた。
「と、ところでギルドはまだかなあ!? 僕、待ちきれないよ!」
「おっと、そうだったな。もうすぐ着くぜ。ほら、突き当たりのあの大きな建物がそうだ」
ランドが指差した方に、視線を移す。すると、周囲の建物より頭一つ大きい三階建ての建物が前方に見えた。僕とアロアは思わず目を見張る。
「あれがギルド!? 村の教会より大きい……」
「受付で冒険者登録したら、依頼掲示板の中から好きな依頼を選ぶんだ。ま、習うより慣れろだ、まずは簡単な依頼からやってみたらいいんじゃねえ?」
「成る程……」
近付いていくギルドの建物を見つめながら、僕はごくりと一つ、大きな唾を飲み込んだ。




