第二十四話 王都フェンデル
翌朝ガンドルを出発した僕らは今度は雨に見舞われる事もなく、夕方近くになって無事に王都フェンデルへと到着した。フェンデルは流石王都と言うだけあってタンザ村やラドの町よりもずっとずっと大きくて、人通りも物凄かった。
道を歩けば、絶えず露店の呼び込みの声が聞こえてくる。その活気に、僕はすっかり圧倒されていた。
「リト、見て! あそこで売ってる果物、とても美味しそう! 村では見かけた事ないけど、何て言う果物かしら?」
アロアはゆうべの様子などおくびにも出さない明るい調子で、露店の一つを指差し楽しげに問い掛けてくる。僕もなるべく明るく振る舞うよう努めて、それに応える。
「値段はいくらぐらいだろう? 僕らの所持金で買えるといいけど」
「あ、あっちでは派手な服を着た人がボールでお手玉してる!」
「本当だ! あんなに沢山のボールを一個も落とさないなんて凄いなあ」
「……おい、貴様ら、見物は後にしろ。これから貴様らを置いてくれそうな宿に案内してやるんだ、しっかりついてこい」
そんな僕とアロアの様子を見て、クラウスが呆れた風に声をかける。その声にいつの間にか自分が本当にはしゃいでいた事に気付いて、僕は思わず赤くなってしまう。
「えっと……それで、僕らを置いてくれそうな宿ってどんなとこなの?」
「駆け出しの冒険者が住み込みで働く、商業区の外れにある宿だ。住み込みの場合は宿代を取らない代わりに、暇な時に宿の雑務を手伝わされるという寸法だ」
「それって、何人でも置いてくれるの?」
「さあな。上手く空きがあるといいんだが」
クラウスの素っ気ない返事に、一抹の不安がよぎる。もしその宿が駄目だったら、僕らはどこに泊まればいいんだろう。
「もしもの時は、私が本神殿に掛け合いましょう。だから心配しなくても大丈夫ですよ、リト、アロア」
どうやら不安が顔に出ていたらしく、振り返った神父様がそう言って励ましてくれる。それにまた恥ずかしさを隠せないでいると、サークさんが立ち止まり言った。
「クラウス、俺はギルドに仕事の完了を報告してくるからリト君達をちゃんと宿まで案内してやれよ」
「解っている! 子供扱いするな!」
「では私も本神殿に向かいましょう。二人とも、困った事があったらすぐに来るのですよ」
「はい。お元気で、神父様」
「行くぞ、リト、アロア!」
それぞれの行き先に向かう二人と別れ、僕とアロアはクラウスについて街中を進む。時々僕らがちゃんとついてきているか振り返って確認する辺り、実はこう見えてクラウスは案外面倒見がいいのかもしれない。
やがて人通りは少し落ち着き、宿のような建物が沢山建っている区画に出た。クラウスはその中の、『マッサーの宿』と看板の立っている建物の前で足を止めた。
「ここだ。交渉は自分達でしろ、これから自立してやっていくならそれくらいは出来ないと話にならんぞ」
「うん、色々ありがとう、クラウス」
「クラウス達はいつまでこの街にいるの?」
「当分は滞在するつもりだ。この国に来て、まだそれほど経っていないからな」
「じゃあ、また会えるかもしれないのね。これからもよろしくね、クラウス!」
「……! ふ、ふん、機会があればな。じゃあな!」
クラウスは顔を真っ赤にすると、足早に雑踏に消えてしまった。ちょっと偉そうではあるけど、もしかしたらそんなに悪い奴じゃないのかもしれない。僕はクラウスの事をちょっとだけ見直した。
改めて、宿の入口を見る。ここが僕らの初めての旅の拠点になるかは、僕ら自身の手にかかっているのだ。
「……行こう、アロア」
「うん」
そして僕らは、若干の緊張を抱えながら入口の扉を潜った。




