第二十二話 雨上がりの後
……光が治まった時、ゴースト達の姿はどこにもなくなっていた。あれほど激しかった雨も、いつの間にかすっかりと止んでいる。
「……どうやら、助かったようだな」
クラウスが、そう言って深く息を吐く。僕もまた、ほっと安堵の息を漏らした。
「――十五年前の事だ」
サークさんが、おもむろに語り出す。その視線は、あの石の塊に注がれている。
「まだこの辺りにちゃんとした街道が整備される前、ここには小さな村があった。人々は細々と生活していたが、ある日……盗賊の群れがこの村を襲った」
思わず、ごくりと唾を飲み込む。その時の凄惨な様子が、当事者でない僕の脳裏にも映し出されるようだった。
「丁度その日も、酷い雨だったそうだ。村人達は老若男女全員皆殺しにされ、村は廃村となった。けどその直後から、雨の日に村の近くで幽霊を見たという証言が目立つようになった。当時の国王はそれを憂慮し、村の廃墟に慰霊碑を立てた。それからは幽霊騒ぎもぱったりと止み、村の悲劇はいつしか風化し、忘れ去られていった……」
「慰霊碑……」
皆の目が、一斉に石の塊の方に向く。あれは、壊れた慰霊碑だったのだ。
「……でも、何で、慰霊碑が壊れているんでしょう?」
「解らない。偶然雷でも落ちたか、それとも……」
そこまで言うと、サークさんは何かを考え込むように黙ってしまった。そこに重ねて何かを問うのも気が引けて、僕はアロアと神父様に向き直る。
「イーリャ……あんな小さな子まで……」
アロアは今の話に大分ショックを受けたようで、雨に濡れて色を失った唇が微かに震えていた。その肩を、神父様が優しく抱く。
「……きっと皆、安らかに神の御元へ行けた事でしょう。あなたが手伝ってくれたお陰です、アロア」
「神父様……」
「そうだよ、アロア。それにイーリャは笑ってたじゃないか。僕らといる間、ずっと。……大丈夫。きっと救われたよ」
「リト……うん、そうね。そう信じる」
弱々しい笑顔ではあったけれど、アロアはやっと笑ってくれた。それに安堵し、僕はもう一度廃村を見渡す。
もう誰も住む事のなくなって久しい村。魔物に焼かれたタンザ村も、害を為した存在は違えど一歩間違えれば同じ運命を辿っていたのだ。
そう思うと、何だかやるせなかった。タンザ村はまだ復興出来る可能性が残されているけど、この村にはそれもなかったのだ。
「……皆、安らかに眠れるといいね」
心から、僕はそう言った。アロアは僕の目を見つめ、切なげに笑うと言った。
「……うん。そうだね」
雲の切れ間から光が差し、青空が顔を見せ始めていた。




