第二十話 小さな疑惑
僕らは皆で手分けして、ぬいぐるみの捜索を始めた。雨でぬかるんだ地面に足を取られそうになりながら、濡れた草を掻き分けぬいぐるみの姿を探す。
「そう、イーリャって言うの。お父さんとお母さんは?」
「おうちにいるよ。このちかくにむらがあるの」
アロアはすっかり子供――イーリャと仲良くなったみたいで、談笑をしながら一緒にぬいぐるみを探している。その姿が微笑ましくて、僕は思わず顔を綻ばせた。
「……」
ふとクラウスに目を遣ると、地面を見つめたまま何かを考え込んでいる。面倒でサボっているのかと思い、僕はクラウスに近付いた。
「クラウス、ちゃんと探さないと駄目だよ」
「わっ! な、何だ貴様か」
「そりゃクラウスにとってはめんどくさい仕事かもしれないけど、小さな子が困ってるんだよ? 助けてあげなきゃ」
「そうではない! ……少し、妙だと思わんか」
「妙?」
急に周りを気にするように声を潜めたクラウスに、僕は首を傾げる。クラウスは一度ちらっとイーリャに視線を遣り、再び僕に向き直ると話を続けた。
「この街道はラドの町に行く時一度通ったが、途中に村があるなんて話は聞いた事がない。それに、あの子供……何もないところから、突然現れたように見えた」
「それは……」
それは正直、僕も感じていた。最初に辺りを見回した時は、確かに僕ら五人しかいなかった筈だ。単に小さかったから見落としていたんだと、何とか納得しようとしてたけど……。
「……でも、じゃあ、あの子は何なの? どうして僕らに近付いてきたの?」
「解らん。だが、用心するに越した事はないだろう」
「おーい、そっちはあったか?」
サークさんがこちらに振り向いて、大声で呼び掛ける。僕とクラウスは慌てて話を止め、捜索を再開する。
「いえ、こちらには……あ」
返事をしかけたその時、指先が何か柔らかいものに触れた。急いで草を掻き分けると、中に泥だらけのウサギのぬいぐるみが転がっているのが見えた。
「ねえ、リサってこの子かい?」
抱き上げて高々と掲げて見せると、イーリャの顔がぱっと明るくなった。イーリャは僕に駆け寄ると、キラキラとした目で言った。
「リサだ! ありがとう、おにいちゃん!」
「はい、もうなくしちゃ駄目だよ?」
「うん!」
泥を払ってぬいぐるみを差し出すと、イーリャは嬉しそうにぬいぐるみを受け取った。それを見て、心がほっこりと和む。
クラウスはああ言ったけど、どうしてもこの子が悪いもののようには思えない。やっぱりさっきは、イーリャが小さいから見落としてただけなんだ。僕はそう自分に言い聞かせる事にした。
「イーリャ、近くに村がある、そう言いましたね」
「うん」
「どうでしょう、サークさん。雨も止む気配はありませんし、この様子では今日中にガンドルには辿り着けないでしょう。今日はイーリャの村にお世話になるというのは」
「……」
神父様の言葉に、皆の目が一斉にサークさんの方へ向く。サークさんは暫く腕組みして考えていたけど、やがて顔を上げ言った。
「……そうだな。イーリャ、案内して貰えるか?」
「うん! こっちだよ!」
こうして僕らは、イーリャの案内でイーリャの住む村へと向かう事になったのだった。




