第十二話 盗賊のアジトへ
僕を始めとした、町に家族のいない村の人達を保護してくれた宿の人が出してくれた簡単な食事を摂り終える。量はそれほど多くなかったけど、昨日の昼から何も食べていなかっただけにまるで全身に染み渡っていくように感じた。
「これを持っていきなさい。じきに日が沈む。夜の山を歩くには、灯りは必須だからね」
その上宿の人はそう言って、使っていないカンテラと火口箱まで貸してくれた。その心遣いに、思わず涙が出そうになるのをぐっと堪える。
必ず、アロアを助けて生きて帰らなければ。僕の決意は、ますます固くなった。
「ありがとうございます。村の皆をお願いします」
「ああ。この町にはタンザ村……君の村出身の人も多いからね。魔物の事はまだ信じられないけど、困った時はお互い様さ。……気を付けて行くんだよ」
「はい!」
宿の人にお礼を言い、外に出る。空を仰ぎ見ると、夕日が西の山の向こうに沈みかけていた。
「……急ごう。まだ明るいうちになるべく山を登っておかないと」
そして僕は、昨日下ってきた山道をまた登るべく一歩を踏み出した。
町を出て、緩やかな坂道を早足で登る。昨日の暗い夜道とはまるで印象の違う、穏やかさすら感じる道。
けれど、ここからそう遠くない場所にはあの盗賊達のアジトがあって……そこにきっと、アロアもいるのだ。
歩を進めるにつれ、ゆっくりと辺りの闇が濃くなってくる。完全に暗くなる前にと、僕は借りてきたカンテラに火を灯した。
間もなく、矢が幹に刺さった木が道の脇に見えてくる。昨日盗賊達に襲撃されたところまで戻ってきたのだろう。カンテラをかざし辺りを見回すと、何人もの人が通ったのだろう、踏みしだかれた草の跡がそこかしこに残っていた。
……この痕跡を辿っていけば、アジトに辿り着かないだろうか? そう考えるも、不安は残る。
僕は山歩きには慣れていない。森に入った時だって、アロアの後をついていくのがやっとだった。
それでも、と僕は思う。無理を承知でやらなければ、アロアを救う事なんて出来やしない。
覚悟を決め、木々を分け入る。ただでさえ薄暗く視界が悪い中、地面に残る人の痕跡に注目しながら前に進むのは想像以上に難しい。けれど僕は諦めず、注意深く痕跡を探し続けた。
そうして、どのくらい歩き続けただろう。不意に、木々の隙間に小さな灯りが見え始めた。
「!!」
咄嗟に、持っていたカンテラの火を消す。じっと目を凝らし、灯りのある方を見つめるけど灯りがその場から動く事はなかった。
僕は意を決して、なるべく足音を立てないように灯りのある方へと歩を進めた。灯りは次第に大きくなり、それにつれて視界もだんだんと開けていった。
「……あれは……!」
やがて、木々の向こうに切り立った崖が現れた。麓には松明が灯され、二つの松明の間には大きな洞窟がぽっかりと穴を開けている。
松明の灯りを頼りに、洞窟の周囲を探る。洞窟のすぐ側には、それぞれ剣と弓を持った男達が二人立っている。恐らくは、あの二人は見張りなのだろう。
どうするべきか。僕は思考を巡らす。何も考えずに正面から突っ込んでいけば、あの数の盗賊達を一人で相手にしなければならなくなるだろう。
せめて、見張りの気を引ければ……。そう思い、何か使えるものはないかと辺りを見回した時だった。
――ゴォン!!
突然、そんな激しい音が轟いた。音の出所を探すと、遠くの木が頂上から真っ二つになり、激しく火花を上げているのが見えた。
「な、何だ!? 落雷か!?」
「み、見に行こう!」
見張り達も燃え盛る木を見たのだろう、浮き足立った様子でそちらの方に走っていく。今、洞窟の前には誰もいない。
……チャンスだ! そう判断すると、僕は全力で洞窟の入口へと駆けていった。