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蒼月の交響曲  作者: 由希
第三章 世界の決断
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第百十六話 世界の真実

 廊下を突き当たりまで進むと、王様が正面の壁を何ヵ所か順番に押し始めた。押された壁の石は軽く窪み、総ての操作が終わると左側の壁が上に上がり螺旋階段が姿を現した。


「この下に転送陣がある。私はここに残り、そなたらが全員中に入った後で壁を閉じよう」

「ありがとうございました、陛下。『封印の間』は、必ず僕らの手で守ります」

「任せたぞ、リトよ。そなたらに総てを託す」

「――これはこれは。こんな所に隠し通路があったのですか」


 王様との会話の最中に今は聞きたくなかった声を聞き、僕らは後ろを振り返る。そこにはエンプティと、背中から翼を生やした二人のグランドラ兵がいた。


「エンプティ……って事は、下の兵達は囮か!」

「気付くのが少し遅かったですね、『竜斬り』。大量の兵達を城内に送り込めば、目はそちらに行く。その間にゆっくり城内を探させて貰うつもりでしたが……あなた達がやって来て、レムリア王に『封印の間』の案内をさせてくれたのはこちらとしても嬉しい誤算でしたよ」

「ならば、ここで貴様を倒せばいいだけの事! 『封印の間』には、絶対に行かせん!」


 僕らはそれぞれ戦闘態勢を取るけど、エンプティは構えもせずに悠然と佇んでいる。代わりにエンプティの後ろにいたグランドラ兵達が、エンプティを守るように前に進み出る。


「……そうだ、丁度いい。『封印の間』の場所まで案内して頂いたお礼に、あなた達に面白い芸をお見せしましょう」


 するとそう言って、エンプティが二人の兵の背中にそれぞれ片手で触れる。その直後……グランドラ兵達が、凄まじい悲鳴を上げ始めた!


「嫌だあああああ! おでが、おでが消えてなぐなるううううう」

「あだまのながにいいいっ、入ってぐるうううううっ! だすけ、だすげでかあざあああああん!!」

「……っ、『我が内に眠る力よ、雷に変わりて敵を撃て』!」


 地獄の底から聞こえてくるような悲鳴に一瞬意識を奪われたものの、一番最初に我に返ったクラウスが杖から特大の雷を放つ。それは呆気なくエンプティ達三人を飲み込んだけど、雷が過ぎ去った後、そこには飛び出しそうなほど目と舌を剥き出しにして震える二人の兵士が体中から黒煙を上げながら立っているだけだった。


「そら、始まりますよ」

「!?」


 突然真横から聞こえた声に慌てて振り向くと、いつの間にかエンプティが僕の真横に立っていた。やっぱり、エンプティは好きな場所に瞬時に移動出来る力を持ってるんだ……!


「ヴァアアアアアアアアア!!」


 そう思ったのも束の間、まるで断末魔のような叫びに僕の目は再び兵士達の方へ向く。兵士達の筋肉は異常なまでに膨れ上がり、それに耐えきれない鎧が音を立てて方々に弾け飛んでいた。


「もう少し時間をかけて変化させたかったところですが、まあ上出来でしょう。破壊と殺戮の為にのみ生きる、悪魔の兵士の誕生です」

「……! 人間を何だと思ってるんだ! 煌めけ、剣よ!」


 すぐに剣を出し、隣のエンプティに斬りかかる。けれどエンプティの姿はすぐにその場から消え、気が付けば階段の前に立っていた。


「あなた達は精々彼らと遊んでいて下さい。私は私の目的を果たさせて貰います」

「待てっ!」


 身を翻し階段を駆けていくエンプティをすぐに追おうとするけど、そこに剣を構えた兵士だったものが猛然と迫ってくる。僕がそれを迎え撃とうと体の向きを変えた時、ハワードさんが僕の前に飛び出し手に嵌めた鉄の手甲で降り下ろされた剣を真っ向から受け止めた。


「ハワードさん!」

「行って下さい、皆さん! 長年冒険者をやってきた私の勘が告げています、あの者だけは『封印の間』に行かせてはならない!」

「私は既に決めた。総てをそなたらに託すと。なればそなたらの行く道を作る為、戦うのみ!」


 そこに王様も剣を抜き放ち並び、もう一人の兵士だった者と剣を交える。本当に行ってもいいのかと迷う僕に、アロアが僕の腕を引き背中を押す。


「行きましょう、リト! 私も嫌な予感がするの。さっきから感じるこの感覚……ゴゼのいる古城に入った時と同じ……!」

「アロアの言う通りだ。それに奴の正体、さっきの行動で大方の推測はついた。もしこの推測が当たっていれば、奴は絶対に止めねばならん!」


 クラウスもまた、真剣な表情でエンプティの消えた階段を睨み付ける。その言葉に、僕の覚悟は決まった。


「解りました。エンプティは絶対に止めてみせます!」

「行こう! リト!」


 エルナータの僕を促す声と共に、隠し扉の中に飛び込み階段を全速力で駆け降りていく。サークさんが階段の下を炎の精霊の力で照らし、僕らはどこまでも続くような螺旋階段の中先に行ったエンプティの姿を探す。

 やがて螺旋階段は終わりを告げ、一つの広い空間が現れる。そこは石造りの真四角の形をした小さな部屋で、丸い何かの紋章のような模様が床でぼんやりと光り、闇の中に浮かび上がっていた。


「あれが転送陣だ! 一か八か飛び込め!」


 背後でクラウスが叫ぶのに従い、模様の中心に乗る。すると体がふわっと浮くような感覚に包まれ、次いで目の前が激しい光で包まれた。

 間も無く光が収まると、辺りの景色は一変していた。壁には照明が灯され、さっきより一回りほど広くなった部屋を明るく照らしている。そしてその中に……大きな石の扉と、こちらを向いてその前に立つエンプティの姿があった。


「エンプティ!」

「やはり来ましたね。大勢の犠牲の元、その屍を踏み越えながら!」


 こちらを嘲るように笑うエンプティに、強く睨み付ける事で応える。そうせざるを得ない状況を作り上げたのは、誰だと思ってるんだ……!

 僕に続き、他の皆も転送陣の中から現れる。そして全員が揃うと、エンプティが笑みを浮かべながら切り出した。


「私が何故、こうして律儀にあなた達を待っていたか解りますか? 見たくなったのですよ。自分達が守ろうとしたものが目の前で呆気なく失われる、そんな時忌々しいあなた達がどんな顔をするのかを」

「いかにも歪んだ、悪魔らしい思想だな。……そうだろう? エンプティ、いや悪魔エンドラよ」


 それにクラウスがそう応えた瞬間、エンプティの笑みが一層深くなる。顔の上半分を覆う仮面がゆっくりと外され、現れたその目には――白目がなかった。


「ご名答です。いつお気付きになられました?」

「ついさっきだ。人間を悪魔に変える力、そして自在に空間を渡る能力……そのような事が出来る悪魔の記述はこの世に存在しない。だがそれが出来るであろう者ならば、一人だけ存在していたのを思い出した。それが貴様だ。最も強い力を持つ三匹の悪魔のうち一匹、総ての悪魔を統べるという事以外何もかもが謎に包まれた存在……悪魔エンドラ」

「流石博学ですね、人間にしておくのは勿体無いぐらいです。そうです、私は悪魔エンドラ。この世界に作られた、最も古い悪魔」

「作られた……?」


 思わず声になって出た僕の疑問を、エンプティ、いやエンドラは聞き逃さなかった。そして楽しくて堪らないといった風に目を細め、ころころと笑いながら言った。


「そうですね、そろそろ教えてあげてもいいでしょう。この世界の真実をね。……あなた達、何故、魔物はこの世に生まれたのだと思います?」

「それは……蒼き月に神様達が移住した事で、混沌が勢力を増して……」

「ならば何故、神々は蒼き月に移住したのです? 自分達がいなくなれば混沌の勢力が強まると、解りそうなものではないですか?」

「……何が言いたい、エンドラ」


 アロアの答えを馬鹿にしたように質問を返すエンドラを、サークさんが睨み付ける。エンドラはそれにわざとらしく怯えたように体を抱きながら、笑みは絶やさずに続けた。


「神々は、知っていたのですよ。自分達が蒼き月に移り住んだ後、地上に魔物が溢れ返る事を。だって――」


 そこでエンドラは、一旦言葉を切る。そしてその残酷な真実を、僕らに突き付けた。


「そうなるように仕向けたのは、魔物達を地上に放ったのは……他ならぬ、その神々なのですから」

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